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第34話 トテチテタ

「みなさん、聞いてください」



 全員が、強い眼差しを俺に向ける。



「ここからの戦いは、時間との勝負です。ダメージを受けた人は、速やかに前衛班の後に回って撤退してください。後方の支援班は、出来るだけ途中にいる人たちの手助けや回復に力を貸してあげてください」

「俺たちはどうする?」



 前衛班のトロサさんが言う。タンクらしくガタイのいい、スキルよりもフィジカルで敵を仕留めるタイプの冒険者だ。



「前衛班は、回復と支援の防衛を。攻撃は、一先ず遊撃班と俺たちで行います」

「大丈夫か?少し不安だが」

「普段の小規模パーティでの戦闘であれば愚行ですが、今回はその限りではありません。むしろ、中ボスを突破する上で最も重要なのは俺たちではなく回復班のみなさんです。なので、挟み撃ちにされた時の生命線は、あなたたちに託したいと思っています」

「なるほどな、わかったよ」

「部屋を抜けたら、俺たちは立ち止まらずに一挙にボス部屋まで向かって、デビルブチョーの首を取ります。後ろは振り返りませんと、ここで伝えておきます」



 今回は、俺も攻撃にフルで参加する。だから、何としてでもヒーラーには生きていてもらわなければならない。



 話の間に、回復が終わった。戦いの準備は出来ている。



「……行きます」



 俺の声に続き、隊のみんなが進軍のラッパにのように咆哮をあげた。そして、地面を蹴って走り出し、一本の大きな矢のようになって中ボスの部屋へ突撃した!



「前方!大型の悪魔二体、後に地上にいた個体と同サイズが数体。他は、全て魔物だ!」

「モモコちゃん!先頭の二体を焼き払え!アオヤ君は、その後ろのシュニン共を殲滅だ!」

「了解です!ドレッド……」

「ヘヴフレアッ!」



 炎で、恐らくカチョーと思われる個体にモモコちゃんが炎を放った瞬間、俺は素早く矢を構えて宙へ飛び立った。



「スキル、ペネトレイト!」



 支援班の人たちが俺にバフを掛けたことで、矢の威力は倍増した。ペネトレイトは、射出した矢の貫通力を底上げするスキルだ。地上で発動したブロフアローと同様、弓を扱うスキルは矢の特性を変化させるスキルが多い。



 矢は、カチョーの頭を貫いてその奥にいるシュニンの足に突き刺さった。後ろからは、やはりどこかで待ち構えていたシャインがなだれ込んで来ている。



 だが、こっちの方が一手早いッ!



「ストライクッ!」



 アオヤ君が、最前列に躍り出て槍を突き出す。シュニンを穂に突き刺したまま片足を軸にグルリと回ると、周りの敵ごと吹き飛ばしてそこに空間を作り出した!



「飛び込め!行くぞォ!」



 ラスさんの叫び声と共に、遊撃隊のメンバーが、驚いて(おのの)く奴らを仕留めに掛かった。スコップでシャインを頭からボッコボコにぶっ叩き、次いで来る支援班の為の道をこじ開けた!

 瞬間、俺とモモコちゃんは踵を返して両翼に展開すると、入り口に向けて攻撃を仕掛ける!



 よし!これで、後ろから向かってきていたシャインの陣形は瓦解して、ロクに機能出来なくなった!



「このまま行きます!アオヤ君、先導をよろしく!」

「任せてください!」



 敵を薙ぎ倒しながら、ダンジョンを更に下へ向かっていく。途中、何度か後ろで悲鳴が聞こえて、隊のメンバーが減ってったのが分かった。でも、ここで足を止めたら勢いを殺してしまう。



 それじゃ、ダメなんだ!



 みんな、死ぬほど恐い思いをして戦ってるんだ。冒険者ですらなかった人たちだって、歯を食いしばって戦っているんだ!俺たちに出来るのは、ただ目の前の敵を撃滅して、少しでも先へ進むことだけだ。傷ついた仲間は、他の仲間に託すんだ。それが、俺たちに出来る最善の行動なんだから。



 前へ!前へ!前へ!



 ……長い階段を降って、いよいよ大きな扉に到達した。ここに来れたのは、遊撃班二人と、回復班が二人に前衛班のトロサさん。残った支援班は、女性たちの救助へ向かった。

 全員で、8人。上々……、どころではない。理想に思い描いていた形そのものだ。これなら、必ず勝てる!



 回復を終えて、俺たちは扉に手をかけた。石で作られた重たい扉は、ゆっくりと、ゆっくりと開いていく。



「……ようこそ、人間諸君」



 隙間から中へ入り込んで辺りを見渡すと、声の主は広い部屋の空中に浮かんでパチパチと手を叩いていた。

 体長は、3メートル程だろうか。これまで見てきた悪魔とは違い、やけに知性を感じさせる豊かな表情を浮かべている。体は黒く翼が生えていて、尻尾は体よりも更に長かった。

 カチョークラスだろうか。ハードポイント近くのダンジョンで戦ったヒュドラよりも、弱そうだ。なら、先手必勝!



「モモコちゃん!アタックだッ!」

「ヘヴ……」

「落ち着きたまえよ」



 瞬間、こちらへ向けられた、奴の尖った爪の先が僅かに光った。そして、俺とモモコちゃんの隙間に何かが飛来したかと思うと、後ろで小さく、うめき声があがったのだ。



「……えっ?」



 振り向くと、回復班のオッケさんが、口から血を吐き出して倒れた。一体、何が……。



「そっちもかね?回復役は」



 言って、再び悪魔の爪が光る。何とかしようと刹那の思考を巡らせたが、それよりも早い光の攻撃が、もう一人のヒーラーのリツさんを貫く。そして、後ろに少し吹っ飛んだかと思うと、力なく地面に倒れてしまったのだ。

TIPS

現在の人間の成り立ち:異種間交配が発展したのは、半ば悪魔への恐怖からであり、生物の本質的な危機感によって結論に至ったと言われている。

レフトの人間の見た目は、昔から最も個体数の多かったヒューマンに準ずるところが大きい。例えば、リザードマンの血が濃い人間であれば、耳まで口が裂けていて爪が長かったり、太い角や尻尾が生えていたりしているが、それはむしろチャームポイントに近いのだ。

理由は、全種族の中でヒューマンは最も遺伝子のパワーが高く、受け継がれる特徴が多かったからである。ヒューマンの本当に優れているところは、その精力だったという事なのだろう。

そして、「ならば最初に異種間交配した者はどうだったのか?」と言う話だが、言ってみれば変態的な趣味を持ってる者同士の交配だったようだ。

そんな親を持てば、当然の如く子供の好みも変わっていく。親戚同士で集まれば、全然見た目の違う人たちが集まっている訳で、意識も純血とはかけ離れた成長を遂げていくワケだ。

そして、更にその子供や子供の子供が交配を続けた結果、それぞれの特徴を受け継ぎ、次第に多種族の平均的で美形な人間が増えていった為に、異種間交配が当たり前になったというのが通説である。

つまるところ、どこにでも変態はいて、その者たちが性欲を発散しているうちに今の人間の基礎が出来上がったと言えるだろう。

余談だが、長命な種族は未だに原種のままで存命している事もある。無論、長い経験や知識によって、考え方は現在の主流に沿っている者の方が多い。

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