追跡
「お互いの力関係と近況報告は、終わったと思うのでそろそろ本題に入ろうかザックフォード」
グレイルは背中に隠していた、緑色に輝く球体の魔法陣を手の平に引き寄せ『グラヴィティ・コラプス』と唱えた。すると二人を大きなテントで囲うようにドーム型の薄黒い膜に覆われ、ザックフォードは『アンチ・マジック』を自身にかけているにも関わらず、自分の体重が何倍にも膨れ上がっていくような重さを感じ、倒れている騎士団員達同様に、足が地面にめり込み始めた。
ザックフォードはそれに抗うように、自分の腹の底に魔力を込めた。しかし、その瞬間に魔力を込めた時の感覚とは違うものが走った。そしてザックフォードは唖然とするしかなかった。自分の顔の数センチ前にグレイルの顔があり、燃えるような赤い目が冷たく見据えていたからだった。
ザックフォードは刺された痛みで我に返る。
『アンチ・マジック』が徐々に力を失くし、それに比例するように体に圧し掛かってくる重み。不自然な軌道を描きながら腹から血が地面に滴った。
グレイルはその様子を見ながら「グリム・クロスを渡して貰おうか、お前には過ぎたものだ」と言った。グレイルが動かなくとも徐々に深く突き刺さっていく短刀。ザックフォードの口角から血の滴が糸を引き始めたが、目はまだ死んではいなかった。
ただそれでも、ザックフォードはグレイルを強い眼差しで睨みつけること以外出来なかった。
しかし次の瞬間ザックフォードの目線の先で奇妙なことが起こった。目の前にあったグレイルの顔が横に吹っ飛んでいったのだった。その時視界の中に白い膝とそこから伸びる細い足が一瞬見えた。
膝蹴り……
グレイルの重力魔法で作られたドーム型の膜が消え去り、ザックフォードは体が軽くなるのを感じた。そしてチラリと横目でグレイルが飛ばされた方を見ると、顔だけでなく体ごと横に吹っ飛ばされていた。
ザックフォードの目の前には、グレイルの代わりに少しばかりのフリルが付いた黒いロングドレスを着た女が立っていた。
女がゆっくりとザックフォードの方を向き、二人の視点がかち合ったときに「生きていますね、これを飲んでください」と抑揚が感じられない声で言った。
女に渡されたピンクの丸い物を、ザックフォードは素直に飲み飲み込んだ。すると、見る間に深く抉られていた腹の傷が見る間に塞がっていった。
「あ、ありがとうと言えばいいのか」
「そうですね、ただその言葉は主様にとっておいてください、貴方はとても運がいい、そしてとても運が悪いのかもしれません」
「おまえの名は?」
「白狐、貴方はとりあえずそこに行儀よく座っていて下さい、まだ終わっておりませんので」
そう言うと白狐は、グレイルめがけて加速した。




