第22話 アオヤ、貴族令嬢に捕まる
ダンジョンを攻略し、また一つラクモウに赤いマークを記した俺たちは、その足で次の街へと向かう。街と街を繋ぐ長い道をテクテクと歩いていると、その途中で大きな馬車が賊に襲われているのを見つけた。襲撃しているのは五人、護衛の兵士だろうか、壊れた馬車の傍らには、気品のある男が二人うつぶせになって倒れている。
「どうした」
シロウさんは、ダガーナイフを片手に、涼し気なマキシドレスを着た女性の手を引っ張る男の背後に周ると、まるで食事中に席を立った人に理由を聞くかのように、あっけらかんと聞いた。
「あぁ、こいつ、フェルミンのとある大貴族の娘なんだよ。攫って身代金でも要求してやろうと思ってな」
「へぇ、そりゃ一大事だな」
「だろ?……ところで、お前、俺たちの仲間だったか?」
「違えよ、俺は勇者やってるシロウってもんだ。後ろの若い三人が、俺の仲間」
「どうも」
アオヤ君は、片手をひょいっと上げて挨拶をした。
「その冗談、あんまり面白くねえぞ。どうせお前も、どっかから攫って来たんだろ?まぁ、そういう訳だから邪魔しないでくれるか?」
「うーん。……その大貴族って、お前らになんかやったの?」
「やってねえよ。しつけえとお前も痛い目に合すぞ」
「じゃあ、お前が悪いじゃねえか」
言って、シロウさんはその男の顔面をぶん殴った。毎度の事だけど、ホント痛そうなパンチだなぁ。あのゴッ!って音、どんだけ人を殴り慣れたら出るんだろう。
因みに、俺もアオヤ君もモモコちゃんも、素手で人を殴った事は無い(本当か?)。シャインたちとの、武器を使っての殺し合いは何度も経験しているけど、対人の戦闘はあまり経験がない。だから、こういったイザコザの時には、俺たちは後ろの方で眺めている事が多いのだ。
「テメェ!何やってんだよ!」
「キータ、そいつら回復してやんな」
言いながら、武器を持って向かってくる賊を叩きのめす姿も、見るのは一体何度目だろうか。俺は血を流す男の元へ駆けよると、レベル4のスキル、『ウェルケア』を掛けて鞄の中のタオルで彼の血を拭った。
「大丈夫ですか?」
「うっ、ケホッ。……すまない、助かったよ」
背中を叩くと、彼は喉に詰まっていた血を吐き出して呟いた。「グシャッ!」とか、「ひぃ!」とか、「ボゴッ!」とか、「助けて!」とか、この世の地獄みたいな音と悲鳴をバックに、もう一人にも同じように処置を施し、安全を確認出来たところでシロウさんを見る。すると、戦闘は既に終わっていたようで、彼は賊の体を縄で拘束していた。
「貴族のお嬢ちゃん、大丈夫か?」
唐突に呼ばれた女性は、涙目でシロウさんを見ると、喉の奥から絞り出すかのように声をだした。
「おいで。車輪が壊れちまってるから、乗ってると危ないぜ」
しかし、パニックになってしまっているらしく、馬車の奥に張り付いて首をふるふると横に振っている。それを見ると、彼はアオヤ君に「助けてやってくれ」と言ってから、賊たちの縄を繋いで逃げられないようにしていた。
「大丈夫っすよ。あの人、本当に勇者ですから」
アオヤ君の、少しあどけない可愛らしい顔のお蔭で言葉を信じられたようで、彼女は差し伸べた手を取った。相当怯えているのか、彼の手を掴むとバランスを崩し、体重を預けて首に手を回してしがみ付いている。
「ちょっと、あんまり引っ付かれると困るっすよ」
そんな言葉は耳に入っておらず、彼女はしがみ付いて肩を揺らすと。
「恐かったよぉ……」
と呟いて、涙を流したのだった。
× × ×
「アオヤ君、戻ってきませんね」
「仕方ねえよ。あのお嬢さん、妙にアオヤに懐いちまったんだからさ」
あの後、俺たちは助けた貴族令嬢マリンちゃんの住んでいる海沿いの街、『フェルミン』へやって来ていた。元々立ち寄る予定の無かったここに来た理由は、シロウさんの言う通り彼女がアオヤ君から離れなくなってしまったからだ。だから、今だけは彼を貸して、俺たちはその帰りを二日間も待っているってワケ。
「まぁ、しばらくはこの街でゆっくりして、気長に帰りを待とうぜ。カチョー討伐の成果ボーナスで、持ち金も増えた事だしよ」
言って、シロウさんは酒を飲んだ。確かに、ここ数ヶ月の活躍のお蔭で、俺たちは多少生活に余裕が出来た。防具だって買い替えたし、常用していたポーションもワングレード高いハイポーションになった。それに、歯ごたえのない戦いだったとはいえ働き通しだったのだから、少しは休むのも悪くないだろう。
という事で、休み中の俺たちの行動が気になったのか、シロウさんは「どっか行ったりすんのか?」だの、「ヒマリたちはこの辺に居んのか?」だの、まるで近所に住むおじさんのように根掘り葉掘り予定を聞いてきた。
「どうでしょう。後で、どのあたりに居るのか聞いてみますよ」
「おう。ジャンゴの事も、聞いておいてくれ」
そんな話をしていると、シロウさんの隣に座っていたモモコちゃんがシロウさんの方へ少し席を詰めて、少し神妙な顔をして口を開いた。
「なんか、このお店嫌な感じです」
「嫌?何が?」
「周りの女の人が、ずっと私たちを見てます」
言われて見渡してみると、確かに彼女たちは俺たちの方を見ていた。しかし、それはマリンちゃんがアオヤ君に向けていたような眼差しではなく、むしろどこか軽蔑しているかのような。
途端に居心地が悪くなってきて、誤魔化すように視線を動かした。すると、バーテンダーの立つカウンターの後ろには、一つの紋章が刻まれた盾が置いてあった。
「シロウさん、あれ」
「あぁ、チッターの紋章だな」
「面白かった!」
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