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十三.追走

 フレッドは、毛布の中で口をとがらせていた。持って行きようのない、いろいろな思いがからみあい、口が渇いて来る。舌を動かしながら、口内の乾燥をふせぎ、目を閉じて情報を整理した。

 どう考えても、体を勝手に使っている“レイ”は、ゲマド人の仲間ではない。それは確実だろう。仲間ならば、わざわざレイ・グラウジェンを探し出し、縛って連れて行くはずはない。ゲマド人は、“レイ”が本者だと思っている。レイがフレッドになっていることと、この船の乗っ取りとは無関係? これは偶然か? よくできた偶然。

 フレッドは大きなためいきをもらした。

 ――行きの船の事故も……次から次へと、なんなんだこれは。それにしても、俺の偽者も大したやつだ。大衆の前で辱められそうになっても強気な姿勢を貫いた。あの態度、人前で話すことや、命令することに慣れている感じだった。やはりあいつは軍人、フレッド・イベリー中将か。ダンガニーもブラウゾンもそれを知っているのに、はっきりと俺には話してくれない。だが、ダンガニーたちは俺の敵ではないみたいだ。“レイ”の秘密を知っている俺を、殺す機会はいくらでもあったのに、俺は生かされている。今は共に人質となり、仲間同士のようにレイの体を心配しながら、身を寄せ合ってここにいる。少なくとも、俺と、ここにいるブラウゾンとダンガニーは、今は敵同士ではない、ということだな。レイの体が大切なのはこいつらも同じで、ゲマド人の組織という共通の敵ができたってことか……


 今までに起こったことをつなぎ合わせながら、“レイ”の正体についてあれこれ考えていたフレッドは、背中に刺激を感じ、ビクッとした。自分の毛布の中に後ろから人の手が。寝返りを打つと、隣で横になっていたダンガニーの手が、フレッドを拘束している紐を引きちぎろうとしてくれているのだとわかった。コルファーの病院内で、自分を投げ飛ばして追い払った男が、今は、自分の手首の紐を解いてくれている。ダンガニーの変化した態度に、フレッドは苦笑した。

 消灯しない明るいロビー。監視のゲマド人二名は、人質たちが余計な話をしないように、ずっと見ている。怪力のダンガニーは、すでに自分の手を自由にすることに成功しており、細心の注意を払って、監視に気がつかれないように、毛布の下でフレッドの手の戒めを解いた。

「始まる。私はレイ様のところへ行く。やつらがいなくなったら、皆を連れて入口から外へ逃げろ。自分の身は自分で守れ。私が守れるのはレイ様だけだ」

 ダンガニーがひそひそ声でそう言った。

「えっ?」

 フレッドが聞き直そうとした時、ロビーの入口の扉が開いた。フレッドは、見張りの交代が入ってきたのだろうと、そちらを見もしなかったが、見張りのゲマド人たちが突然うめき声をあげ、レーザー銃を落とし、がっくりと膝をついて倒れた音に、ハッと首を向けた。

 倒されたゲマド人の背後には、二体の船内アンドロイドが立っていた。人質たちが、なんだ、と慌てて身を起こそうとした時には、ダンガニーは毛布をはねのけ猛スピードで走り、レーザー銃を拾うと、ロビーの入口を駆け抜けて行った。

「ダンガニー! 待て! ひとりでは危ないぞ」

 フレッドも飛び起きて、自分も落ちていたレーザー銃を拾うと、ダンガニーの後を追った。フレッドの体は、こういう時の動きは素早かった。手を縛られたままの人々が、立ち上がることができないうちに、フレッドはロビーから走り出ていた。


 廊下に飛び出したフレッドは、レーザー銃をかまえて左右を見回した。銃はフレッドの指を大きく広げたぐらいの長さで、軽くて扱いやすい種類のもの。

フレッドの指は、銃の安全装置が解除されているかどうか、無意識に確かめていた。やはりこれは軍人の体らしい。大きいだけで使い勝手が悪いと思っていたが、いざという時はすごい反射神経を示す。

 フレッドは自分の動きに感心しながら、今まで触ったこともなかった銃を慣れた手つきで構えて、すばやく辺りをうかがった。廊下には襲ってくる者は誰もいなかったが、倒れている者はいる。武装しているので、おそらくゲマド人。彼らを倒したのは、ダンガニーなのか、ラオラント側に支配されたアンドロイドなのかは不明だが、今、彼らの生死を確認するほど暇ではない。

 もう一度左右を確認する。ダンガニーの姿はすでになく、どちらへ行ったかわからない。レイは船長室に連れて行かれたはずだが、位置を知らない。

 フレッドは、とりあえず、船の前方へ向かって走り出した。



 タタタタッとフレッドの靴音だけが響く廊下。ここには敵はいないようだ。廊下を突き当りまで走ると、閉ざされた扉があった。フレッドは、センサーで開くぎりぎりの手前で立ち止まった。たぶん、そこは船長室ではないと思う。開けたらいきなり、向こうから銃乱射はないだろう……そう思い、銃の感触を確かめ、壁に身をよせると、扉に静かに近づいた。

 扉がゆっくり開く。ふぅ、と息を吐いた。誰もいない。再び走り出す。奥に見えている廊下と廊下をつないでいる次の扉まで。廊下の横には、いくつも扉が並んでついているが、それらは部屋番号が書かれているのでたぶん客室だ。普通はこんなところに船長室はない。

 

 神経を研ぎ澄ましながら、青黒い廊下を駆け抜ける。次の扉も、難なく通り抜けた。やはり、人の姿はない。ゲマド人たちは、全員船長室か? それとも操縦室か? 

 再び走り出したフレッドは、ムッ、と足を止めた。前方の扉の前に誰か倒れている。銃を体の前に突き出しながら、そろり、そろりと近づくと、倒れているのは二人だった。

「ああっ!」

 フレッドの声がひっくりかえった。折り重なって倒れている人間。見覚えのある服の色。一人はダンガニー。その大きな体の下に、銀の布地。ダンガニーのたくましい肩の下からわずかに覗いている金色の髪。

 フレッドはうめき声をもらした。倒れているダンガニーに守られるように重なっていたのは、レイの体だった。

「おいっ、しっかりしろ!」 

 どちらも目を閉じており、返事をしない。二人の倒れている場所には、赤い血の領域が、じわじわと広がって来ている。

「くっ、あいつらにやられたのか」

 フレッドは、大きなダンガニーの体をどけようとして、また悲鳴をあげた。レイを抱きしめたまま、うつぶせになっているダンガニーの背中には、拳ほどの大きな焦げた穴が、二つも開いていた。

 破れた服から見えるダンガニーの肉体。傷から出血はしておらず、そこに見えているのは焦げた金属部品。

 それは、どう見ても生身の人間の体ではなく、機械だった。



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