第31話 メルトアウト
しかし、拐われた冒険者の数にしては、あまりにも人数が多すぎる。きっと、あの入口の奥には、更に多くの人が捕まっているのだろう。一体、どこから集めて来たというんだ?
「キータさん!」
観察していると、突然崖の下で叫ぶアオヤ君の声が聞こえた。顔を出して見下ろすと、モモコちゃんが俯いたまま、何かを呟いているようだった。
急いで降りようと崖に手を掛けたその瞬間、彼女の体の震えがピタッと止まり、右手でホーリーロッドを強く握りしめた。
「……コロス」
「モモコがやべえんですよ!降りてきてください!」
「コロス、コロスコロス谿コ縺……っ!」
瞬間、モモコちゃんの体を、ヘルプロミネンスと同じ色のオーラが包んだ。
「あつ……ッ!?」
思わずのけ反り、立ち上がって離れるアオヤ君。彼女の炎は、更に強く燃え盛る。そして、地面をも焦がし抉る火力を振りまいたかと思うと、目を見開いてホーリーロッドを空に向けて構えた。
「グルァぁアあァァぁぁァアあアアッッッ!!」
……きっと、何かのスキルだったんだと思う。ただ、放出されたのがどす黒くて禍々しい、見た事も無い黒い炎だったから、すぐにそうだと分からなかったんだ。
炎は、凄まじい勢いで吹き荒れて、辺りを灼いた。その音に気が付いたからだろうか、瞬間移動してきたデビルシュニンが姿を現したのは。
「アオヤ君!伏せて!」
崖の途中から飛び降りて、アオヤ君の体を抱えて地面に飛び込んだ。空中で、「コロス」という声が聞こえたのは覚えてる。しかし、その後に目線を上げると、デビルシュニンの姿は跡形も無く消えていた。
「霑斐○」
モモコちゃんの着ているローブは焦げ付いて、辛うじて体に引っ掛かっているだけだ。それをはためかせて走り出すと、遠目に悪魔たちの姿を見つけたからか、スッと目の前にロッドを構えた。
「ダメだ!あそこにはたくさん人間が……っ」
「繝倥Χ繝輔Ξ繧「」
俺には分からない言葉を唱えた瞬間、先端からはやはりどす黒い炎が放出された。そして、地面を焦がしながらメルベンの跡地へ到達したそれは、二人のシュニンが立っていた物見やぐらへ直撃すると、周囲に血と炎と木材の雨を降らせた。
「これ、ヤバくないですか?」
「ヤバいなんてモンじゃないよ。早く、モモコちゃんを止めないと!」
言って、俺たちは走り出したが、彼女は既に跡地へと向かっている。早く追いつかないと、大変な事になる。
それに、止めなきゃいけない理由は被害を及ぼす事だけではない。あの炎は、モモコちゃん自身をも灼いているのだ。既に、皮膚が黒く焦げている。あのままじゃ、本当に彼女が死んでしまう!
走りながら、ウェルケアを唱えて考える。でも、俺の回復量よりも自傷ダメージの方が大きいのは明らかだ。どうすれば。
「……逆だ。アオヤ君、あそこに居るシャインを殺すのを手伝ってあげて」
「えぇ?だって、回復してなきゃ死んじゃいますよ!?」
「今のままじゃ止めるのは無理だよ。だから、モモコちゃんがグリルになる前に向こうを片付けるんだ」
「なるほど。終わって次の獲物を探してる間に、ホーリーロッドを取り上げるってことですね!」
「そう言う事。気配か何かを察知してああなったんだろうから、誤魔化しも効かないし、迅速に頼むよ。見たところ、残りは20体だ」
今の俺たちなら、それくらい倒すのもワケはない。
「俺は逃げ遅れた人たちを助けるから、もしダメージを受けたらすぐに呼んでね」
「わっかりました!」
二手に分かれると、まずは転んでいた冒険者の元に駆け寄って、両足を繋ぐ鎖をダガーで断ち切った。冒険者なだけあって、彼はすぐに状況を判断したようだ。俺が何を言わずとも、すぐにその場を離れていく。
次に、高台へ乗って見下ろすと、シュニンたちは既にモモコちゃんの元へ立ち向かっている。そんな、横からの攻撃をアオヤ君がアンカーボイスで引き付けて、ホーリーランスで串刺しにした。
荒れ狂うモモコちゃんの炎は、まるで極東のドラゴンのように長く連なり、アオヤ君を巻き込んで悪魔たちを燃やした。しかし、彼は痛みを堪えて必至に攻撃を防ぎ、シロウさんのレッスンを実践している。
それを横目に、俺は倒れている人間の足の鎖を矢で撃ち抜いていった。解放された者は、すぐに立ち上がって離れていく。隙を見て、二人に回復を掛ける。愚直に、ただそれだけを繰り返した。
「……いける」
そうしている間に、シャインは既に残り一体。そして、そいつが消し炭となった刹那、俺は残った一本の矢を手に取った。
集中。
息を呑んで、弓を引く。呼吸を止めて、胸を強く張る。ギリ……と緊張する弦が指に食い込み、固くなっている皮を裂くと、そこからゆっくりと血が流れたのが分かった。
――力、入れすぎんなよ。
「……そうでしたね」
言葉を思い出して、いつものように優しく矢を掴む。そして、少し斜めに構えると、アイアンサイトの向こうにある銀色の杖に標準を合わせた。
「スキル、ブロフアロー」
ブロフアローは、矢の当たった武器を弾き飛ばす事が出来る、憲兵が暴徒を制圧する為に用いられるレベル3のスキルだ。しかし、ホーミング性能などついていない為、効果はあくまで狙撃手の腕に左右される。ここで外せば、全てがお終いだ。
手が、震える。絶対に外すわけにはいかない。絶対に……。
「モモコ……?」
その声に、彼女が振り返る。そこに居たのは、俺やアオヤ君ではない。名前も知らない、やせ細った白い髪の男だ。
「……縺顔宛縺輔s」
彼が呼んだ瞬間、モモコちゃんの肩が落ちた。今だ!
「いっけぇぇえぇぇええッ!」
カシュ。
指を離した瞬間、弦が矢を押し出して一直線に飛んでいく。動かない的に当てる事が出来ない程、俺の腕は悪くない。
「やった!」
アオヤ君が叫ぶ。しかし、宝具同士が衝突した衝撃なのか、辺りを白い光が包んで俺たちの視界を奪った。そして、次に目を開けたときには、既に黒い炎は跡形もなく消えていたのだ。
文字化けテスターというサイトがあってですね。
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