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【完結】追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。(連載版)  作者: 夏目くちびる
追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。編
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第53話 地獄への招待状

 咆哮と同時に駆け出した二人を見て、わずかに後ろを走るアオヤ君にウェルブレイブでバフをかける。すると、シロウさんが剣を振りかざした瞬間にアオヤ君は加速して、剣が振り下ろされるよりも先にラゾニエスの肘の向こうへ駆け抜けた。



「甘いッ!」



 背中に生えている手を地面に叩きつけて、その衝撃波でアオヤ君を吹き飛ばそうと試みる。しかし、それを読んでいたシロウさんがフェザブロクで自身の防御力を底上げして、スライディングで波とアオヤ君の間に滑り込んだ。



 その隙間を縫って、矢を放つ。スペルアローという魔力を込めるスキルで威力を高め、更に爆薬で加速した矢は一直線に飛んでいく。ヤツはそれを払って防ぐ。軌道はそらされたが、それでも矢はこめかみの辺りを貫いた。



「モモコちゃん、準備だ」

「はい!」



 桃色の炎が、ホーリーロッドの先端に集まる。それを探知したのか、ラゾニエスは反対側の手で大岩を掴み取り、モモコちゃんに向かって投げつけた。なるほど、見た目通りかなり器用だ。おまけに冷静で、しっかりと戦場の全体を見ている。隙を突くのは、かなり難しいな。



「大丈夫、そのまま」



 瞬間的にアオヤ君へのバフを解き、俺自身をフェザブレイブで強化して、爆発矢を放った後に再度前衛の二人を見る。砕けた岩の破片が飛び散り、刹那的に俺とモモコちゃんに、ラゾニエスを隠す壁が出来上がった。



「スキル、ホワイトミラージュ。ウォォォラッ!!」



 ……そういう事ですね。



 戦斧の強烈な一撃をアッパースイングで打ち上げて、アオヤ君が俺たちの体ほどもある巨大な腕をホーリーランスで突き刺す。ダメージは通っているが、武器を落とすほどではない。



「アオヤ!逆だ!」



 防いだ瞬間に、逆方向から力の塊のような拳がアオヤ君に目掛けて飛んでくる。サイドステップは、僅かに間に合わない。肩をかすめて体を吹き飛ばし、100メートル以上離れた壁にめり込んだ。



「回復します!モモコちゃん、シロウさんのフォローを!」



 指差したのは、天井だ。そこへ向けてモモコちゃんがヴェルフレアを放つと、衝撃の後に岩が降り注ぐ。当然、それはダメージを与えるための行動ではなく目眩ましだ。



「そんな小細工、このラゾニエスには通用せんぞォッ!!」



 ラゾニエスは逆に飛び上がり、空中で岩を掴み取ると、まだ動けないアオヤ君に向かって岩を振りかぶる。


 だが、それは読んでる。



「ヌルいぜ」



 落ちてきた岩を駆け上がってラゾニエスのところまで行くと、シロウさんは顔面に向かってソードオフを2発撃ち込んで、さらにホーリーセイバーで腕の一本を切り落とした。

 しかし、ほとんどダメージはなかったようだ。ヤツは拳2つを固めて握り頭上に振りかざすと、シロウさんに思い切り叩きつけた。マズイ、あのまま地面に直撃したら、体が弾け飛ぶ!



「アオヤ君、頼む!」

「心配いらねっすよ。スキル、エアブロク」



 回復したアオヤ君は、ブロクのその先にある新しいスキル、エアブロクを唱えてシロウさんの体に風の抵抗力を与えた。斬撃には弱い反面、重たい一撃には絶大な効果を発揮するそれは、全てとは言わずとも、衝撃を受け止めてシロウさんの命を繋いだ。



「グッドだ。もう2発、ブチ込むぜ」



 落下してくるラゾニエスの肩と足に1発ずつ、爆薬入りの弾丸を打ち込む。弾丸は、体内で止まるように設計された特別製だ。



「何を企んでいる。こんなもの、ダメージは……」



 瞬間、ラゾニエスは何故か体に力を込めた。



「こっちの方が一手早いッ!モモコちゃん!」

「スキル、ヘヴフレア!ウオオォォォオオ!!」



 巨大な桃色の火球を、着地による一瞬の降着を逃さない。着弾した瞬間、体内の弾丸もろとも燃え盛り、聖なる炎がラゾニエスの体を包む。そして、10秒ほど経った頃に、アオヤ君が呟いた。



「やったっすか?」



 その数瞬の後、爆炎の中から巨大な戦斧がアオヤ君目掛けて振り下ろされた。マズイ!気が緩んだ隙を狙われた!



「死なせねぇんだよ」



 シロウさんはすぐにホーリーセイバーを構えて、アオヤ君の前に立ち塞がる。だが、バフの無い状態であの巨大なパワーを受けきれるハズも無かった。

 折れない武器ごと押し込まれて、踏ん張る足と腰が内側から破裂し、しかしそれでもアオヤ君が離脱する時間を稼いでから、大量の血を噴き出しながら岩盤に埋め込まれてしまった。



 あいつ、炎の中で耐えていたのか。しかし、何故生きて……。



「ボルスロイは、硬さでいえば我よりも上だった。ヤツを砕くなら、体内からだろう。それに、弾丸の形が魔王様が作り出したモノとは違った。貴様らが意味の無い事をしないのは、我々全員が知っている事だ」



 それに気がついて、弾丸を体外に排出したのか。なんてヤツだ。



「……やるじゃねえか、コノヤロウ」



 なんとか回復を掛けたが、穴から這い出して来たシロウさんはもう満身創痍だ。そこに向かって再び拳を数個構えると、ラゾニエスは全てを叩き込む。



「キータ!モモコ!」



 掛け声とともに、モモコちゃんがヘヴフレアを唱える。爆炎の影に隠れて、アオヤ君が俺のところへ戻ってきた。シロウさんが、炎を免れた拳に刃を突き立てて防ぎ、しかし打ち漏らした一撃が横薙ぎに体を捉える。



「ゴッフ……」



 ……間違いなく、意識がトんでいる。しかし、猛攻は留まることを知らず、無意識に拳を掴んで受け止めたシロウさんに向かって、怒涛のラッシュを見舞った。



 でも、落ち着け。俺は、既に託されている。だから、例え誰の命であっても、ここにあるものを差別してはいけないんだ。



「行くよ、アオヤ君」

「……はい」



 焦る気持ちを抑えて、高台の上で慎重に弓を構える。しかし、いつもとは違う。足でガッチリと、横に強固に構えて、両手で弦を限界以上に引き絞る。本来弓ではあり得ない構えだ。



 ……扉のところに、クロウの姿が見える。天才には、この技がどう見えるだろうか。



「アオヤ君、走れッ!」



 放ったのは、アオヤ君がセットしたホーリーランスだ。大口径に改造を施した弓から射出されたそれが、空を切る低くて太い音を鳴らして目標に向かう。



「セイクリッド……」



 ダッシュしながら唱えるアオヤ君に、矢が追いついた。



「ストライクッッ!!ドルァァァァアア!!」



 爆薬で加速したそれを空中で掴むと、アオヤ君は最高火力である奥義の勢いをさらに上乗せして、身に付けている衣服を衝撃で千切りながら身を空中で捻り、折り返して一直線に投げつけた!



「そんな攻撃が……」

「へっへっ……。ホワイトミラージュ、忘れてねえか?」



 ラゾニエスが見ているのとは真逆の方向から、本物のホーリーランスが飛来する。シロウさんが唱えた瞬間からずっと、お前の()()にいたッ!



「食らいやがれ、クソッたれ!!」



 アオヤ君の叫びが、鮮明に轟く。そして。



「バカ、な……。まおう……さま……」



 亜光速を超えた本物の光の槍は、シロウさんの顔面スレスレを通ってラゾニエスの胸に直撃。貫いてぼ真っ白な光を灯すと、シロウさんを掴む手を残して、上半身の全てを完全に消滅させた。



「シロウさん、大丈夫ですか?」



 体を手から引き剥がして、ポーションを飲ませながら回復を施す。



「……あ、安心しろ。元気、いっぱいだ」

「嘘つかないでくださいよ。僕も手伝います」

「私も……」



 3人で代わる代わるに回してようやく回復を終えたが、どうやら臓器のいくつかが欠損したようだ。立ち上がれるけど、苦しそうに呻いている。



「また病院に行かねぇと。クッソ、痛いの嫌いなんだよ」

「その怪我よりは痛くないから、ちゃんと行って下さいね」



 言ったあと、2人に看病を任せて部屋の最奥へと向かう。するとそこには、各ダンジョンの活動報告をまとめた備忘録や、魔王からの指令、もとい世界征服企画の議事録。そして。



「ここに、地獄の入口があるのか」



 とうとう、その場所が記された地図を手に入れる事ができた。



「シロウさん、見つけましたよ」



 戻って、第一声。俺は、シロウさんに地図を渡した。2人も、それを覗いている。



「おぉ、どれどれ。……これ、マジか?」

「マジみたいですよ。どうやら、そういう運命みたいです」

「……だな。しゃーねぇ、里帰りと行こうか」



 立ち上がって、部屋の外へ向かっていく。扉の前にはクロウたちが立っていたが、俺たちは何も言わずに、そこを通り過ぎようとしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] シロウはもう「託し」たのか。 「リーダー」としての戦い方ではないものねえ。
[気になる点] 通り過ぎようとはしたのね。 [一言] 三面六臂だからこそ課長になれたんですかね? 部下想いで器用で…… 最高の上司じゃないですかヤダー(°▽°)
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