神様から与えられるスキル
燃え上がったボールがゴールに突き刺さる。
「なぁ、マサ、これが普通なのか?」
少なくとも俺が知ってるサッカーは、プロが蹴ってもボールは燃えない。
「ん、ああ、火野くんのバーニングショットは珍しいものだけど、似たようなのはクラスでも何人か使えるよ」
マサの言葉を肯定するかの様に、周りに生徒も殆ど驚いていない。
なんだこの世界は、俺この中でサッカーやるのか。
というか、サッカーなんだよな。
非常に不安になる。
「おぉ、魔術師ではないか!」
不意に後ろから声を掛けられる。
振り向くと、髪を後ろでまとめた小柄な女子が声をかけてきた。
何故か顔だけ忍者のように紫の布で覆って隠している。
だが声には聞き覚えがある。
マサや山下の様に、世界は変わっても人間関係は変わったわけじゃない。
山下の体型みたいにこの世界に合わせて少し変化しているだけだろう。
実際、冷静になって思い返せば、さっきのバーニングショットを打ったやつも、交流は無かったが見覚えはある。
自分の記憶から、声と雰囲気に該当する人物を思い出す。
「もしかして、風魔か?」
「むぅ、もしかしてとは失礼な奴だ、顔を見て分からんのか」
「顔見えないけど」
「乙女が早々男に顔をさらすわけなかろう」
「じゃあ、わかんねえじゃないか」
「いししし、やはりケンジは打てば響く面白い奴だ、それにいつも言っておろう、我の事はシノと気軽に呼んでくれて構わんと」
「そう言って乙女の名前を気軽に呼ぶチャラ男と呼んだのは誰だよ」
「ししっ、乙女の心は移ろいやすいのだ」
目元しかわからないが、風魔シノも中身は変わっていない。
ちょっと変な奴だが、話すと気軽で付き合いやすい。
「ところで、お前もサッカーするのか?」
俺の知る風魔は、歴史小説オタクだった。
変な喋り方が小説に影響されて元に戻らなくなったと言うほどの変人で、スポーツはダメダメだったはずだ。
「笑止、我の力を知らないわけではない」
「もしかして」
全然わからないが、こいつもボール燃やしたりできるのか。
「いやいや、ケンジ、風魔はスカの方だから」
「スカ?」
「むっ、山下よ、スカではない。サッカーの神様から与えられる力を、矮小な人間が判断するものではない」
俺には風魔と山下の言っている意味がサッパリ分からない。
「あーそうだよね、そこからだよね」
首を傾げていると、マサが気付いたようで補足してくれる
マサによると、さっきの燃えるボールも含め、この世界の人間はサッカーにまつわるスキルを持っている。
ほとんどの人間は、フィジカルスキルと呼ばれて、何らかの肉体的部分が強化されるのみにとどまり、ノーマルと呼ばれる。
それ以外の特殊なスキルに関しては、
レア
スペシャル
ユニーク
に分かれており、基本的にはレアよりスペシャル、スペシャルよりユニークが優れている。
ただ、珍しさを基準にしているため、スペシャルやユニークでもレア以下の性能しか出ないスキルもあり、それをスカと言うらしい。
そんな話をしていると、風魔の名前が呼ばれた。
マサが俺にスキルを教えてくれているうちに、山下が風魔に俺の事情を話していてくれたらしい。
道理で静かだったわけだ。
「進化した我の力を見せてやる」
コートに向かう途中、ビシッと俺を指さしながら風魔が力強く宣言する。
位置につき、ゴールの前にセットされたボールに向かって風魔が走る。
女子とは思えない加速だ。
ボールをける二歩手前で風魔が叫ぶ。
「ダブル!」
その瞬間、風魔の隣に黒い影が現れ、タイミングぴったりに同時に蹴る。
「シュート!」
力強くボールが蹴られる音共に、ボールがゴールに向かってギュンっと加速して飛んでいく。
ゴールネットがゆれ、シュートを確認した先生が右手を挙げて宣言する。
「風魔、ハンド!」