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十四.絶体絶命

「ダンガニー!」

 フレッドは驚きで瞳を震わせながら、目を閉じたまま全く動かないダンガニーの、重い体をどけた。下になっていたレイの体の方は、息があったが、左上腕の裂傷から激しく出血しており、意識はない。

「おい、しっかりしてくれ。死ぬな! 今、外へ連れて行くからな」

 とりあえず止血した方がいい。何か縛るものはないかと、周りを見回したが、ここは廊下なので何もない。困って、素手でぐっと傷口を押さえたが、傷が大きくて押さえきれず、指の間から血があふれてきてしまう。連れて行かれた時には元気に歩いていたレイは、いつか見たように真っ青になっていた。

 フレッドは、歯を食いしばって顔をあげ、周囲を見回した。


 ――何かないか? 何でもいい。止血だ! 


 きょろきょろしていたフレッドは、扉の向こうに人の気配を感じ、全身から汗が噴き出した。扉を開けようとした音に続き、ジリジリと金属を焼く音がし始めた。二人が倒れている場所のすぐ前の扉は、ダンガニーが通り抜けてから手動でロックしたらしく、扉を固定するレバーが下を向いており、自動では開かなくしてあった。

 バチバチ、という音と共に、焦げ臭い空気が流れてくる。どうやら、レーザー銃を使い、ロックされている扉を焼き切ろうとしているようだ。

 

 ――だめだ、やつらが追って来る! 


 フレッドは、ころがっていたレーザー銃でレイの銀のドレスのすそを切り取った。大急ぎでレイの傷へぐるぐると巻く。布が曲がって、くしゃくしゃになっているが、巻き方などどうでもいい。その間も、扉の向こうの焼き音は続いている。物がこげる臭いが充満する。扉はすぐに破られるだろう。こんな薄い布を巻いただけでは出血は止まらないかもしれないが、何もしないよりはましだ。ぐずぐずしている暇はない。

 フレッドは、簡単な止血処置を終えると、ぐったりしているレイの体を肩に担ぎ、元来た方へ小走りで――


「ぐあっ!」

 パスッと音がすると同時に、フレッドは数歩進んだ場所で倒れた。右ひざに激しい痛みを感じ、振り返ると、扉の一部に穴が開き、そこから銃口が覗いていた。

 フレッドはひざの強い痛みに耐えきれず、レイをその場へおろし、自分の体の後ろへやった。片足をやられたフレッドが立ち上がることができず、うなっているうちに、扉は完全に破られ、銃を構えた三人のゲマド人たちが奥から出てきた。

「どうやってここまで来たか知らないが、おまえはそこにころがっている機械人間とは違い、生身のようだな。レイ・グラウジェンを渡してもらおう。銃を捨てろ。さもないと、もう片方のひざも撃ち抜いてやる」

 フレッドは、両足を投げ出して打たれた膝を押さえ、こめかみから汗をしたたらせた。興奮と緊張で、呼吸は速くなる。

「くっ……くそぉ……これは大事な体だ。おまえらなんかに渡せない。ここにこぼれている血を見てくれ。酷く出血している。このままでは死んでしまう。早く手当したいんだ。下船させろ」

 ゲマド人の男は冷たく返した。

「それは無理な相談だ。ラオラント総統は我々の要求を無視した。決められた時刻までに我々の仲間を開放しなければ人質を殺す、と言ってあったのに、包囲しただけで、何の動きも見せない。レイ・グラウジェンは渡さない。抵抗するなら死ね」

 三つの銃口がフレッドの体を狙っている。レイの体を背にしているフレッドも、銃でゲマド人のひとりに狙いをつけたが、相手は三人。しかも至近距離。フレッドの体が訓練を受けた軍人だったとしても、一度に倒せるのはひとりだけ。盾も何もない上、どうしても守りたい半死人を連れている。ダンガニーの死体を盾として使ったとしても、レイの体を守りながら、敵を全員倒すことは難しい。どう考えても勝ち目はなさそうだった。

「……っ……わかった……銃を捨てる。抵抗する気はない」

 フレッドは背中に冷たい汗が流れ落ちるのを感じながら、銃をできるだけ後ろへ放り投げた。こうなったら、武器ではなく、口に頼るしかない。両手をあげて、戦う意思がないことを示し、言葉を振り絞った。ひざを撃ち抜かれた痛みで呼吸が乱され、唇が震える。

「いいか……よく聞け、こいつはレイ・グラウジェンじゃない。なりすましている……偽者だ」

 フレッドはひざの痛みで顔をしかめながら、必死で言葉を出した。

「こいつを殺しても何の得にもならない。こいつは……総統の息子なんかじゃなく――ぐっ!」

 バスッ、という音とともに、フレッドの怪我をしていない方の足にも一発撃ち込まれた。フレッドは床に座っていることもできなくなり、レイの体の前に倒れこむように横になった。

「やめろ……撃たないでくれ。抵抗しないと言っているだろう。うぅ……」

「ごちゃごちゃとうるさいやつだ。死にたいのか?」

「こいつはレイそっくりだが……中身は違うんだ」

 激しい両足の痛みで意識が遠のきそうになる。ゲマド人のひとりは、フレッドが放棄した銃を拾うとフレッドの後ろからレイに近づき、つま先で軽くレイの顔を蹴ると、噴き出して笑った。

「この面、間違いないだろう。この金髪やろうがレイ・グラウジェンでないなら、本人はどこにいるって言うんだ? どう見てもこいつはレイだ」

「違う! そいつはレイの偽者なんだ。本当だ、信じろ」

「おかしなことを言ってもこの男を解放することはできない」

「解放できないなら……今すぐここで、そいつの怪我の治療をしてくれ。頼む」

 ゲマド人たちは、ふん、と口々に嘲笑った。

「少しぐらい怪我をしているからと言って、あわてて治療するほどのことでもない。この男は、女のようななりをしていても恐ろしいやつだ。この機械人間を使って、我々の同士を何人も殺した。弱っていて動けないぐらいがちょうどいい」

「っ……レイが死ねば、ラオラントが黙っていない。おまえたちは全員死ぬことになる」

「脅しには乗らない。ラオラント政府がいつまでも我々の要求に応じないならレイを殺すだけだ。もちろん、おまえや他の乗客も一緒に。レイを船長室へ連れて行け!」

 レイは、気を失った状態のまま、二人の男に両肩をつかまれて、ひきずられていく。フレッドはなすすべもなく、喉の奥でうめき声をもらした。


 ――俺が……俺の体が連れていかれる……もうだめだ……助けられない……


 痛みで視界が狭まる。かすむ目を必死で見開き、追っていたレイの姿は、穴が開けられた扉の向こうへ入り、やがてその奥の扉を抜けて見えなくなった。

 フレッドの意識は、そこでぷっつりと途絶えた。


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