助けられた代償
ザックフォードは、移動中にいくつかの質問を白狐にぶつけようとしていたが、その見通しは甘かったことを思い知らされた。自分が風の一部になったのかと思えるほどの速度と上下運動で口を開くことが出来ない、開けば間違いなく舌を噛み、それは文字通りの自殺行為だった。
そんなザックフォードに構うことなく一人と一匹は尋常ならざる速さで木々の隙間をすり抜け、沢を飛びこえ、一直線に目的地に進んでいった。この森に彼女達の進行を防げるような障害は何もなかった。
生えている木がまばらになり、そこかしこに斧で倒された形跡のある切りカブも見えるようになってきた。それは人がこの辺りまで足を踏み入れているというサインであり、人里が近いということを示していた。
不意に走るスピードが緩やかになった。黄金の狐の背に乗った時から今まで走るスピードが落ちることがなかったのでザックフォードは前に何があるのかと気になり、背中から少し体をずらし前が見える位置に顔を出すと、そこには一人の男が立っていた。見覚えのある男、三日前程の深夜にヴィネリアと格闘していた男、それは千景であった。
白狐が千景の側に行き「主様、連れて参りました」と跪いた。
「ありがとう白狐と、三日ぶりかザックフォード」
「俺よりも随分若く見えるが呼び捨てか? 千景」そう言いながらザックフォードは黄金の狐の背中から飛び降りた。
その軽口に「殺しますか? 主様」と白狐が噛みついた。
「冗談だよ、冗談、軽い挨拶、ちょっと千景からも何か言ってやってくれよ、俺はやりあうつもりはねえよ」
ザックフォードは以前に千景に会った時と同様に自分のペースで話を進めようとした。
「あら、貴方、眼鏡飛んでしまったようですね、走るのが速過ぎましたか」白狐が軽蔑するような眼差しでザックフォードを見た。
「構わない、あれは伊達眼鏡だ、不真面目な俺が少しでも団長らしく見えるようにとアルミラがくれたものだったからな、鬱陶しかったんだよ、着けてると目頭に後が残るしな」




