第17話 シロウとジャンゴ
後に続くと、シロウさんは走りながら口を開いた。
「キータ、今回は作戦を話してる時間がねえ。まずはアオヤと俺で戦況を撹乱するから、向こうのパーティでヤバそうな奴にヒールをかけてやってくれ。アオヤへのサポートも忘れちゃだめだぜ」
「はいッ!」
「アオヤ、悪いがいきなり飛び級のレッスン5だ。格上の敵とは、柔軟に戦うべし。状況を判断したらすぐに指示を出すから、一緒に来てくれるか?」
「了解っす!」
「私は、どうしたらいいですか?」
「今回は、いきなり奥義ぶっ放しちまえ。ただし、人が居たら絶対に落ち着くんだぞ」
覚醒し、更に強い力を手に入れた筈なのに、モモコちゃんは理性を保ってここを離れなかった。これなら、行けるかもしれない!
シロウさんを先頭に俺たちはダンジョンを駆け、明らかに異質な空気の漂う、青い光が差している角を曲がると、そこに待っていたのは。
「ヒュドラだ。思っていたよりも、かなりやべぇな」
それは、だだっ広い部屋を覆うほどの、しかし、9本あるはずの首のうち2本を切り落とされている巨大なドラゴンだった。しかし、チャンスだ!戦っている冒険者は、少し距離を取っている!
「モモコ!やっちまえ!」
「はぁッ!……ふにゃ……ぁ」
まさにブチかますであっただろうその瞬間、気の抜けた声が聞こえたかと思うと、俺の前を走っていたモモコちゃんは急に速度を落として地面に倒れてしまった。
「ちょっと、どうしたの?」
「す、すいません。なんか、力が出ないです」
「なんだって!?」
俺の声を聞いたシロウさんは、すぐさまホーリーセイバーを鞘から引き抜くと、アオヤ君に着いてくるよう声を掛けてそのまま走り抜けていった。
「覚醒の力って、一発撃つとかなり体力消耗するみたいで。回復するのに、ちょっとかかりそうです」
「ま……マジか」
モモコちゃんを抱え、急いでライケアを唱える。……そうか、彼女はとっくに正気なんかじゃなかったんだ。ここへ来るまで体を支えていたのは、抑えきれない程の殺意と恨みだったんだ。
「キータ!向こうのパーティのメンツがやべえ!すぐにヒールしてやってくれ!」
珍しいシロウさんの焦った声を聞いて、モモコちゃんを壁に寄りかからせて前を向くと、そこには散り散りになって倒れる三人のメンバーを守るように駆け回り、柄の長いラブリュス(両刃斧)を振ってヒュドラの猛攻を食い止める、シロウさんよりも更に大きな男の姿があった。
「……お前は」
微かに、シロウさんが呟いたのが聞こえた。しかし、俺がそんな事を気にしている場合ではない。だから、すかさず大男にライケアを掛けようとすると。
「俺はいいッ!こいつらを頼む!」
そう言って、一瞬だけ俺に目配せをして、勢いよく振り下ろされるヒュドラの頭を、アッパースイングで迎え撃った。しかし、弾けたのは一本だけだ。もう二つ、巨大な頭が迫ってきている。
……けど、既に二人は、そこに居る!
「アオヤ、新しいスキルをブチかましてやれ」
「……ドレッド、ストライクッ!」
大男の両側から迫るヒュドラの攻撃を、アオヤ君は進化したレベル4のスキルで、シロウさんは防御スキル『ライブロク』を唱えながら、両手で横薙ぎに払った剣撃で打ち返した!
「よう、助けに来たぜ。ジャンゴ」
「……お前、まさかシロウか!?」
そう答える大男の表情は笑っていて、血まみれで今にも倒れてしまいそうなのに、心の底から嬉しかったのが分かった。どうやら、二人は知り合いみたいだ。
「アオヤ、レッスン1は覚えてるな?」
「もちろんです」
「なら、この男が回復するまで頼む。俺は、後ろで倒れてる奴らをキータのところへ連れて行く」
「え。でも、流石に一人じゃ……」
「安心しろ。ジャンゴは、めちゃくちゃ強ぇぞ」
言って、シロウさんはジャンゴと呼ばれた彼にフェザケアを唱えポーションの瓶を渡すと、散らばっている三人の体を拾い集め、俺の元へと向かって来た。その間、俺はアオヤ君が少しでも力を発揮できるように、ライブレイブを掛けていた。
「頼むぜ、キータ。モモコ、大丈夫か?」
「……もう、少し。もう少しで、行けます」
「上等だ」
一方、アンカーボイスというレベル2のスキルでヒュドラの注目を集めるアオヤ君は、凄まじい連撃を搔い潜り目を狙って槍を突いている。しかし、彼の単純な攻撃ではダメージが通らず、更に迫る猛攻に身を削られて、次第に足が鈍くなっていた。
「あ、アオヤ君!」
「任せろ、少年!ウルォオ!!」
雄たけびを上げると、回復したジャンゴ……さんは、頭が地面を突いた一瞬の隙を縫って、ギロチンのように斬撃を叩き落とした。肉は、半分ほどが切り裂かれ、ヒュドラは青い血を噴き出しながら首を捻じって逃れようとしている。
「シロウ、行ったぞ!」
「ナイスだ、ジャンゴ」
瞬間、前線へ戻ったシロウさんは逃げる先へと飛び上がり、交差したその瞬間に、斬、と首を刎ね落とした!あ、あの二人、あまりにも息が合い過ぎていないか?
「シロウ、消防屋の掟、その3だ」
「自分より若い奴は、死んでも死なすな。だったか」
「その通り。この少年、命の恩人を、向こうまで連れて行ってやってくれ」
「……えへへ。僕、まだ余裕っすよ」
言って、息を切らすアオヤ君を、シロウさんは抱いて支えた。しかし、ヒュドラの攻撃はまだ終わらない。今度は口に青いオーラを纏ったかと思うと、二つの首が、シロウさんを目掛けて勢いよく突っ込んできたのだ。
TIPS
文明:レフトの文明は、実は我々の知っている中世と比べるには、いささか発展しすぎている。
と言うのも、現在の人間にはノームやエルフなどの高い知能を持つ種族と、ドワーフやヒューマンなどのモノつくりに長けた種族の血を同時に、どころか全てを引く者さえも存在している。その為、彼らは好奇心と知識の融合によって、企業で様々なアイテムを生み出し、結果カジノに置いてあるような「機械」を作り出す事に成功しているのだ。




