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シノビーツ・ナイトコア  作者: 駿河ドルチェ
アヴァルシス王国騒乱
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杖ノ章

 小麦倉庫の中に、緊張感が張り詰めた。


「切りますか? 御館様」天音が千景の耳元に口を寄せ早口で尋ねた。千景はその言葉よりも、吐息による思わぬ刺激に、心がグラついたが奥歯を固くかんで耐えた。


「まあ待てそう焦るでない、別の世界から来た者達よ、しかし、はて、我が呼びだしたのは一人だけだと思っていたのだが……これは異なこと」


 エルタの変色した半身側が、千景の事を知っているような口ぶりで語りかけてきた。先程まで視点が定まらなかった黄色く変色した目が、今は鋭く千景を射抜くように見据(みす)えた。


「俺を呼び出したということは、お前があそこにいた邪神の関係者か?」千景が言った言葉に対して、黄色い目の何者かは大声で笑いだした。


「面白いことを言うのお、我が邪神かあ、そうか、そうか……別の世界から来た者よ、お前の誤解を解くためにも、初めに我の名を名乗っておこう、我の名は『ルルカ・テルミ・ノルミスト・アールシャール・ラフィーエ』生きていたころは、その名を聞けばみな平伏した、偉大な魔女の名前であった。そしてこの美しい髪の色にちなんで『南海の魔女』と呼ばれたりもしていたわ」


 その複雑な色をした青い髪を見せつけるように、一周くるりと回ってみせ、薄暗い倉庫の中でそこだけ、スポットライトが当てられたように(きら)めいた。南の島の海岸を見ているような色合いの髪ということか。


「お前が南海の魔女と言われていた偉大な魔女というのはわかったが、誤解を解く? 俺が抱いている疑問も誤解も解けてないぞ」


「なんじゃ、鈍いやつじゃな、このエルタもラフィーエ、我もラフィーエ、この娘はわらわの可愛い子孫ということじゃ、我に比べたら大分地味顔になってるからわかりずらいと思うがな」


「ほーそれで、その先祖様が一体何……」と千景が話ている時に「ルルカと呼べ、ル! ル! カ! 様を付けて(うやうや)しく丁寧に呼べや」と力強く割り込んできた。


 千景は、うんざりしたように溜息をついて「ルルカ様、一体何なのですか貴方様は」と棒読みで尋ねた。


「だから言ったであろう、偉大な魔女であったと、じゃあどうしようかなお主がここに今こうやって立っている顛末でも話そうかの」


「そこが一番重要なんだよ!」


「五月蠅いやつじゃの、そんなんじゃお主の前におるその我には劣るが可愛らしい女子(おなご)に嫌われるぞ、どうせお主はその女子(おなご)をぞんざいに扱っておろう? 女子にダメ男好きの相がでてるわ」


「なっ、御館様! 天音は、どんなに大量の荷物を持たされて夜通し狩りに付き合わされようと、博打に付き合わされようと御館様のことをダメ男なんて思ったことありませんからね!」


「落ち着け、天音……そんなことで狼狽えてどうする……いやまあなんか扱いがぞんざいと言われると……俺も引っかかることがあるが、そんなこと今は関係ない! 今問題なのは俺がここに呼ばれた理由と……それと! エルタの顔をしている天音の本当の素顔が見えているかということだ! 答えろルルカ!」


「だから様を付けろと言っておろうに、言われたばかりなのに熱くなりすぎじゃわい、まあいいわ、とりあえず先に答えられそうな質問の顔が見えているかどうか、ということじゃが答えは見えておるじゃ、この煌びやかに輝く黄色の(まなこ)はそういう目じゃ」


「そうか……天音、エルタへの変装はやめだ、術を解いていいぞ」


「そう焦らずとも、このような目の持ち主なぞ、そうはいるまいよ」


「といっても、可能性は0じゃないだろ」


「まあのお、0ではない、0ではないが限りなく0に近いと思うがまあいいわ、我が何と言おうと今の段階では信用はせんじゃろう、それでは次にもっとも重要なこと、お前をこの世界に呼んだ理由なんじゃがな……有り体に言えば事故じゃな」


「事故って……」


「あのお主が召喚されたところにいた干乾(ひから)びたけったいなやつがおったじゃろ、あやつがエルタの中に流れている我の血の因子(いんし)を使って悪さをしようとしたんじゃよ。だから我が、エルタの中に入ってきたところを邪念ごと食ろうてやったわ、この娘はお前に助けられたと勘違いしておったが、ただもう異世界への扉は開かれていて、やつは代償を支払った後じゃった、なにものかを呼ばなければその扉は閉じぬ、そういう扉がのお、もし悪しき者が入ってくればすぐにエルタは殺される。なればと、それならばとお主が強そうであったし、悪しき者を殺すお主がエルタを殺すことはないと思ったから連れてきたそういうわけじゃ」


「じゃあ俺は特に意味もなく呼ばれたってことじゃないか! エルタに危害を加えなければ、なんでもよかったなら犬でも呼んどけばよかっただろ!」


「お主、阿保じゃろ、代償を支払ったのならそれに見合うものが通らない限り扉が塞がりはせぬわ、犬っころというのなら地獄の番犬でも呼ばぬ限りな」


「あほって……そんなこと俺が知るわけないだろ! まあいい、もう呼ばれたんだからもうそこはあーだこーだ言ってもしょうがない」


「おっ切り替えは早いの」


「なんか調子が狂うが、それじゃあ代償を支払えば俺も元の世界に戻れるってことだな」


「戻れるぞ、ただそれにはちと問題があってな、お主を元の世界に戻すような代償は簡単には手に入らないということじゃ、使われた代償が代償なだけにな」


「あんなクソ雑魚みたいなやつが、払った代償なんてたかがしれてそうなものだが」


「やはりお主は阿呆じゃ、お前がクソ雑魚と言ったあそこにいたミイラは、あんなのはただの残りカスみたいなものじゃよ、倒せて当然、我ならデコピン一発じゃ」


「じゃあなんだっていうんだ、あのミイラは異世界への扉を開く前は相当強かったってことか」


「お主は、一つ大きな勘違いをしておる、お前と関係があるのは、あやつが、握っておった杖じゃ」


「杖?」よくよく思い出して見ると、八本あった手の中に杖が握られていたような気がしないでもなかった。


「そう杖じゃ、災厄を生み出す杖、流転する災禍の杖、こちらでは『黒渦(くろうず)の杖』と呼ばれておる。浅ましき黒い怨念(おんねん)が渦巻いている杖ということでな、その『黒渦の杖』は、破壊することが出来ず、封印されておる」


「封印されている杖? じゃあ、あそこにあったっていう杖はなんだったんだ一体」


「そこが問題での、とあるところに黒渦の杖は封印されてはいるのだが、尋常ではない力のせいで、封印の隙間を縫ってこの世界にその杖のレプリカのようなものが出来るんじゃよ、あの『邪渇宮(じゃかつきゅう)』にあったものは、その『黒渦の杖』から枝分かれしたレプリカじゃ、わらわの子孫がレプリカさえ壊せず封印していたものなのじゃ」


「杖……俺がこちらの世界に来た時、叩き落したが、あれのことか? 地面に落ちたらすぐに消えたような」


「あの杖は、もう死んでおったよ、正確にいうならば元々死に絶える寸前の杖じゃった。長い年月をかけて『邪渇宮』でその災厄(さいやく)の力を削ぎ落してきたからのお、そんなところにノコノコとエルタが行ったものじゃから、最後の悪あがきをしたんじゃよ」


「その悪あがきの巻き添えを食って、俺はここにいるということか?」


「まあそういうところじゃ、死に際のレプリカの杖が助けを求めにいけるようなところはもう、お前が元居た世界しかないからのお、なんせ『黒渦の杖』は元々お前がいた世界から来たものだからな」


「俺の世界から来た? ゲーム内から?」


「ゲーム? なにかようわからんが、お前の世界から来たというても、お前は知るはずもないぞ、ここ最近の話ではなく、遥か昔、大昔の話じゃぞ、あの杖がこちらの世界に来たのは、それでまあ、レプリカの杖がお前の世界に扉を開いてさっきの話のようになったということじゃな」


「完全なとばっちりだな、ノブナガを倒して気持ちよく寝るプランがめちゃくちゃに……」


「そこのところはまあ申し訳ないと思ってはおる」


「本当かよ……で俺が元の世界に戻れる代償ってどこにあるんだよ」


「うーん、わからん、なんせ我がこっちの世界に顔を出せたのは全くの偶然だし、ひさしぶりのことであるからな」


「そんな投げやりな言い方あるかよ」


「お主が、我の本体がいるところまでこれるなら送り返せるのだがな、それもまあお主も強いには強いのだが、うーん」


「それはどこだ?」


魔線境(ませんきょう)ヴォルカニカ、神々によって黒渦の杖を封印するためだけに作られた世界、神々や魔神、古の種族が闊歩している世界じゃ」


「その言い方だと簡単には辿り着けなさそうだなそこに……」


「そうじゃのお」


 次の言葉が続かなった千景に「御館様どうしますか?」と話を聞いている最中ずっと刀を構えていた天音が声をかけてきた。


「どうするも何も……俺が元の世界に戻るためには送り返す代償となるものを見つけるか、そのヴォルカニカに行くしかないってことだよな……」


「簡単に言えばそういうことじゃな」


「大体もう想像がつく、俺にはこの先の大体の展開が読めるぞ、あほあほと言われていたが、絶対俺を送り返す代償なんて見つからない、そしてそのヴォルカニカに行かなければいけなくなる」


「同感じゃな、我もそう思う、そして今一番お主がやらなければいけないことは我の反対側で黙って話を聞いているエルタを守らなければいけないということじゃ」


「わかった、まあいい元の世界に今すぐに戻れないんだ、俺達だって生きなければいけない、元の世界に戻れるヒントがエルタとルルカ様というのなら守るさ、ただ俺は全部の話を信じてるわけではないからな」


「それはお主の勝手じゃ、心の全てを操る(すべ)は今の我には持ち合わせてはおらぬ、とりあえずこんなところかの今話すべきことは、ひさしぶりに人と会話して我は疲れた、少し眠る」


「おい、まだ」


「あの千景様、も、元に戻ったみたいです、半身の感覚が戻ってまいりました」


「あーもう言いたいことだけいいやがって……しかもルルカが乱入してきたせいで、次に何をしようとしていたのか頭から飛んだよ。エルタは、あんなのが体の中にいるって知らなかったのか?」


「まったく知りませんでした。話に出ていた『邪渇宮(じゃかつきゅう)』のこともそうなんですけれど、何分(なにぶん)とても古い話なので、神話のような形で残ってるだけなんですよね、ルルカ様の名前の中にあったアールシャールっていう部分と『南海の魔女』って言われていたこともそうですけど、神話の中じゃ、国を滅ぼして歩いた邪悪な魔女っていう話で残ってるんですよね、そしてどこかの国の王子と出会った後、恋に落ちて姿を消したとか」


「なんだそりゃ、あいつまじで信用できないな、胡散臭(うさんくさ)いことこの上ないな」


「なんじゃとお! まだ我は寝ておらぬは! 我が戻ったからって聞いてないわけじゃないないからの!」ルルカがまたエルタの半身を乗っ取って出てきた。


「そりゃ我にも荒れてた時期はあった、それは否定しない、ただもう随分前の話じゃぞ、しかも話が捏造されておるし、国を滅ぼして歩いたのは我の父じゃ」


「国滅ぼして歩いた父とその娘って悪役じゃないかそれ」


「我は違うぞ、あやつに会ってから、変わったんじゃ、アヴァルシスに会ってからな」


「この国の名前だなそれ」


「我とアヴァルシスの子供が、この国を作ったんじゃからな当然じゃ、そしてヴォルカニカで『黒渦の杖』を封印しているのわ、我とアヴァルシスじゃ、我らは、杖の災厄を防いでいるのだから大昔の悪行なんてそれでチャラじゃチャラ、じゃあの」またルルカは言いたいことだけ言って消えてしまった。

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