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第66話 旅の終わり

 白い炎は、地獄の底をゆっくりと灼いている。その熱で汗が滲んで、一滴が右の耳の穴へと吸い込まれた。瞬間、ぼんやりと鈍い音が聞こえ始める。微かだが、クロウが何かを言っているようだ。



「……ヒナとセシリアには、悪い事をしてしまったと思ってる」

「なに?」

「多分、あいつらはお前と同じなんだ。きっと、俺が死んでしまった後でさえ、それだけを抱いて溺れてしまう。彼女たちにそうさせてしまった責任を、今になって感じる」



 震えているのは水滴の振動によるものなのか、クロウの声色なのか。それは分からない。



「……重いな」



 そして、突如下から巻き上がるように魔力が噴き出した。当然、それは本来人が認識できるようなものではない。クロウが持つ圧倒的な量によって、空気を歪めているのだ。



「何を言い出す。我々悪魔は、魔王様がいなければ喜びも悲しみも得ることはなかった!」

「アカネは、本当は俺が心配だったんだろうな。シロウやキータと違って、不安定で責任を知らない俺を放っておくことが。本当に、ありがとうとしか言えないな」

「従うことの何が悪いか!縋ることの何が悪いかッ!尽くす事の喜びを知らぬ貴様が、それを受け止める力の無い貴様が!我々の想いを軽々しく……」

「だから、決めたよ」



 俯いて、一瞬だけ俺を見る。会話が噛み合わずブランドの言葉に食い入るように答えているのは、恐らく何も聞こえていないからなのだろう。



「お前を殺す。そして、あいつらごとこの世界の未来を背負う」

「戯言を抜かすなぁアァァァァッ!!貴様のような湧いて出たような者が……」

「世界は、俺()()が守る」



 ……。



 剣を引きずって、ゆっくりとブランドに向かう。それを迎え撃つ為の攻撃は、もはやこの地獄を壊しても構わないという覚悟を秘めている。怒れるように生える太い角と空気を震わせて生まれた紫電が、胸の前で向かい合わせるように構えた手の間に吸い込まれ、空気の渦と雷が反発し結合し、破裂寸前の透明な雷雲を作り上げた。



「これがプラズマだ!科学の粋を結集したこの力を、貴様らに防ぐことが出来るか!!」



 黒い炎を吸収し、吸い上げた周囲の機械も破壊し、鉄の破片までも高濃度に圧縮すると、紫電は勢いを増してけたたましく乾いた音を響かせる。やがて、抑えきれずに空気に伝うほどのエネルギーを押し込んだ時、ブランドは再び咆哮を上げて業火のプラズマを解き放った。



「……セイクリッドバスター」



 そう呟いたとき、鈍い銀色のホーリーセイバーが輝き出す。その色を見たからか、アオヤ君はモモコちゃんの身体を抱え後方へと飛び立った。



「俺は、この世界最強の戦士、クロウだ」

「終わりだッ!!このミジンコ共めがぁァァァァッッッ!!!」



 雷轟。しかし、その攻撃はクロウが振り抜いた剣の一撃によって四散。後に訪れた衝撃波がすべてを吹き飛ばす。

 ホーリーセイバーは、光を放って砕けた。欠片は散って広がったが、周囲の風は一点に吸い込まれていくように静かに、そして速やかに動きを変えていく。



「キータさん、ありがとうございます」



 アオヤ君の言葉の後、彼を踏み台にして宙に躍り出るモモコちゃん。すぐさま、聖なる炎がホーリーロッドをの宝玉に召喚される。風に乗ったホーリーセイバーの欠片を吸い込んだとき光は極限に達して、それを操る彼女の姿は真っ白で神々しい天使のように見えた。



「まだだ!!我々が貴様らなんぞに!!負けるハズがないんだぁぁぁぁ!!!」



 体内で生み出したのか、目から細長い光線をモモコちゃんに放つ。しかし、貫いたのはそこにある偽りの形。俺たちの、白い幻影(ホワイトミラージュ)。スキルを通して、あの心から信じられる声が、確かに聞こえてきた。



――ブチかませ。



「セイクリッドプロミネンスッッ!!ウォラァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」



 止めどなく溢れる聖なる炎は、悪あがきの紫電を躊躇なく飲み込み、中心に向かって渦を巻く。熱によってパチッと、耳の中の水が蒸発したのが分かった。



 もう、音は聞こえない。耳鳴りだけが俺の意識を支配して、見えている景色すら錯覚なんじゃないかって、そんな気分に陥ってくる。しかし、とうとう炎が燃え尽きて、そこには何も残されていないことを目の当たりにしてから、ようやく全てが終わったことを実感した。



「……じゃあ、帰ろうか」



 ただ、それだけ。余韻に浸ってる暇が無いことは、まもなく炎に沈むこの場所を見れば明らかだった。

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[気になる点] >従うことの何が悪いか!縋ることの何が悪いかッ!尽くす事の喜びを知らぬ貴様が、それを受け止める力の無い貴様が!我々の想いを軽々しく…… 本当に魔王さまはソレを受け止めきれてたかどうか…
[気になる点] 戦闘描写、上手いd( ̄  ̄)ぐっど
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