砂の城
小説喫茶企画『イラスト小説12選』6月参加作品です。
砂漠にそびえたつ砂色に染まった城。その城下に広がるオアシスは、繁栄していた。
乾燥している空気の中で、白い砂埃が立ち込める。
そんな事は日常茶飯事のためか、気にするでもなく人が多く行き交い、様々な露店を出している商人たちが、威勢よく近くを通る人に声をかけている。
そんな中で、フードを目深にかぶり、砂避けのため目から下も白いスカーフで覆っている女が、楽しそうに店を見て回っていた。
「お! ねーちゃん、新鮮な野菜だよ! どうだい?」
「うーん。よくわからないから、いらないわ」
美しく深い海の色を湛えた瞳を細めて笑い、声がかけられるたびに断っていく。
今日のお目当ては、瑞々しい果物でも、とろけるような甘い菓子でもない。
ここかしら? あちらかしら? とはやる心を抑えながら、誰に見られているわけでもないのに、ただ遊びに来たのよ、とばかりに関係のない店に目をやって。
そして、一つの店の前で足を止めた。
「ごめんくださいまし」
震える声は、不安や恐れではなく期待が大きすぎるため。
ひっそりと座っていた黒いローブをかぶった、商人には不向きにも見える精悍な顔つきの無精ひげの男が、小さく顔をあげる。
睨みつけるように、値踏みするように目の前に立つ女を見て、乾いた唇を動かした。
「何をご入用で?」
低くしゃがれたその声に、女はさすがにためらったが、興味のほうが勝ったのだろう。勇気をふりしぼり、彼を見つめ返す。
「こちらに、不思議な生き物を取り扱っていると耳にしましたの」
「うちはソレが専門でね。そんな物、山のようにある」
くだらない事を言うなとばかりに、背を壁につけ、フードを目深にかぶり直し、拒絶を表した。女も目当ての物を手に入れるためには、ここで怯むわけにはいかなかった。
「私の目当ては、人魚ですわ」
挑むように美しい瞳で男から視線を外さず、スカーフ越しとはいえ、透き通るように響く声ではっきりと言い放つ。
少し驚いた顔をした男だったが、すぐに苦笑した。
「何がおかしいのです。こちらにあるのでしょう? そのように聞いているわ」
「……お前さんが、警備兵の回し者じゃないと、どうして言える? 新顔は信用しない性質でね。それに、もう店じまいだ。帰れ」
「そうはいきませんわ! やっと……やっと巡り合えそうですのに、手ぶらで帰れるものですか!」
白い手を胸の辺りで握りしめ、女は口元に巻いていたスカーフを外した。美しく結い上げた金色の髪がのぞき、花弁のような赤く染まった可憐な唇が露になる。強気な顔をした、美しい少女が不敵に笑った。
「私はデシエルト城の第三王女、メーアですわ。それでも売っていただけなくて?」
フードのすそから目をのぞかせ、口をあんぐりと開きかけたが、男は口元を隠してくつくつと笑い始めた。
「な、何がおかしくて?」
「いやなに。俺がそんな罠にはまるほど、馬鹿じゃねーって事だ。姫さんが一人でのこのことこんな所に顔を出せるわけがないだろう? 俺を騙そうなんて、いい度胸だな。売られたいのか?」
「一兵団を引き連れてきたら、信じてくれますの?」
腹を抱えて笑い出した男に、メーアが美しい瞳を冷たく光らせて、恐ろしい言葉を口にすれば、男は笑いを引っ込めて剣呑な雰囲気をまとわせた。
「連れてきやがったら、草の根をかき分けてでもお前を探し出して、考えも及ばない場所に売り飛ばしてやる」
「では、信じなさいな。それしかあなたに道はありませんわ。それに……」
もったいつけるように言葉を切り、怪しく笑う。
「あなたも商人に違いないのでしょう? あなたの言い値で支払えるだけの財力が、私にはあるのですよ? いかがかしら、決して損ではないと思いますけれど」
訝しがりながらも、男は本心を探るような目を向け、しばし考えたようだった。
しかしついには口の端を持ち上げて、メーアに応じた。
「人魚の、何が欲しいんだ?」
その言葉に、彼女は瞳を輝かせる。
「人魚ですわ。男の……この場合はオスとでもいうのかしら、とにかく男の人魚がいるのでしょう?」
「どっから聞いたんだか」
男はおどけるように肩をすくめ、並べてある怪しい瓶詰めには目もくれず、薄汚れた麻袋に手を突っ込んだ。
まずメーアに手渡してきたのは、手の平サイズで小振りの丸水晶だった。傷が入っているのか、まったく透明度がなく、価値は見出せない。
形の良い眉をひそめ、一応受け取った彼女は、不満な顔を男に向ける。
「これは、何の冗談ですの?」
「冗談じゃねーよ。これはな、人魚の持ち物さ。それを持ってさえいればな、こいつが言う事をなんでも聞くぜ」
そう言って、勿体つけながらガラスの箱を彼女に見せた。
十センチ四方の箱には、開いている場所はなく、継ぎ目はにかわで固められている。
メーアの心は、ガラスの箱なんかではなく、その中にいる『彼』に釘付けだった。
ガラス内は液体で満たされており、彼の艶めく黒髪がうねるようにたゆたっている。
無表情に近い顔は白く、深く沈んだ黒い瞳は焦点が合っていない。
力なく下におろしている左手には、紋様が刻まれた杖が握られている。
「こんなに、小さいの?」
抱えて砂で汚れたマントで覆えば、わからないほどだ。メーアが怪訝な顔をしても、仕方がないだろう。
「なんでも、どこぞの魔女が封じ込めたとかでな。実際の大きさなんざ、知る奴はいないだろうよ」
「そう」
それでも興味は薄れることなく、液体の中の彼と視線を合わせようと身を屈めれば、彼は何も持っていない小さな右手をメーアに伸ばしてきた。
「何かしら」
『返して――くれ』
頭の中に響いてくる声に、メーアが歓喜の悲鳴をあげた。
「まあ! 意思の疎通が出来ますのね」
「ああ、だがな。そのガラクタに近い水晶を、箱に触れさせたら駄目だぞ。あとどんな理由であれ、外側から箱に水で濡らす事も駄目だ。エサもいらん」
「私に指図をする気?」
箱の中の彼から目を離し、黒ずくめの男を冷めた目で見やれば、ひょいと肩をすくめて見せる。だが、その目は真剣だった。
大きくため息をついて、メーアはスカーフで箱を覆い隠した。
「まあいいわ。それで? 他に何かあって?」
「もちろんだ」
男が笑い、ごつごつした手をメーアに向けて差し出した。
メーアは、機嫌良く袋に入れた金貨を握らせる。
「多めに入れておいたわ。これで人魚の事は、忘れなさい」
「毎度。見ず知らずの、お嬢さん」
袋の外側から手触りを確認し、いやらしく口の端を持ち上げて笑った。
大切に、大切に箱を抱きしめて。
メーアは城に戻った。何かを持ち込んだ事は、誰の目にも明らかであったが、無断で城下に降り買い物をする事が日常だった彼女に、苦言を呈するものはいない。
自室に戻り、陽の当たる窓際に箱を優しく置いた。胸を躍らせてスカーフを取れば、先程と変わらない彼が、澱んだ瞳でまた手を差し出してくる。
『返してくれ』
「返そうにも、前面ガラス張りよ。あきらめなさいな」
そう言えば、彼はうつむき手もゆっくりとおろされた。
夢にまで見た人魚が、目の前にいる。そんな事実に、メーアは愛しさを感じていた。
水晶は返せなくとも、何かしてやれる事があるはずだと、笑顔で語りかける。
「そんな事よりも――私はメーア。あなたの名前は? これからずっと一緒ですのに、名前がないのは大変だわ」
少し待ったが、うつむいたままの彼は、一向に動く気配がない。声もしない。
「ねえ? あなたと友達になりたいのよ。友達、わかるかしら? 仲良く、何でも話し合えるような……」
『人間は吐き気がする。語らうべき事などない』
「そんな! 人間にだって、色々な種類があるのよ。あんな商人と一緒にしないでくださる? 私はあなたを大切に出来る財力も権力もありますわ」
胸を張って答えるメーアに、彼は顔をあげた。
美しく整った彼に見つめられ、思わず笑みがこぼれる。
「わかって、いただけたようね?」
『お前は、何が望みなのだ』
「あなたと共にいる事よ。その手始めに、名前を伺っているんじゃありませんか」
メーアの言っている意味が分からなかったのだろう、漆黒の髪と同じ色の眉を寄せた。
『アズラウだ。今までも様々な人間の願いを叶えてきた。お前の望む物、全てを叶えてやろう。金か? それとも星の輝きを散りばめたドレスか?』
「いらないわ。欲しい物は、自分で全て手に入るから」
『……ならば、なぜ我を手に入れた。欲を満たすが為だろう』
アズラウの言葉に、メーアは当然とばかりにうなずいた。
「決まっているではありませんか。人魚という世にも珍しい物を、他人に奪われたくなかったからですわ。私のコレクションでしたら、苦労もさせませんし。城に住めるなんて、アズラウも嬉しいでしょう?」
『我の住処は、広大なる海に他ならない。人間の住処など、どこでも同じ事』
さらりと言ってのけるアズラウに、青い瞳を大きく見開き悲鳴をあげた。
「同じだなんて! あんな砂まみれの食べ物を平気で売り買いして、しかも食べている人達と一緒にしないでくださる?」
『人間に興味がないのだ。気分を悪くしたのなら、謝ろう』
ひたすらに何の感情をあらわさない彼に、メーアが鼻を鳴らした。
「当然ですわ。まあ人魚には地位など分からないのでしょうから、仕方のない事なのでしょうけれど」
『この場において、我の存在理由は、欲を叶えるほかにはない』
「アズラウがいてくれるだけで、十分だと言っていますでしょう?」
きっぱりと告げるメーアに、アズラウはただ疑いの眼差しを向けてくるだけだった。
ある砂の吹き巻く日。
薄茶色に染まった外界を、ガラスを隔て見るメーアに彼が声をかけた。
『砂嵐を、止めてやろうか』
大きな目をさらに大きくして、メーアは不思議な箱を見ては、首を横に振る。
「自然の致す事柄を、一人の人間が逆らってはいけないのよ。それに、アズラウがいてくれるから」
その言葉に、アズラウは黙らざるを得なかった。
そんな彼を見て、メーアは目を細めて笑う。だが小さな彼にとって、その表情は見た事のない種類のものだった。
喜びでは決してない。憂いを秘めた作った笑顔。
砂が窓を叩き、音を立てる。すぐに彼女は表情を普段の物に戻し、また窓へと視線を向けた。
そして、またある茹だるほどの暑さの日。
彼女の金色の髪をいつものように結い上げて、出て行く侍女。入ってきてから出て行くまで、一切の言葉がメーアにかけられるわけでもない。
幾日か立って、ただ見ているだけの時間を過ごしているアズラウの目にも、違和感が残るようになった。
どこの場所に引き取られても、人間どもがいる場所には、何かしらの言葉が存在していた。怒り、笑いなど、どんなに静かな所であっても、何かしらの言葉は発せられている。
だが、彼女の周りにはまったくないのだ。メーアも口を開くわけではない。人間のエサも運び込まれるが、そこにも声は聞こえてこなかった。不思議に思いつつも、声をかける。
『他の人間に、言葉を与えてやろうか』
またしても驚いたように顔を跳ね上げたメーアは、大きく首を横に振った。
「いいえ、いらないわ。心配してくださるの?」
『望みを叶えてやろうと言っているのだ』
表情を変えないアズラウに、メーアはまた複雑な笑顔を向ける。
「そんなの、望んでなんかいないわ。私は第三王女なの。政略結婚の駒でしかないわ。私など生きてさえいればいい、そんな考え方しか出来ない人間と、話などしたくもありません」
彼女の瞳に、荒ぶる海の色を見たアズラウは、息をのむ。
猛々しく荒れ、そうかと思えば穏やかに凪ぐ海をメーアの中に感じて、いつも以上に表情を険しくしたアズラウは、奥歯を噛みしめた。
そんな日々を過ごしていると、どうしてもメーアに欲が生まれてくる。
つっけんどんで、自分とは違う考え方をしているアズラウと話すのは、とても楽しく新鮮だった。彼と語らうたび、液体の中でうねる黒髪に触れたくなった。狭いガラス箱の中、取り替えられる事のない液体の中よりも、砂を避ける為に中庭に造られたのびのびと身体を伸ばせるだろうプールで泳がせてやりたくなったのだ。
水晶をねだらなくなったアズラウが、ときどき窓の外を眺めては思いを馳せている仕草を見るたびに、メーアの心が痛む。
「ねえ、アズラウ。海が、恋しい?」
どんなに話をしても、一定の所までしか心を寄せないアズラウに、少しばかり嫉妬じみた怒りを声に乗せた。
『当然だろう。ここは砂が吹き荒れる光景ばかりで、心が乾く』
「そう、よね。身体をいっぱいに伸ばして泳げたらとか、思ったりもするのかしら」
いつもと違う雰囲気を感じたのだろうか、深海の暗さを湛えた瞳がはっきりとメーアを捉える。
『いつだって』
彼の返事に、心が揺れた。
こんなにも砂にまみれている場所だ、人魚の彼が逃げられるはずもない。それに外に出してはいけないとは言われていない。
「中庭にプールがありますわ。外に、出してあげましょうか?」
『……何が、望みか』
思いもよらないためらいがちの言葉に、アズラウが声を固くした。
「望みだなんて! 嫌なら構いませんのよ?」
『ああ、すまない。今まで誰もそんな事を言った人間がいなかったのだ。だが、何故?』
「それは……大切な友人が、難儀しているなんて許せないだけですわ」
真っすぐに見つめてくるアズラウから、恥らうように視線を外し、メーアは頬を染めた。
広い部屋に、いたたまれない空気が流れてしまったが、どうなのです? ともう一度強気に聞き返して振り返った。
買ってこの方、見た事のない表情を浮かべているアズラウ。
その笑顔に完全に魅了された彼女は、落ち着きなく綺麗に結い上げられている金髪に手をやった。
『ここから、出られるのか』
「ええ、お待ちになって? 何か壊せる物を探してまいりますから」
『その水晶を触れさせるか。水をかける事でしか、この牢は破れない』
その挑みかけるような声にメーアは肩を震わせ、小さくふくよかな唇をかみしめた。
「でも、それは……」
『メーアの望みであっても、これだけは我にはなんともならないのだ』
青い瞳を覆い隠すように目を閉じ、苦悶の表情を浮かべる。
してはならない。と言われたからには、それは彼を永遠に失う事に繋がるのではないか。という危惧もあった。
『メーア』
彼の、低く甘いその声が、メーアの心を絡めとる。
身体中から力を奪い、うなずいてしまいそうになる衝動に耐えながら、メーアは力なく首を横に振った。絶対に、失いたくない。
アズラウがガラス箱の中から手を苦悩するメーアに向けて伸ばし、ガラスに触れた。
つられて震える指先を、外側から彼の小さな手の平に合わせた。心がついてこなくて、メーアは一粒の涙をこぼした。
「ごめんなさい。私には、どうしても出来ませんわ」
『メーア』
すでに彼女の中で甘美な物になってしまったその声は、心をつかんで放さない。
小さな子供がダダをこねるように激しくしゃくりあげながら、ガラス箱を抱きしめ、彼女は葛藤した。ごめんなさい。と何度も呟き、涙した。
一滴の涙が、箱を潤した。
アズラウは、この時を待っていた。歓喜の声をあげて、箱を突き破る。
封じ込められていた海水がとめどなく溢れ、ついには城の窓という窓から海水が溢れ出た。
メーアが悲鳴をあげて、しっかりとした造りのベッドにしがみつく。
「メーア。水晶を我に」
小さかった彼は、いまや数倍も大きく、たくましい。
ガラス越しではない、実際に耳にした言葉の魔力に、彼女は逆らえるはずもなかった。
熱にうかされたような顔で、戸棚にしまっていた傷だらけの水晶を彼に差し出す。
これでもう、彼とは会えなくなる事を知っていたのに、メーアにはどうする事も出来ない。
「アズラウ、行ってしまうのね」
海と同じ色をした瞳から、涙が溢れてやまない。その瞳を真っすぐアズラウに向けながら、メーアは言った。
「私は誰からも相手にされず、存在しないかのように扱われてきました。このまま朽ちてしまうのならば、そんな未来は欲しくない。だから――」
「メーア、やめろ」
焦燥に駆られたアズラウが表情を硬くする。
「人間が嫌いなはずの、あなたのそんな顔が見られるだなんて、おかしいわ」
涙声で、それでも小さく笑い、メーアは覚悟している顔をしていた。
「あなたがどんな事をしないと生きられなかったか。知っているわ。だから……だから私の願いも聞いて欲しいの」
最後に。と、そう付け加えれば、元々白い肌をしたアズラウが、さらに蒼白になる。
「人間の私が、海の中ではあなたと共には生きられない。だから私を、ずっとあなたのそばにいさせて欲しいのです」
細い手を、彼に伸ばす。
彼を動揺させる事が出来たという事実に、メーアは幸せそうに笑った。
そのまま、微動だにしない彼を抱きしめる。
「お願いよ。私の魂を、あなたにあげる。そうしたら、ずっとそばにいられるでしょう?」
「駄目だ。メーアは、誰よりも幸せになるのだ」
「アズラウのいない世界など、私には生きている価値などありません!」
壊れていく彼女の心に、アズラウは歯噛みした。
開放されている今、人間の魂を奪わずとも生きていける。短い期間ではあったが、強く在り続け、人間の愚かさに耐えながらも素直に生きる彼女が、眩しく思った事もある。
そんな彼女に、アズラウは身動きが取れずにいた。水分が急速に奪われる感覚に、彼女を引き剥がす。
「メーア、約束しよう。またきっと会いに来る。それまで、メーアお前の強さを我が杖に貸せ」
その声と同時に、杖に取り付けられた水晶がメーアの美しい瞳と同じ色に染まった。
「我の色を、そなたに捧げよう」
黒の瞳がメーアの薄れていく瞳の色に移される。
灰色に染まった四つの瞳は、約束された証。
「必ず、迎えに来るぞ」
アズラウは力強く尾ひれで水面を叩き、窓から身を躍らせた。
悲鳴をあげ、窓際まで水をかきわけて進み見下ろせば、砂の都と呼ばれていた場所は消えていた。
太陽にきらめく水面が、一面に広がっている。年に数回起こるスコールで、大洪水になる事はあるが、ここまでの光景は見たことがない。
甚大な被害に、民衆は大騒ぎしているようだった。屋根にのぼる者、小高い砂山へと身を寄せ合う者。
「これが……海?」
愕然と眺めるしかないメーアだったが、遠くで一際大きくあがった水しぶきに、灰色に染まった目を細めた。
「約束よ、アズラウ」
砂漠の民は、過酷な状況に強い。今が辛くとも、乗り越える術を自分で見つけられる。たとえどうしようもなくて、気落ちしたとしても、メーアはいつだって一人ではないのだと鏡を抱き寄せる。変わってしまった瞳を、いつでも愛しく見つめて。
読んでくださって、ありがとうございました!
甘さを求めたかったのですが、やはり難しく。
もっともっと頑張ります。