出会って。
やっと駅にたどり着きました。
「さ,着いたよ」
「ここが……」
ここが,星花女子学園……すごく,大きなとこ。ここに,あの人と母さんが……。
「久しぶりに見たけど,相変わらず大きなとこだなぁ。むしろ前より大きくなってない?」
「そうなの?」
「うん,前はもっと狭かった気がする。あの辺には大きな木があったと思ったけど枯れちゃったのかな?」
……私にはわかんないからひとまず黙っておく。
「あ,もうこんな時間。それじゃ墨乃,お母さんは先に式場で待ってるから」
「わかった」
……さてと,一人になっちゃったな。でも一人なら慣れてるし,と自分を納得させて新入生の群れに並ぶ。
「はい次の人……はい,白峰墨乃さんね,あなたは1-3,そこを曲がって……」
ふぅん,中はこうなってるんだ,なんて興味を抱きつつ,指示されたとおりに教室に向かうと,
「うわぁ……」
覚悟はしていたものの,やっぱりそうだった。あちこちでできる自己紹介の輪と,新参者への興味の輪。どれも私が苦手なこと。
「あっ,新しい子来た!」
あっ気づかれた,と思う間もなく早速取り囲まれる。
「ねぇねぇどこの小学校!?名前は?」
「ねっプロフ交換しよっ?IDは?」
「そういうのいいから」
雑に押しのけて通ろうとしても,あとからあとから群がりたいお年頃。邪魔よと押しのけても後から来ては道を塞がれて,
「ねぇ名前はなーにー?」
ぷちん。なんで私だけこんな目に。
「うざったいからどいてくれない?」
お母さん譲りの低い声ですごむと,「ひぃっ」と悲鳴を上げてみんなが離れていく。これで通りやすくなった。
あとは黒板の座席表を確認して……さてと,私の席は……と,ここね。カバンを置いて席に着けば,周りからのざわめきがひと際聞こえてきて。
(な,なにあの子,怖い……)
(ほらあの子だよ,スポーツ選手の)
(えっ,あの大食いの?)
(そう,大食いファイター雪乃の一人娘で……)
(親がえらいからってお高くとまってるよねー)
……最後のだけは聞き逃せなかった。初日から関係が壊れようと私には関係ない,と椅子を蹴って立ち上がろうとすると,
「あ,あのっ………」
目の前に立ちすくむ人が居て。
「……なによ」
「し,白峰墨乃ちゃん,ですよね……?」
「それが何か?」
「よ,よかったぁ……おんなじクラスだった……あ,あの,墨乃さんのことは私のお母さんと望乃夏さんに聞いてます」
「はぁ?なんでまた母さんなんかに」
わからない。しかも相手は前髪で目が隠れてて,何を考えてるのかわからないし……
「あの,わたし,安栗 墨代ですっ」
「すみよ……うん?」
どこかで聞いたような……もしかして。
「あなたが,うちのお母さんの友達の娘さんの?」
「は,はいっ,よろしくお願いします!!」
机に頭突きしそうなぐらい深々と頭を下げたはずみに,前髪がさらりと零れて目線が見える。それに気づいたのか慌てて前髪を下ろして恥じらうけど,一瞬だけ見えたその瞳は深い緑に見えて。
「頭を上げて。……まぁその,母さんが仲良くしてほしいって言ってたし,とりあえずよろしく」
「は,はいっ」
……なんでそんなにうれしそうなのかしら?
【一方その頃】
「よー望乃夏ー,元気してたかっ」
「あっ文化。久しぶりだね」
幾度となく見慣れたそのニヤケ顔が,今日はきっちりとメイクで飾られていて。
「あれ,雪乃は?」
きょろきょろと見まわす文化。その仕草は20年経っても全然変わってない。
「実は急な仕事が入っちゃって。そんなもんだから普段っから悪い仲がもうこじれっぱなしで」
「うへぇ,そりゃ大変だな。それにしても雪乃はあいっ変わらず食い物優先なのね」
「そうそう,おかげで帰ってくるたび体重計差し出しては怒られてるよっ」
「うわー望乃夏オニじゃん」
「それでも食べる量は減ってきたらしいけどねー」
「あ,あれで?」
「うん,あれで」
……外食するのはいいけど,たまには手料理も食べてほしかったり。
「んお,ちょっと失礼,携帯鳴ったわ。……おっ,さっそくいい知らせだぞ」
ずいっと自分の携帯を見せつけてくる。どうやらショットメッセージのようで。
「へぇ,墨代ちゃんと墨乃,おんなじクラスになったんだ」
「へへっ,幸先いいな」
鼻を撫でて笑うその顔には微かにシミやシワが増えたけど,雪乃を追いかけてたあの時とおんなじ笑い方してて。
「………文化,ほんとに幸せになったね」
「んお?」
「ううん,なんでもない」
さて,我が愛娘たちはこれからどんな風に羽ばたいていくのかな。