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第59話 人類が見た事のある、平和から一番遠い場所

 × × ×



「これが、地獄の入り口っすか」

「みてぇだな。まさか、こんな形であるとは思いもしなかった」



 それは、街の外れにある忘れられた闘技場の、階段をくだった先にある牢屋にひっそりと隠された小さな扉だった。



「ここ、俺が生活してた場所だぜ?知らないうちに、番人をさせられてたとはな」



 ここまでくると、もう笑うしかなかった。この人、不幸とかそういう次元じゃないでしょ。前世は死神かなにかだったの?



「まぁ、いいや。行こうぜ」



 扉の向こうは、50m程度の細い抜け道になっていて、抜けたその先に地上と見まごう程の広い空間があった。

 濃酸の川に、岩の樹木。さらにはいくつもの監視塔が並んでいて、その奥には行く手を阻むように砦が建っている。どうやら、更に下へ続いているらしい。



「歓迎、されそうだな」

「そうですね。少し、偵察してきます。ここで待っててください」

「オーライ」



 崖を登って、辺りを見渡す。不気味だ。これまでのようにシャインがダンジョン内をうろついておらず、俺たちの侵入を知って身を隠し、ジッと息を潜めているみたいだ。証拠に、消しきれていない気配と殺意が、時々突き刺さる。



「把握しました。今回は、アオヤ君を先頭、モモコちゃんを最後方に配置しましょう。恐らく、あそこの関所で挟み撃ちにされるハズです」

「どう対処する?」

「俺が、道中に罠を仕掛けておきまます。掛かったら、すぐに戻ってモモコちゃんをフォローしましょう。追ってきている後ろの方が、俺たちに近いハズです」

「オーライだ。ただ、キータの矢で向こうの指揮官を潰したりは出来ねぇのか?」

「ひょっとすると、そいつはもっと奥で待っているかもしれないので、遊撃は得策じゃありません。ただし、それがこっちの有利になるかもしれない」

「……キータさん、悪い顔してるっすね」



 言われて、俺は自分の頬をピシャッと叩いた。



「要するにですね、相手は上司から直接の(げき)を貰えないワケですよ。おそらく何度もシュミレートしたでしょうし、正確に動くんだと思いますけど。でも、ジョームをビビらせるシロウさんを相手に、一兵卒の悪魔が気合で対抗するなんて不可能です。そこを突きましょう」

「殺した悪魔の首を跳ね飛ばして、別のヤツの口にでもねじ込んでやるか」



 ……思っていたより、俺は自分が残虐ではないことを再確認した。二人が、ちょっと引いてますよ。



「俺は恫喝するくらいでいいと思ってましたけど。まぁ、有効ならなんでもやるべきです。悪魔は正攻法を好むので、そこを逆手に取りましょう」

「任せろ、得意分野だ」



 そして、俺たちは関所へ向かって歩き出した。途中、監視塔の影にボルトを打ち込んで、いくつかのワイヤートラップを仕掛ける。先端には安物の拳銃が取り付けられているから、踏めば音で知らせてくれるハズだ。



「では、行きましょう」



 ……衝突した尖兵は、「最初に来たヤツには、魔王を裏切りたくなるような拷問をくれてやる」というシロウさんの脅し文句によって硬直。それによって、タイミングを失った後ろの悪魔たちは散り散りになり、若手二人に各個撃破される事となったのだ。



 だが、こっちも無傷という訳にはいかなかった。本部を守っている悪魔なだけあり、クレオのダンジョンの敵よりも更に動きが洗練されている。そして、奴らがもっとも狡猾だったのは。



「し、シロウさん……」

「気にすんな、モモコ」



 逆に、最も火力を出せるモモコちゃんを集中的に攻撃してくる事だった。



 連中は、どうやらこのパーティの弱点に気が付いているらしい。アタックの要の彼女が、多対一の戦いではあまり力を発揮できないという事に。

 あまりにも大きな威力を有する炎は、敵陣に味方がいるときに乱用する事は出来ない。だからこそ、命を一つ無駄遣いすれば、その隙をついて攻撃を繰り出すことが出来る。どれだけ強い攻撃でも、同じことしかしてこないのであればその対策は容易い。なるほど、俺たちはとっくに研究しつくされているみたいだ。



 恐らく、こうしている間にも、俺たちの手の内を一つずつ潰されているんだろう。何とかして、相手の裏の裏まで読まなければ。初代の勇者のように、寸前まで行って死ぬなんてまっぴらごめんだ。



「……着いたみたいっすね」

「あぁ、相当デケェな。他のダンジョンの最深部くらいはあるぜ」



 そして、俺たちは辿り着いた。恐らく、人類が見た事のある、平和から一番遠い場所に。



「調子はどうだ?」

「良好っす」

「爪は切ったか?ベルトは締めたか?」

「大丈夫です」

「……覚悟は、決まってるか?」

「当たり前ですよ、シロウさん。行きましょう」



 聞いて、シロウさんは扉を開いた。その先に居たのは、黒い翼を生やした人間と大差ない体格の男と、頬まで裂けた赤い口に長い尻尾を生やした、しかしやはり体躯は人間程度の黒い悪魔。奴らの前には、10人の悪魔たちが隊列を組み、こちらへ銃を構えていた。



「撃てェ!!」



 黒い翼の男が、手を振り下ろして叫ぶ。そして、全ての弾丸は扉を開けたシロウさんに向かった。

こんなんも書いたので、よかったらどうぞ。


アオハル・オブ・ザ・サイコ

https://ncode.syosetu.com/n8436ha/


【短編】女神ちゃんが2回目の異世界転生をさせたいらしいけど、俺は嫌だから特別サービスを貰って普通に元の世界に帰ってきたって話

https://ncode.syosetu.com/n9528ha/

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん… 悪魔の戦い方の方が、よっぽど「人間的」に見えるよねえ… 次は最終決戦ですか。どうなるのか…
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