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第42話 俺はよ、嫌われてんだよ

 × × ×



「そんでよ、俺たち出来るだけ金が貰える仕事がやりてえのさ。何か、いいのはねえかな」



 翌日、俺たちは冒険者ギルドにて仕事を探していた。理由はもちろん、内情の偵察だ。



「でしたら、ルォーシヤ滝周辺の防衛などはどうでしょうか。最近、魔物たちが仕掛けを荒らしに来るので、それを追い払って欲しいのです。報酬は、5万ゴールドです」

「安すぎるぜ。もっとねえのか?こう、ブラッドウルフの巣を潰すとか、シャインの野営地を叩くとかさ」

「申し訳ございませんが、現在はそのような依頼は入っておりません」

「そんなバカな話があるかい。昨日、近くで襲われたって商人の話を聞いたぜ」



 それを聞くと、受付嬢は怪訝な表情を浮かべて、シロウさんを見た。



「失礼ですが、その話をどこで?」

「それ、関係あんのかい?受付のお嬢さん。俺は、どうして冒険者ギルドが近場に迫ってる脅威を排除する気がねぇのかって聞いてんだぜ?分かるだろ?」



 聞いて、彼女は目線をキョロキョロと動かすと、「すいません」と謝ってしまった。前も似たような事があったけど、これ別に怒ってないよ。



「どうかされましたか?」



 異変を嗅ぎつけたのか、二階から長身で髪の長い男が降りて来た。彼は受付嬢に下がるように言うと、シロウさんの前に立って胡散臭い笑顔を浮かべる。



「クレームなら、こちらで。何か、不都合があったでしょうか?」



 ……多分、シロウさんも気が付いたんだと思う。浮かべた胡散臭い笑顔が、一瞬だけ歪んだ。しかし、それについて言及することはなく、さっきまでの話を再びするのみだった。



「申し訳ございませんが、我々も慈善事業でやっているわけではないので。来ていない依頼を斡旋することは出来ません」

「それがおかしいんだよ。俺が聞いた話じゃ、依頼主と冒険者の間に齟齬がある」



 俺たちは、ここに来る前にアップタウンの病院に足を運んで、冒険者ギルドに仕事を頼んでいないかを確認していた。その結果、彼らは研究に必要なレアアイテムの収集を冒険者ギルドに依頼して、実際に届けて貰っているという話を聞いたのだ。



「だが、そんな話は表にいる冒険者たちからは一切聞かねえ。おかしいだろ。あいつら、ずっとそこでデモしてんのによ」

「さぁ。彼らが見落としてるんじゃないでしょうか」

「そう言われると思ってよ。さっき、ここに依頼するように頼んできたよ。来てんだろ?報酬、50万の仕事がよ」

「……確認します」



 当然、その仕事はすぐに見つかった。俺たちの冒険者ランクはプラチナ。上から3番目の序列であり、その仕事を受けるに値するランクだ。



「申し訳ございません、シロウ様。どうやら、見落としていたみたいです」

「そうかい。なら、そいつを依頼させてくれ」



 違和感。それを覚えているのは、ここにいる冒険者たち全員のハズだ。明らかに、あの男の様子がおかしい。まるで、シロウさんを恐れているような。



「ところで、あんたどうして俺の名前を知ってるんだ?」

「あ、当たり前ではないですか。あなたは、国王様に認められた勇者様ですから。仲間の方々の名前も知ってますよ。キータさん、アオヤさん、そしてモモコさんですよね」

「ここのギルド、閉鎖的な事で有名って聞きましたけど。そういう話は届いてるんですね」



 言うと、長身の男は俺の顔を見た。明らかに動揺している。



「そ、そ、そりゃそうですよ。うちが閉鎖的かどうかはさておき、流石に勇者様の話ともなれば耳に入ってきますよ」

「俺ら、一般人として登録してるけどな。勇者なんて名前、他じゃ一切出してねえぜ」



 その通りだけど、マルティナさんのように何らかの知る術を持っていたり、詳しく国内情勢を調べている可能性だってある。それだけでは、決定的な証拠とはなり得ない。



「いえいえ。あなた方は冒険者クラスに囚われない、素晴らしい活動と功績を……」

「よう。お前、何か隠してねえか?」



 食い気味な言葉に、長身の男は額に汗を滲ませた。いつの間にか、シロウさんの表情は真剣だ。



「そ、そんな事はないですよ」



 言葉は無く、ただジッと男の顔を見ている。周囲も緊張しているようで、外の生活音だけが聞こえている。



「お前、ここの責任者か?」

「そうです、ルシウスと申します」

「トーヘイは元気か?」

「……存じませんね、誰の事ですか?」

「ここの前の責任者だよ」

「いいえ、前の責任者の名前はリーエンです。一体、何のつもりでカマを掛けているのですか?勇者とはいえ、これ以上は営業妨害で憲兵を呼びますよ!」



 リーエン。今、リーエンと言ったのか?あのお爺さんが、ここの前責任者?マジで?



「お引き取り下さい。私も、事を荒立てたくはないですから」

「荒立てるってなんだよ。お前、なにか心当たりがあるのか?」

「揚げ足取らないで下さいよ、そんなものありません」

「ところで、トーヘイってのは隣の街のギルドの管理者の事だ。どうして、名前を知らねえんだ?」



 言って、シロウさんはルシウスとの距離を詰めた。もう、完全に敵だと決めてかかっている。



「そ、そこの彼が言っていたでしょう?ウチは、閉鎖的で……」

「大体、連絡はギルド本部から直接来るんだろうが。テメー、何隠してやがる」



 そして、彼はルシウスの頬をぶん殴った。受付嬢は悲鳴を上げて立ち上がり、周りに居た冒険者たちも驚いて後ずさっている。



「バーレニィが、くたばる寸前に言ってたぜ。人間の中に紛れて、内側からめちゃくちゃにしてる奴がいるってよ。それ、お前のことだろ」

「あ、あのバカ、仲間を売りやがったのか……!?」

「嘘だよ。つーか、トーヘイって誰だよ」



 そして、胸ぐらを掴んで持ち上げると、手を離してすぐに拳を叩き込みぶっ飛ばし壁に激突させた。ルシウスは、鼻が折れたようで激しく血を噴き出している。



「あのな、俺が他の街でどんな呼ばれ方してるか知ってんのか?ェえ?」

「い、いや……」

「暴力勇者だよ。俺は、嫌われてんだよ。他のギルドから話聞いてたら、素晴らしいだのクラスに囚われないだの言うわけねえんだよ。なぁ」

「な……っ」

「しかも、地獄でちょっとした有名人なんだろ?だったら、そこで知るしかねえってワケだ。分かったか、このタコ」



 そして、頭を顔面に叩きつけるともう一度「何を隠してる」と訊いて、強く首を締めたのだ。

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