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仙田未果(十二)「客間にて」

 未果は二階の客間から、カーテンをほんの少し開けた。外灯の明かりの中、董山さんの車が門を塞ぐように止まっているのが見える。あそこに着くなり董山さんが、仙田家にはいくつもの盗聴器や盗撮器が仕掛けられておりまして、と言葉を選ぶように話し始めた時、心のどこかでそうなのかなあと思っていたからか、そんなに驚かなかった自分がいた。

 すでに仕掛けられている場所を特定していた董山さんが、書いてくれたメモを頼りに、沙友里と二人で寝室、トイレ、お風呂場以外にあったカメラなどを回収し、董山さんが一人で外にあるカメラなどを回収してくれた。

 もう監視しているものはいないということや、曲芸過激団はある意味ちゃんとした団体ですので、というようなことも話してくれていたから、そういう心配はせずにすんだけど、ありとあらゆる場所にあった機器たちに、なんでこんなにあるのに気づかなかったのか、いったいなにを見てきたのか、ホント、自分が情けなくなる。

「心配なの?」

 ベッドに座っていた沙友里が来て、未果が覗いている隙間の上を少し開けて、一緒に外を見る。董山さんは臼井という人が来るまで門番をしているからと言っていた。

 未果は沙友里の言葉に首を振り、「心配はしてないよ」と未果の横に来た沙友里をやや見上げる。「盗聴器とかね、いっぱいあったなあと思って」そんなに驚かなかったとはいえ、「実際裸とか」してるとこ「見られてたら、いろんなことが重なって、気が変になっちゃってたかもしれない」

 沙友里は横から、未果をキュッと抱きしめた。「私もあんなにあるとは思わなかった。それだけ情報管理が徹底されてたんだろうね。よかったね、なくて」と未果を抱きしめる沙友里から、未果を宥めようとしてくれている感じが伝わってくる。

「あのさ、未果」急に畏まるような感じで正面を向き、未果の両腕を掴んだ沙友里は、いつになく真剣な眼差し。「董山さんたちが理を保護してくれたら、未果はそのあと、理とどうする気?」

 どうする気? といつになく真剣な眼差しの沙友里から言われて、さっきまで思っていたことが、全然出てこない。なんだっけ、幻滅している理と未果はどうしたいんだっけ……。そうだ。

「……理ときちんと話をして、別れたいと思ってる」

 未果の両腕に手を添えるだけのようになった沙友里は、ホッとしたような表情を浮かべた。

「まさか別れないみたいなことを言ったらどうしようかと思ってたから、よかった」

「まさか」未果は胸の辺りを押さえる。「ずっと嘘を吐かれてきたんだよ。もう信じることはできないんじゃないかなあ」

「じゃないかなあ、って。あー心配だなー」沙友里は自分の長髪をぐちゃぐちゃっとして、未果の両腕を強く掴んだ。「未果、理とちゃんと話すことは大事だよ。だけど、理と対面しても、ちゃんとその姿勢保てる?」真剣な表情の沙友里が、眼光鋭く未果を見てくる。「理が、『俺よりもその探偵を信じるの?』って言ってきたらどうする? 理のこととか盗聴器とか、全部あの探偵の自作自演なんだよとか言われたら、理を信じてしまわない? 未果、目を覚ましてくれって説得されて、今までのこと全部なかったことにされて、なにも変わらず、また一緒に暮らし始めてしまうことだって充分にあり得る。董山さんたちは未果のために充分尽くしてくれると思うけど、肝心の未果がもう大丈夫だと言えばそれまでになってしまうと思うし、私も探偵という仕事をしてきて、それなりにそういった事例をいくつも見てきた。夫に叩かれ青あざいっぱい身体に作って、もう耐えられないと逃げ出して、それでも暴力夫がごめん、もう絶対しないからと涙を流して謝ったら、逃げ出した妻はごめんなさい私が悪かったのと涙ながらに謝って、何事もなかったかのようにまた一緒に暮らし始める。そして、今度は暴力夫からさらに激しい暴力を受けるようになる。未果たちのパターンとは違うけど、矛先が未果になる可能性だって充分あり得る。理に会わずに、離婚を進める方法だってあるんだよ。警察や弁──」

 ピタッと話すのをやめた沙友里の握力が弱まり、鋭かった眼光は下を向いた。「……ごめん。おせっかいに突入する所だった」と消沈した沙友里は未果の腕を放し、肩を落とした感じの背中を向け、またベッドに座った。

 未果は、俯いて座っている沙友里の横に座って、「ありがとう」と今度は未果が沙友里をキュッと抱きしめる。未果のことを本気で心配してくれる友達がいて、幸せだよ、と。

「……未果。あいつを一発はたいてもいい?」

「うん。いいよ」沙友里だから許す。

「……ごめんね、理みたいなの紹介しちゃってさ」

 なに言ってんの。と未果は沙友里の身体を横に揺らした。

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