ようこそパラレルワールドへ
もうわけがわからなくなった俺は、ありのままをすべて語った。
自分が、昨日まで学校では、机に向かって国語とか数学とかを勉強していて、サッカーは娯楽の面が強く、プロもいたが、義務とか人生に絶対必要なものじゃなかった事。
大抵の人にとってサッカーは、せいぜい体育か、遊びでちょっとやった程度な事。
ついでに、山下はぽっちゃり系だった事。
なんの証拠も根拠も無いけれど、必死に説明する俺の話を山下もマサも真剣に聞いてくれて、信じてくれた。
山下のぽっちゃりだけは信じてもらえなかったが。
「まるでパラレルワールドだね」
「パラレルワールド?」
不思議そな顔をすると、マサが一つ咳払いをして丁寧に説明してくれる。
要は、どこかで概念や歴史が変わってしまった世界。AかBかで選択を迷ったとき、選ばれなかった世界。
例えば、戦争で勝ち負けが逆転したり、全く思想が違う指導者がトップに立っていれば世界は大きく変わっていたかもしれない。
極論を言えば、人間生まれなかったり、科学ではなく魔法が一般的だった世界もあったかもしれない。
そう言った、もしもの世界のことらしい。
「つまり俺は、サッカーが生きる上で最も重要な世界に来たってことか?」
「わかりやすく説明するとそうだね。僕からすれば、サッカーが娯楽で済んでしまう世界は信じられないし、かと言ってケンちゃんが嘘を言ってるとも思えないからね」
「何かよくわからんが、大変だったな。筋肉を否定した俺が存在するのは納得いかないけどな」
ニカッと笑って、山下も慰めてくれる。
本当に良い友人たちだ。
「それで、俺たちは今日これから何するんだ?」
「今日はサッカー力測定だな」
「さっかーりょく? 戦闘力みたいに機械で計るのか?」
「何言ってんだよ、そんなの7つの伝説のサッカーボール集めてどんな願いでも叶えてくれるドラゴンが出てくる漫画の中だけだぞ。普通に考えて無理だろ」
ホントに何も知らないんだぁと山下が笑う。
俺の中ではそのストーリー展開も無理だと思うが、ここはそう言うなんちゃらワールドなんだと自分に強く言い聞かせる。
「山下の言うとおり、そんな高性能な機械はないから、普通にパスやドリブル、キックの強さなんかを見るんだよ。それで明日やるチーム作りの参考にするんだ」
「チーム?」
あー、そこから説明が必要か、とマサはどうしようといった感じで顎に手を当てて考え始める。
「マサ、それだと時間かかるから、とりあえずケンジを着替えさせて、会場に連れてこうぜ」
「そうだね、時間も結構ギリギリだから、実際見ながら説明したほうが良いかな」
そう言って、山下とマサに連れられて、スタジアムの中に入っていった。
中は、俺が想像したスタジアムそのままで、違うのは一階から三階までに、更衣室以外にも、教室や職員室、講堂などの学校設備が詰め込まれていることだ。
そして、その上にスタジアムが乗っかっている。
高校とはいえ、テスト期間(サッカーの試合らしい)や学園祭(これもサッカーの試合)その他他校との親善試合や修学旅行試合等の試合の時は地域の住民が大挙するため、万単位で人が入れるスタジアムがどの学校にも常備されているらしい。
ちなみにうちの学校が1学年150人定員なのは前の世界と変わらなかった。
スタジアムの建設費はどこから出てるんだろうか
そんなくだらないことを考えながら、俺たちは、更衣室に向かった。