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第61話 その先の世界へ

「勇者は、我を失っている!この好機を逃すなッ!」



 あの堕天使の言葉と、シロウさんへの恐怖の間に生じた一瞬の硬直を狙って、武器を弾き飛ばすスキル、ブロフアローをホーリーランスに放った。地面を離れた槍はアオヤ君の手に戻る。そして、シロウさんに斬りかかった悪魔を迎え撃つその刹那、アオヤ君はシロウさんを庇うように悪魔を串刺しにした。



「……レッスン1。前衛は、敵のヘイトを集めるべし」



 言って、さらに繰り出される攻撃を交わすと、アンカーボイスで自分へ視線を誘導した。効果はかなり薄いが、それでも僅かに注意が逸れたのだ。



「シロウさん、熱くなっちゃダメっすよ。そう教えてくれたの、シロウさんじゃないですか」

「熱くなろうがなかろうが!テメェらはここで死ぬんだよ!!」

「……ッ!?」



 閃光。レヴァスの致命の一撃は、アオヤ君の胸を貫いた。



「わかってんだ!これは、どうせ幻影だろうがァ!!」

「レヴァス!後ろだ!」



 振り向いたその先には、身を挺してレヴァスへの攻撃を防いだ悪魔と、槍を掴まれて逃れられないアオヤ君。踏み込んで粉塵を巻き上げ、再び一直線に斬りかかる。身を翻して躱す。



 轟音。別方向から、弾丸の雨がアオヤ君へ向かう。レヴァスが、剣を振り抜いてそのまま投げる。切っ先が、頬を掠める。アオヤ君に迫っていた弾丸を防いだせいで、シロウさんはその剣を弾きそこなった。



「狙っていたのは、俺だったか」



 腹から、臓物が飛び出している。更に追撃の弾丸が、五発体を貫く。噴き出した血が蒸発して、周囲に煙となって広がった。



「……あ」



 モモコちゃんが、思わず手を伸ばす。しかし、その炎も悪魔が壁となって止めた。だが、この瞬間にラインは整った。誘爆させれば、今は無防備な堕天使の元へ攻撃が届くだろう。そうすれば、後は簡単だ。モモコちゃんの力で、悪魔を焼き払えばいい。



 ここにある命を、差別するな。アオヤ君もシロウさんも、覚悟を持ってここへ来た。どちらかを見捨てれば、この戦いを終わらせられる。レヴァスの注意を引いているのは、アオヤ君だ。ならば、最大効率を求めてやるべき行動は。



「その槍使いを見殺しにすることだろう!?それとも、死にゆく勇者を回復して時間を増やし、そいつに賭けるか?さぁ、弓使いよ!選べ!俺か、そいつらか!」



 堕天使が挑発し、それを聞いたシロウさんは一目散にアオヤ君の元へ向かう。ぶら下がった腸をちぎって、絞った血を目に飛ばしたが、それでもレヴァスは止まらない。開いた瞳孔は、いつの間にか情けないくらいに優しくて。失うことを、心の底から恐れていた。



 堕天使は、自分に攻撃が来ると予測しているようだ。後衛の2体をを集めて、爆発から身を守ろうとしている。再生以外の術を使えないんだから、当然だ。どこか俺と似ている。ヤツもそう思ったから、俺が殲滅を優先すると、そう思ったんだろうか。



 ……不思議だ。全ての動きが、スローモーションに見える。



 もしかして、ヒマリもこんな感覚だったのか?こんなに危険な状況なのに、まるで戦場を俯瞰しているようだ。全ての存在が、何を考えているかまで、手に取るように分かる。心臓の音は、一定のリズムを刻んでいた。



「……視点を、変える」



 アルケーは、目の前にある形。アトムは、形を司る要素。その存在を疑うことで、ヒマリは次のステージを知った。だけど、それは最初からそこに()()()モノを観測したに過ぎない。つまり、観測者は自分だ。



 これは、一体誰の視点だ?明らかに、この世界に存在していない場所から、俺は俺たちを見ている。その体験は、ますます俺を謎に引き込んでいった。



 そこにあるのは、一体何だ?この景色を認識する、確かにあって、この世に存在していないモノ。形がないのに、世界を構築しているモノ。



「……意識だ」

 


 ならば、やはりこの景色を見ているのは俺だ。俺が、この景色を観測している。それが出来ている理由こそが、謎の鍵を握っているんだ。



「動かないとは血迷ったか!だが、もう遅え!!」



 原因だ。スキルは、要素を組み換え、顕現させる原因。ならば、そこに意識を組み込むことで何が出来る?意識を向けることで、一体何を変えられるんだ?

 俺に出来る事は、今も昔もそれだけだ。今あるモノを、疑う事だけ。弱者に残された、最後の一手。閃く事も、振るう事も出来ない、何者にもなれない者に唯一残された、自分が傷つかない為の処世術。俺は、今までもずっと、そうやって生きて来た。他人と違う何かを考えて、それでも見つからなくて。だから、他人が産み出したモノを羨んで、ただそれだけをしてきた。それでも残った今にすら、一つの疑念が生まれたんだ。だったら。



 常識すら、疑え。



「終わりだァ!死ねェッ!」

「アオヤぁアァァァァァァァッ!!」



 シロウさんの叫びが、この広い部屋に木霊する。だが、レヴァスが爪で斬で切り裂いたのは、何もない空間だった。



「なん……」



 更に、矢を射ってから、シロウさんの時間を増やす。そして、堕天使にヒットするその手前で、矢はスピードを増した。



 矢は、タイミングをずらされて防ぎそこなった悪魔を貫いて、堕天使に届く。刺さったそれを見て、ヤツはふらつきながら呟いた。



「む、無詠唱……」

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