第16話 奥義、覚醒
<お詫び>
前話の『第15話 キータ、一目惚れする』にて、クロウの心情に対する内容を追記いたしました。読まなくても大丈夫かとは思いますが、より違和感が無くなると思いますので、お手数でなければご覧ください。
<内容>
「……きっと、クロウはもう追放されたこと自体はどうだっていいんですよ。頭にキテるのは、プライドを傷つけられたからであって。だから、恥をかかされただなんて理由であんなこと言うんですよ。それくらい、シロウさんにだって分かってますよね?」
「分かってるよ。だから、熱くなっちまったんだ」
× × ×
「よっし、じゃあダンジョン攻略、行ってみようか」
「なんか、緊張しますね。大丈夫でしょうか」
「どうだろうな。実は、俺もタタキアゲとバトルすんのは初めてなんだよ。一見してヤバそうなら、とっとと逃げちまおう」
「それがいいですよ。僕、絶対死にたくないっす」
そりゃ、あれだけ儲ければ死にたくないよな。今日のアオヤ君は、いつもとは気合の入り方が違う。
「私は……」
その反面、モモコちゃんは少し元気がない。クロウと再会して以来、ずっとこんな調子だ。
「大丈夫か?モモコ」
「は、はい。その、大丈夫です」
言って、彼女はホーリーロッドを抱き締めると、シロウさんの顔色を窺うように見上げてから少し後ろを歩き始めた。
「モモコ、ちょっとおかしくないすか?昨日の修練中も、ずっと上の空でしたし」
理由は、何となく分かる。きっと、彼女はクロウと自分が重なるポイントを見つけてしまったんだろう。それを表すように、彼女は戦闘が始まっても、努めてシロウさんの傍を離れず、指示を待って丁寧にスキルを唱えていた。
そんな調子で攻略を続けていて一息ついた頃、シロウさんが俺のところへやって来て、囁くように言った。
「なぁ、キータ」
「なんですか?」
「ちょっと、モモコと話して来る。アオヤと休憩しててくれ」
「分かりました」
彼は、少し離れて座っているモモコちゃんの隣に腰を下ろして、何かの話を始めた。随分と身振り手振りを交えているようだが、モモコちゃんはやはり元気が無く、申し訳なさそうに頷くばかりだ。
……そのまま、十分くらい経った頃。
「よし、じゃあモモコ。おいで」
シロウさんは、涙ぐむ彼女の頭を撫でて立ち上がると、手を引いて部屋の外へ向かって歩いて行った。
「あれ、どこ行ったんすかね」
「さぁ。モモコちゃんの悩みを聞いていたみたいだけど」
静寂。時折、どこかを歩く魔物の足音が聞こえるだけで、他には何もない。不気味さすら感じるその空間で俺たちは立ち尽くしていたが、その瞬間は、突然訪れた。
「ギャアアアァァッァァアアアァ!!ギャッ!ギャッ!ギャアアァァァァ……」
あり得てはいけないような、この世に存在しえないような、そんな苦しみを訴えるシャインの叫び声がダンジョン内に響いた。あまりの恐ろしさに、何事かと驚いて武器を構えると、二人が出て行った通路の向こうにユラユラと動く影が見えた。
そして、段々と影の輪郭が整ってきた時、そこに現れたのは。
「お待たせしました」
逆巻くオーラで身を包み、チリチリと周囲の空気を灼きながら毅然と歩く、深紅の火炎を操るモモコちゃんだった。
「行きましょう、二人とも。私、今日は絶好調です」
「……えっ?も、モモコちゃん?いや、あの、モモコさんですよね?」
「何を言っているんですか?キータさん。当たり前じゃないですか」
その後を追って、何故か全身を煤だらけにして、顔もかなり焦げ付いているシロウさんがやってきた。そして、「待たせたな」と俺たちに手を振ると、ふらつきながらもこちらへ向かって来た。
「悪い、キータ。ライケアを掛けてくれ」
「は、はい。ライケア。……一体、どうしたんですか?それに、さっきの叫び声は……」
「あぁ、それなんだが……」
治癒を受けて、深呼吸をしたシロウさんは、息を大きく吐いてから答えた。
「モモコが、奥義を使えるようになった」
「……はぁ!?」
全然状況が飲み込めない。そりゃ、アオヤ君も腰抜かすよ!
「モモコ、全然元気が無かっただろ?」
「え、えぇ」
「それに、あいつホーリーロッドで本気出したこともなかっただろ?」
「そう言えば、そうですね」
確かに、仲間になる前の戦闘でしか、彼女の全力のスキルは見ていない。
「だからストレス発散に、全力で、何の気負いも無しに、全ての恨みとか辛みを乗せて、今使える最強のスキルをぶっ放してみろって言ったんだ。そしたら、覚醒した」
「いやいやいや。……マジすか?」
「マジ。で、俺も巻き込まれた。もう一歩脱出が遅れてたら、完全にバーベキューになってた。はっはっは!」
「ちょっとォ!シロウさんが命捨てるようなマネしちゃダメだって、結構ガチのトーンで話しましたよね!?なんで舌の根乾かないうちにポイ捨てしてんですか!」
「三人とも、何をしているんですか?」
突然言われ、恐る恐る見ると、彼女は感情があるのかないのかよく分からない顔で、コテンと首を傾げた。
「あれ、どうするんですか?明らかに状況悪化してますよ」
「……とりあえず、ボスの部屋までは行ってみるってのはどうだ?」
「正気っすか?タタキアゲどころか、僕らまで消し炭にされますよ」
「だよなぁ。しゃーねぇ、今日のところは一回引き上げ……」
シロウさんが呟いた時、地底にあるはずのダンジョンが大きく震えだした。
「もう!今度は一体何なんですか!」
叫び、シロウさんたちが入って来たのとは別の方向を見ると、通路の向こうから女性の悲鳴が聞こえて来た。あれは、何かヤバそうだ……!
「……マジですか。宝具無しで、カチョーに挑戦してる冒険者がいますよ」
考えてみれば、占いの結果を知らない冒険者は普通にシュニンか、ヤバくてもカカリチョーがいると思っているんだ。
「ど、ど、どうするんすか?」
「助けに行くに決まってる。悪いが、撤退は無しだ」
言って、シロウさんは一も二も無く走り出し、モモコちゃんもそれに続いた。二人とも、いきなりカッコよくならないでくださいよ!
「仕方ない。アオヤ君、行こう!」
「りょ、了解っす!でも、死にたくねぇ!マジで死にたくねえっすよォ!」
俺だって同じだよ。でも、もうやるしかないだろ!
「面白かった!」
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