狐月雷葬
白狐がゆっくりと上に手を伸ばしていく姿を、グレイルは目で追うしか出来なかった。妖しい美しさを持つ白狐の所作には、人の視線を釘付けにする魅力的な力があった。ただその後に起ったことは、グレイルにとって不幸としかいいようがなかった。
妖狐術『狐月雷葬』と白狐が唱えると、白狐の掌から生まれた球体が爆音と強烈な発光と共に、グレイルが『グラヴィティ・コラプス』で生み出したドーム型の膜を食い破るように広がり、雷がうねりをあげる球体の棺を生み出した。
ゲーム内ではこの術に対して対策していなければ、術の効果が発生時、スタングレネードを炸裂させたようなものを受け、プレイヤーキャラは視覚と聴覚を奪われ、その上効果範囲内には常に雷が走り続けているので、その雷を食らうたびに全ての防壁を無視する固定ダメージを与え続けるという、術自体を受けてはいけない部類のものであった。これを集団戦で使えば白狐の周りにいるプレイヤーキャラは、無防備になるか、閃光と爆音を防いでも貫通固定ダメージによる、攻撃を受けダメージエフェクトが発生してしまうので、ほぼ確実に追撃を受けることになった。ただこの術は制約がある特殊技能扱いであり、使用できる時間は夜の限られた時間のみ、一夜に10回の使用回数制限がつけられていた。
そんな術を、この世界の住人のグレイルは、対策などしている分けもなくひとたまりもなかった。雷がグレイルの体を貫き、そのたびに跳ね上がることしか許されない。
飛び跳ねているグレイルに向かって白狐は「貴方の本体、土の中に居ますね、でも私のこの術は綺麗な球型の範囲になっていますので、そんなもの関係ありませんけど」と言ったが、グレイルは何も答えることが出来なかった。ただそれでもグレイルの体は、急速に回復をしていた。
歩いて近寄っていく白狐からグレイルは、転移で距離を取り少しずつ外へ外へと逃げていった。そして次の瞬間、白狐が言った通り土の中から何かが飛び出してきた。
それに目を凝らしながら白狐は「本ですか」と言った。白狐が見たものは、表紙が桃色がかった黄色の本であった。その本はまるで意志を持っているかのように次々とページがめくれ何事か書き込まれていた。
そして『狐月雷葬』の効果時間が終わりをつげたのと同時に、その本もぱたりと地面に落ち、書き込むのもやめた。そしてグレイルはそれをすぐさま拾い上げ、白狐を鋭い目つきで睨みつけた。
「お前に、お前なんかに……」とグレイルはぶつぶつと念仏のように言葉を発した。
「やめときなさいグレイル、貴方じゃあの子に殺されるわ」といつのまにやらグレイルの後ろに白衣を着た女が立っていた。
「別の白衣の方ですか、周りを囲んでいた者達は全部処理したと思ったのですが」白狐は白衣の女に向かって語りかけた。
「あんなやつらとは一緒にしないでお嬢ちゃん、こいつ連れて帰っていいわよね? こんな奴でも今死なれたらそれはそれで困るのよ」
「どうぞとは言えませんね」
「そう? まあもう行くからいいけど」と白衣の女がそう言うと、女の横の空間に亀裂が走りそこへ、グレイルを放り投げた。すぐに白衣の女もその中に飛び込み「さようなら」と言って消えていった。
白狐は、一息ついてからヴォイスチャットを開き千景に「これでよかったんですよね主様」と言った。
「ああ、ありがとう十分だ」と千景は答えた。
ザックフォードに付けた追跡針と同じものをグレイルにも付けておいたからだった。
「これでやつらを追跡出来る、ザックフォードのところに行ってくれ」
「かしこまりました、主様」と白狐は恭しくいってから、ザックフォードの所に戻っていた。




