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董山曇(六)

『大』のボタンを押し、シャワーのボタンを押して、尻を洗浄する。ふー。

 あー。あんなにさびしがっていてくれたとは。くっそー。絶対に漏らすなよ、漏らしたら絶対抱けなくなるぞ。と自分に言い聞かせるのに精一杯で、未果さんの不随意細胞をちゃんと聴くことができなかった。

 でもまあ別れることでさびしい気持ちに気づいたわけだから、プラスになっていると言ってもいい。チャンスはまた来る。絶対抱いてやる。と董山はトイレットペーパーでケツを拭き拭きし、うんこがついていないことを確認して、『大』をまた押して流す。

『力』の継承は、やはり関係なかった。それよりも、下界の食べ物には身体に悪いものがけっこう入っていると言ってもいいのかもしれない。

 股引きズボンを穿いて、トイレの個室から出ると、ん? ぼっちゃりがギリギリな体型の後ろ姿に、頭の薄い感じの奴が一人、小便器の前に立っている。

「おお臼井」

 と声をかけると、ビクッ、と最後の一滴を振り絞っていた臼井が反応した。「なんや曇さんすか」と声でわかったのか、「驚かせんといてくださいよ」と顔を横に向けながら言った。

「わるいわるい」

 董山は手洗い場に行って手を洗う。

 最後の一滴を振り終えた臼井が隣の手洗い場に来ると、「曇さんからの指令、やっておきましたぜ」という臼井と鏡越しに目が合った。

 は? ……ああ、と董山は痛みでかすっかり忘れていたことを思い出した。〈ファミレスにいる高級スーツの男とシャツのボタンを開けすぎの男が出てきたら頼む〉と、追加で、〈地下で眠っている五人を頼む〉と送ったんだった。

「おおサンキュウ。さすが仕事早いな」マジで。

「いやいや」

 臼井は視線を外し、照れながら手を洗っている。個室から董山が出てきたことはさすがにわかっているだろうから、もしかして曇さん、お腹が。となる前に、まだ連絡していなかった、未果さんに調査結果を報告したことを簡潔に伝え、現状も伝え、

「それを鈴架にも伝えておいてくれ」

 と鏡越しに言い、そういえばケータイを見た時に、なんだこのクソ痛い時にと鈴架から通知が来ていたことも思い出す。確か侵入したとかだった。

「りょうかいっす」

「俺は久々の娑婆でちょっと疲れた」耳が少々どころじゃなく怠い。「から、一旦事務所に帰って休ませてくれ。しばらく安定期だろうから」董山は手をパッパッとして、ガーっと手の乾燥機で手を乾かす……。鈴架にはある程度の情報を朝伝えておいたから、昼寝のあとぐらいには理を保護できているかもしれない。ゥウーンと乾かし終えると、

「そないしたら、僕は来迎堂にあいつらをしまっておきますわ」

 と臼井も手をガーっと乾かす……。終わった臼井に、

「じゃあ頼む」本当は仙田未果と休むはずだったんだが。と引き摺っていてもしょうがない。「今度は骨のある奴が来るといいんだが」と董山は期待を口にする。

「充分骨ありましたけどね。曇さんが強過ぎるんすて」

 ずっと長らく修練してたんだ、そうじゃなくちゃ困るが、「今度もまたへなちょこ一般人だったら、端折って団長を仕留めに行ってやる」

「それはあきませんて。なんの解決にもなりませんよ」

 旦那。という感じで臼井は言った。

「解決? まあ。確かに。そうだな」

 と董山は臼井と一緒にビルのトイレを出る。


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