表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

出会って。

やっと駅にたどり着きました。

「さ,着いたよ」

「ここが……」

 ここが,星花女子学園……すごく,大きなとこ。ここに,あの人と母さんが……。

「久しぶりに見たけど,相変わらず大きなとこだなぁ。むしろ前より大きくなってない?」

「そうなの?」

「うん,前はもっと狭かった気がする。あの辺には大きな木があったと思ったけど枯れちゃったのかな?」

 ……私にはわかんないからひとまず黙っておく。

「あ,もうこんな時間。それじゃ墨乃,お母さんは先に式場で待ってるから」

「わかった」

 ……さてと,一人になっちゃったな。でも一人なら慣れてるし,と自分を納得させて新入生の群れに並ぶ。

「はい次の人……はい,白峰墨乃さんね,あなたは1-3,そこを曲がって……」

 ふぅん,中はこうなってるんだ,なんて興味を抱きつつ,指示されたとおりに教室に向かうと,

「うわぁ……」

 覚悟はしていたものの,やっぱりそうだった。あちこちでできる自己紹介の輪と,新参者への興味の輪。どれも私が苦手なこと。

「あっ,新しい子来た!」

 あっ気づかれた,と思う間もなく早速取り囲まれる。

「ねぇねぇどこの小学校!?名前は?」

「ねっプロフ交換しよっ?IDは?」

「そういうのいいから」

 雑に押しのけて通ろうとしても,あとからあとから群がりたいお年頃。邪魔よと押しのけても後から来ては道を塞がれて,

「ねぇ名前はなーにー?」

 ぷちん。なんで私だけこんな目に。

「うざったいからどいてくれない?」

 お母さん譲りの低い声ですごむと,「ひぃっ」と悲鳴を上げてみんなが離れていく。これで通りやすくなった。

 あとは黒板の座席表を確認して……さてと,私の席は……と,ここね。カバンを置いて席に着けば,周りからのざわめきがひと際聞こえてきて。

(な,なにあの子,怖い……)

(ほらあの子だよ,スポーツ選手の)

(えっ,あの大食いの?)

(そう,大食いファイター雪乃の一人娘で……)

(親がえらいからってお高くとまってるよねー)

 ……最後のだけは聞き逃せなかった。初日から関係が壊れようと私には関係ない,と椅子を蹴って立ち上がろうとすると,

「あ,あのっ………」

 目の前に立ちすくむ人が居て。

「……なによ」

「し,白峰墨乃ちゃん,ですよね……?」

「それが何か?」

「よ,よかったぁ……おんなじクラスだった……あ,あの,墨乃さんのことは私のお母さんと望乃夏さんに聞いてます」

「はぁ?なんでまた母さんなんかに」

 わからない。しかも相手は前髪で目が隠れてて,何を考えてるのかわからないし……

「あの,わたし,安栗 墨代ですっ」

「すみよ……うん?」

 どこかで聞いたような……もしかして。

「あなたが,うちのお母さんの友達の娘さんの?」

「は,はいっ,よろしくお願いします!!」

 机に頭突きしそうなぐらい深々と頭を下げたはずみに,前髪がさらりと零れて目線が見える。それに気づいたのか慌てて前髪を下ろして恥じらうけど,一瞬だけ見えたその瞳は深い緑に見えて。

「頭を上げて。……まぁその,母さんが仲良くしてほしいって言ってたし,とりあえずよろしく」

「は,はいっ」

 ……なんでそんなにうれしそうなのかしら?



【一方その頃】

「よー望乃夏ー,元気してたかっ」

「あっ文化。久しぶりだね」

 幾度となく見慣れたそのニヤケ顔が,今日はきっちりとメイクで飾られていて。

「あれ,雪乃は?」

 きょろきょろと見まわす文化。その仕草は20年経っても全然変わってない。

「実は急な仕事が入っちゃって。そんなもんだから普段っから悪い仲がもうこじれっぱなしで」

「うへぇ,そりゃ大変だな。それにしても雪乃はあいっ変わらず食い物優先なのね」

「そうそう,おかげで帰ってくるたび体重計差し出しては怒られてるよっ」

「うわー望乃夏オニじゃん」

「それでも食べる量は減ってきたらしいけどねー」

「あ,あれで?」

「うん,あれで」

 ……外食するのはいいけど,たまには手料理も食べてほしかったり。

「んお,ちょっと失礼,携帯鳴ったわ。……おっ,さっそくいい知らせだぞ」

 ずいっと自分の携帯を見せつけてくる。どうやらショットメッセージのようで。

「へぇ,墨代ちゃんと墨乃,おんなじクラスになったんだ」

「へへっ,幸先いいな」

 鼻を撫でて笑うその顔には微かにシミやシワが増えたけど,雪乃を追いかけてたあの時とおんなじ笑い方してて。

「………文化,ほんとに幸せになったね」

「んお?」

「ううん,なんでもない」

 さて,我が愛娘たちはこれからどんな風に羽ばたいていくのかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ