表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレンジ体験記  作者: 藤阪つづみ
第2章 夢空間
5/38

5 おかしなお菓子の夢

 次に目を開けたとき、あかりの目の前にあったのは、直径三メートルはあるであろう、棒付きのロリポップだった。その隣には、車一台がまるごと収まりそうなグラスに入った、チョコレートパフェのようなものがあった。そのほか、パンケーキやらコーン付きのアイスクリームやら、とにかくばかでかい菓子が、そこらじゅうに転がっていた。

 どうやらここはドーム型の建物の中で、その中に様々なビッグサイズのスイーツが無造作に置かれているようだった。壁や天井がオレンジ色なのもあって、遊園地のような不可思議な光景に仕上がっている。

 隣ではルリが目をキラキラさせて菓子たちを見つめていた。あかりにはわけがわからなかった。

「何ここ。写真スタジオ?」

「ちがうよ。多分、だれかの夢の中。カラフルで面白そうだったから来てみたんだけど、まさかお菓子の夢だったなんて!」

 言うや否や、ルリは近くの板チョコレートに向かって走りだした。あかりは慌てて後を追った。

「いや、ちょっと。夢の中って何よ!?」

「だからぁ、ここはだれかの夢の中なの。あたしたち、夢空間を通ってこの人の夢の中に遊びに来たんだよ」

 ルリはチョコレートにギリギリと力をかけた。しばらくすると、チョコレートはパキンと割れて、二十センチ四方の小さな欠片がとれた。

「じゃあ、何? ここは夢の中だっていうの?」

「うん、そういうこと。あっ、きっとあれがこの夢の持ち主だよ」

 チョコレートを頬張りながら、ルリはパフェの方を指さした。パフェの下では、大きなスプーンを抱えたルリと同じくらいの背丈の少女がいた。少女はこちらに気づくと、スプーンを抱えて駆けよってきた。スプーンは、あかりの背丈くらいはあった。

「あなたたち、だあれ?」

 あかりが口を開く前に、ルリが答えた。

「名前は教えない。おばあちゃんに教えちゃダメって言われてるから。それで、どうかしたの?」

「うーんと、あのパフェを食べたいんだけど、どうしても届かなくて」

「なんだ、じゃあそのスプーンでグラスを倒せばいいじゃん」

「あっ、そっか!」

「ねえ、あたしもパフェ食べていい?」

「いーよ!」

 ふたりの少女は仲良くパフェの方へ走って行ってしまった。

 そのとき、背後でごとりという音がした。反射的に振りかえると、白い半袖の服を着た子供が、そばにおちているクッキーを不思議そうに眺めていた。微妙な長さのその服は、白いワンピースにも見えるし、だぼだぼのロングTシャツにも見える。足は裸足だった。

 あかりは思わず声をかけた。

「君、何してるの?」

 子供はぱっと顔を上げた。こげ茶色のショートヘアで、目は薄い緑だった。国籍も性別も、見ただけではよくわからない。

「えーっと、私の言ってることはわかる?」

 子供はうなずいた。

「ぼく、ちゃんとわかるよ。どうしてそんな変なことを言うの?」

 見た目通りの甲高い声だった。ひとまず、言葉は通じるらしい。あかりはおそるおそる訊いた。

「『ぼく』ってことは、男の子なの?」

 もちろん、そうではない可能性も十分に考えられた。しかし、子供はしばらく考えこんでから、不安げに答えた。

「多分そうだったと思うよ。女王様がそう言っていたような気がする。アンジュは女の子で、ぼくはそうじゃなかったはずだから」

 あかりはぎょっとした。どうやら、この子もルリと同じく相当おかしな子供らしい。

「えーと、その女王様とか、そういうのはわからないけど、とりあえず男の子なのね。それで、君の名前は?」

 言ってしまってから、あかりはハッとした。ついさっき、ルリが「名前は教えない」と言っていたことを思いだしたからである。しかし、子供はにっこり笑って答えてくれた。

「ぼくはストラ。ここはなんだか色んなものがあって面白いね。君は?」

 あかりは戸惑った。ルリは、まだ誰にも名前を教えていない。ここは、ただでさえ理解不能な場所だ。そんな場所で、ルリがしていないことをあかりだけがするのは、どう考えてもリスキーである。どう答えたものか迷っていると、地鳴りとともに、天井の方から大声が降ってきた。



『マイナあぁ! いつまで寝てるのぉ! ご飯だから起きなさぁい!』



 それと同時に、オレンジ色の天井にバキバキとひびが入った。ルリが杖を片手に、猛スピードで菓子の隙間を駆けぬけ、こちらにやってきた。

「掴まって! この子の夢が終わっちゃう!」

「え、えええ?」

「早く、迷子になっちゃうよ!」

「ちょ、ちょっと待って……」

 あかりは咄嗟に、右手でルリの手を、左手でストラの腕を掴んだ。

 その瞬間、菓子だらけの空間はあっという間にバラバラに砕け、砂のように細かくなって消えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ