始まりの朝
私はこの世界が嫌いだ。
暑いところが嫌いだ、寒いところが嫌いだ、
暗いところが嫌いだ、狭いところが嫌いだ、
赤が嫌いだ、青が嫌いだ、黒が嫌いだ、
白が嫌いだ、紫も嫌いだ、緑もむしろ嫌いだ、
私を棄てた親が嫌いだ、
私を育てた親もどちらかと言うと嫌いだ、
私を生かそうとした医者も嫌いだ、
そして、
私を拾ったあの人が嫌いだ。
「ほら墨乃、行くよ」
「わかってるっ」
着慣れない制服に悪戦苦闘しつつ、乱雑な口調で返す。.......あれ、胸元こうでいいんだっけ?
「すみのー」
「わかってるって!!」
反射的にそう返して鏡の前に立つ。..............うーん、やっぱしなんか、ヘン。
「すーみーのー」
「わかってるって言ってんだろ!」
反射的に怒鳴る。直後に飛んできたのはゲンコツ。
「こーらー!! そんな口の利き方しちゃダメって言ってるでしょ?」
「.......わかってるよ.......」
ゲンコツの直撃した頭を擦りながら上を見上げる。シックな感じのパンツスーツに身を包んだ「女性」はといえば、握りこぶしを擦りながら「おーイテテ.......」なんてやってるし。
「.......制服なんかヘンなんだけど」
「えぇ? まだやってるの? もう、しょうがないなぁ。ほら、鏡の前に立ってみなよ」
言われた通りに立ってみると、「あーここ曲がってるっ」なんてぶつくさ言いながら手直ししてくる。
「はい、一丁上がり。いい加減覚えなよぉ? これからはお母さん、手伝ってあげられないんだからね? 」
「うっ、わ、分かってるって.......」
痛いところをグサリとつつかれる。..............ぐぬぬ、後で練習しておこう.......
「あぁっ、まだ髪跳ねてるじゃん、ほら櫛貸して」
「いいよこれぐらい」
櫛を手に頭を梳かそうとしてくる「人」からそそくさと逃げる。.......嫌じゃないんだけど、なんか嫌。
「ダメよっ、まだ跳ねてる」
「いい、自分で直せるから」
櫛をひったくると、自分で雑に梳かして寝癖を直す。
「もう、これぐらいはやってあげるからっ」
「それはいいんだけど.......何時まで経っても膝の間に挟もうとしてくるんだもの.......私もう12歳だし」
「えー? もうやらせてくれないの?」
人差し指を頬に当てて首を傾げるその仕草を少し可愛いと思いつつ、
「.......流石に恥ずかしいって。もう大きいんだし.......」
「何言ってるのよ。墨乃、あなたがどんなに成長してもね、私たちの《娘》であることには変わりはないんだからね」
「..............はーい」
背筋がくすぐったくなるのと同時に、「《義娘》じゃなくて? 」と問い返したくなる思いも鎌首をもたげる。
「あっ、もうこんな時間っ」
ふと時計に目をやって、向こうが慌て出す。やれやれ、しょうがないなぁ。
キャリーケースの取ってを伸ばして振り返る。
「ほらほら行くよ、.....................望乃夏《母さん》」
私、白峰墨乃、今日から星花女子学園に入学します。