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ストレンジ体験記  作者: 藤阪つづみ
第1章 近所のおかしな子
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1 望月家

「はあ……」

 とある住宅の門前で、あかりは左手に下げていたボストンバッグを下ろし、汗をぬぐいながらため息をついた。

 今日という日は、八月の中でもことさらに暑い日だった。もう夕方だというのに、空は青く澄んでおり、じりじりと照りつける太陽の光が、湿った空気とともに全身を蒸しあげようと攻撃を繰りかえしてくる。おまけに、耳をつんざくような(せみ)の合唱が熱風にのって運ばれてきて、この暑苦しさをさらに耐えがたいものにしていた。

 おかげで、たった十分歩いただけにもかかわらず、あかりはすでに声をだす気力も失せるほど疲れきっていた。

 力なくジーンズのポケットからスマホを取りだして現在位置を確認し、もう一度、目の前の表札を確認する。擦り切れた縦向きの表札には「望月(もちづき)」と記されていた。残念ながら、この家で間違いないようだ。

 あかりは大きく息を吸いこむと、インターホンを押した。すぐに家の引き戸があけられ、男性がこちらへ走ってくる。この家は戸口から門がやたら遠いのだ。

「やあ、(あかり)ちゃん。来てくれてありがとう」

「今日からお世話になります、望月さん」

 あかりは軽く会釈してバッグを持ちなおし、大がかりな屋根つきの門をくぐった。

 望月家は、大きな和風の家だった。おまけに平家で、二階がない。それでいて、池つきの広い庭までついている。しかし、この家に住んでいるのは父と娘のふたりだけである。母親はいることにはいるらしいが、しょっちゅう留守にしているため、ほとんど会うことはない。

「パパ! おねーちゃん来てくれたの?」

 家の戸をあけて、十歳の瑠璃奈(るりな)がこちらにかけてくるのが見えた。黒髪のポニーテールが上下に揺れている。

瑠璃奈(るりな)ちゃん、久しぶり」

 あかりは、ぎちぎちの作り笑いで応えた。正直なところ、あかりは子供が苦手だった。しかし、どういうわけか、この「瑠璃奈(るりな)」という少女には懐かれてしまっていた。理由はさっぱりわからないが、彼女によると、五年ほど前に地元の夏祭りで十分程度話をしたのがきっかけだったらしい。

「高校生は忙しいだろうに、突然お願いして悪かったね」

 瑠璃奈の父が、門をしめてから、こちらへやってきた。

「この子は友達が少なくてね。しかも、母親も頻繁に仕事で海外へ行くでしょう。この子はひとりっ子だし、遊び相手が欲しくてうずうずしていたんだよ」

「いえ、平気です。どうせ、私も暇でしたし……」

 あかりが答えおえる前に、瑠璃奈(るりな)が腕を引っぱった。

「早く入ってよ! あたし、おねーちゃんに話したいこと、たくさんあるんだから」

 こうして、あかりは無理やり家の中に引き入れられた。

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