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シノビーツ・ナイトコア  作者: 駿河ドルチェ
アヴァルシス王国騒乱
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配ノ章

 「これでひとまず大丈夫だ」と言いながら、小脇に抱えていたエルタから手を離すと、エルタは「……あ、ありが……と」と礼儀正しくお礼を口にしようとしたが、満足に舌が動かず、ここまでのジェットコースターのような移動で、どうやら目を回したらしい、足取りはおぼつかなく、酔っぱらったような足取りでフラフラと後ろに下がっていき、(しま)いには、立ってることを諦め、小麦の袋に寄りかかり、力なく崩れ落ちた。その光景は昔、ジェットコースターを一緒に乗った妹の姿とダブって見えた。


――エルタが、フラフラしているのは時間が経てば治るだろうしそれは置いといてだ、ここからどうするか……


 数分間、エルタは袋に寄りかかりながらぐったりとしていたが、ゆっくり深呼吸をして呼吸と意識を整えてから「あ、あの千景様、これからど、どうするのですか?」と話しかけてきた。


「そうだな、うーん、ちょっとその前に試してみたいことがあるから、少しだけ時間をくれないか、それがうまくいくかいかないかによってやれることも大分変わってくる、その間エルタは、ゴルビスのことを俺に教えてくれないか、どういう人物なのか知っておきたいんだ」


 千景は、一般兵士の襲撃によって中断されて手を付けることが出来なかった配下NPCの召喚をやってみることにした。これが成功して、配下NPCがきちんとゲーム内のように操作が可能だったら、間違いなく大きな戦力になる。


 すぐに千景はプレイヤー操作キーを取り出しその作業に取り掛かった。また怪しげに自分の前の何もない空間で指を動かしている千景に向かってエルタは、言われた通りゴルビスの事について話し出した。


「ゴルビスはですね、この国の四大貴族のアンブローム家の出で、その政務能力の高さから、わが父に重用(ちょうよう)され、宰相の地位まで上り詰めました。父はそういう方面には(うと)く、ゴルビスがこの国を豊かにしたのは事実です。ただ……黒い噂も多く、この都市の裏の組織と(つな)がりがあるらしいのですが……政治的に反発する者の中には、不審(ふしん)な死を遂げる者も多くいたのです。しかしゴルビスの能力の高さ故、政治的に(とどこお)ることはありませんでした」


「なるほどね、四大貴族、アンブローム家、裏の組織ねえ、なるほど、続きは、ちょっと待ってくれないか」とエルタが喋ってる口を止め、特殊上位技能『配下招来(はいかしょうらい)天音(あまね)』を使い、千景の配下NPCである『天音』を呼び出した。


 この配下NPCは『倭国神奏戦華(わこくしんそうせんか)』にNPCクリエイトアトリエ『KAIBYAKU』がアップデートされて作成可能になった。プレイヤーが基本行動や使用AIの種類、会話、好感度、外見、キャラ設定を自由に設定することが可能で、さらに職、技能、技術をプレイヤーと同じように成長させることが出来た。


 NPCクリエイトアトリエ『KAIBYAKU』は本サーバーとは異なる、NPCを作成するためだけの専用サーバーが用意され、そこで作成したNPCを本サーバーのアカウントにある配下スロットに準プレイヤーとして登録することで、はじめて本サーバーで召喚することが可能になった。


 しかしこれは、課金者専用コンテンツとして実装され、一体目は五千円

、二体目八千円、三体目1万円と配下スロットを解放するたびに必要な額が増えていく仕様であった。


 天音は、配下NPCが実装された時に最初に作成した千景にとってどのプレイヤーよりもずっと一緒に行動を共にした一番思い入れのある配下NPCだった。


 ただ作成にあたって千景には大きな問題が立ちはだかった。


 それはキャラメイキングで一番重要なポイントと言っても過言ではない外見のキャラメイクが、自分でやるとどうしてもイメージ通りにいかなかったのだ。


 そういうのが苦手な人のために、キャラクターの外見のデザイン素材が結構な種類が用意されていて、パーツが多いのでそれらを使用して作成しても他のプレイヤーと全く同じようになるのは考えずらかったが、似たような外見になるかもしれないというのはやはり許せなかった。


 そういうわけで現実についている職業上こういう作業が、めっぽう得意な犬犬(いぬいぬ)に交渉を持ち掛け、夕飯を一回奢るというところで手をうってもらい作成を手伝ってもらった。


 その時犬犬には、黒髪でシュッとした感じのキリッとした感じで、こうなんていうんだろうか、闇夜が似合うくノ一的な感じでよろしくと今思い出してもなんともふわっとした要望を出しておいた。


 『KAIBYAKU』サーバーへの接続は、専用NPCからキャラを作成する部屋の鍵を借りる仕組みで、一部屋五人までその部屋に入ることが出来た。


 実装から数日後の深夜に、犬犬から大体できたからちょっと来てくれと連絡があったので、今か今かと待ちわびていた千景はすぐに部屋に向かった。


そしてドアを開けると目の前には黒髪ロングの爆乳くノ一が立っていた。


 胸の素敵な物に目が行きつつ、部屋に足を踏み入れると同時にアーティスト犬犬先生の熱いくノ一NPC解説がはじまった。


「やっと来たか千景、どうよこれ、見てココ、渾身の出来だと思うね、くノ一と言ったら爆乳、これ外せないから!」


 開口一番、犬犬のストレートパンチのような一言が千景を襲い「そ、そうだね、うんうん、そうかもしれない」と相槌を打つしかなかった。顔がでもどこかで見たような顔をしていた。そんなことを千景が気にしているなんてことを知るわけがなく犬犬はさらに解説を続けた。


「でだ! この(うれ)いを秘めたような顔つき! 千景君わかる? 顎をシャープに、耳はちょっとふくよかな福耳にして、頬肉をほのかに盛り上げる、そして意思の強そうな目とキリッとした眉毛! 女忍者だからね、クールに見えないといけない、クールビューティーね、だから鼻はこうシュッとして高めでくっきり、どうよこれ、千景君が言ってたみたいにシュッとしてキリッとしてるだろ」


「うん、うん、いい! すごいくいい! でもなんか出来はすごいんだけどなんかどっかでみたような?」


「そうか? 気のせいだろ俺が、一から全部作成したんだから、顔の解説はそれでいいとしてだ、あとはこれ俺の会心の出来のこの扇情的(せんじょうてき)なボディーライン! 完璧だろ、すごくない? やばくない? 千景君は、俺の事を神と(たた)えていいよ、ただこのボディーラインを演出するために千景君よりも若干背が高くなってしまったがそこはまあいいだろ」


 上から下まで見て見ると、確かに犬犬が言ったように均整が取れた顔立ち、腰の辺りまで伸びた長い黒髪、まだ作成途中なので体のラインがくっきりとでる、ぴっちりとした黒いウェットスーツのようなものを着ているので、余計に出るとこが出て引っ込むとこが引っ込んでいるスレンダーボディーが強調されていた。そして横に並んでみると確かに天音の方が身長が高かった。


「身長のことは置いておいても、すごいですね、ここまで綺麗に出来るものなんですね、本当に生きてるみたいだ」心の底から千景は犬犬の仕事ぶりに感心した。


「だろ、満足してくれたようだし、じゃあ何奢って貰おうかなあ、千景、今度休みいつよ」


 二人がそんな会話していた時、ギルド初の配下NPCが完成したという話を聞きつけていた犬犬の兄の罠罠が部屋に入ってきた。


「おーいいじゃん、でもお前これ、ミカミカに似てない?」と言ってきた。


「あーそうだこれ、駅ビルの広告で見たアイドルのキャラじゃん、そうだどっかで見たような顔だと思ったんですよ」


「そ、そうか? ミカミカはこんな目つき鋭くないけど、ボディーもこんんなメリハリボディーじゃないし……まああれよ、自分の中の可愛い顔という理想像に近づけてたらこうなったんだから、俺が宇宙一可愛いと思うミカミカの顔に近づくの、これはもうしょうがなくね?」


 犬犬はさりげなく、似ていることを認めた形になった。


 ミカミカとは『シャイニングスターズ 天翔けるアイドルフェスティバル』という、宇宙人の飛来が日常的になった近未来、地球をもっとよく知ってらもために色々な星でアイドル達がコンサートを開くという育成ゲーム。


 そのメンバーの中にいる、深軽(みかる)海歌(みか)という黒髪のクール系キャラで犬犬の押しキャラだった。たぶん連続する二つの音、ミカミカと犬犬にシンパシーを感じていたのだろう。

 

 このゲームがリリースされた時に千景は犬犬に「今までの音ゲーは画面内のアイドル達を見て、音楽に合わせて画面をタップしてただろ、今の音ゲー違うから! 一緒に歌って踊れるからね! ミカミカと同じステージでな! すごくない? 千景もやれよ! やろうぜ!」と熱心に誘われた。


「いや、そんな時間ないし」


 犬犬が言っている通り、歌って踊ってポイントを稼いでいくのだが、データを送るためのデータ転送バンドを両手両足に付けて、アイドルの唄を熱唱するのを防ぐためには、日本のアパートの壁はあまりにも無力だった。


 その結果、リリース当初は騒音公害が各地で多発した。これをビジネスチャンスと捉えてこのゲームをプレイするための完全防音の部屋のアパートを経営する猛者も現れた。隔離部屋と世間では呼ばれたが、かなり好評だったらしくすぐに満室になり、各地に似たような部屋が作られた。実際犬犬の部屋に行って家の中で叫びまくったことがあるが、中々気持ちよかった。


「他の人と似てないのがよかったんだけどな……」


「まあでもほら、全く似てるってわけじゃないだろ、俺の中では実際は、いないけどミカミカに色気があるお姉さんが居たらどうなっていただろうというコンセプトの元に作り上げたからな、面影があるが、瓜二つではない」


「千景君まあ犬もこう言ってるし、俺も似てるとは一瞬思ったけど、実際見比べたらそこまで似てないよ!」と罠罠が調子よく犬犬に同調した。


「そ、そうですか?」


「似てない」


「ああ似てない」


 二人がそう言うと段々似てないように見えてくるから不思議だった。


「まあ、なんか……いい込められているようなそんな感じですが、ここまで作ってくれたし、出来自体はすごいんで、これはこれでいいかな、犬犬さんありがとう」


「おー、おーけー、おーけー、じゃまあ俺のお仕事はここまでってことか、疲れたー」


 残すところは会話設定や召喚者への好感度ゲージ等の細かい設定を打ち込んでいけばいいだけだった。


「え、なんで好感度ゲージ普通なの?」横で見ていた犬犬が口を出してきた。


「別にこのゲームそういうゲームじゃないですし」


「お前わかってない、わかってないよ、千景、マックスにしとけって、最近疲れてるから癒されたいっていってたじゃん、毎日このゲームにインするんだから少しでも快適にしといたほうがいいだろ? 違うか?」


 NPCの口調は好感度ゲージと連動していて、そのゲージ量によって口調や対応が変化する仕様になっていた。ただあくまでそれはキャラ付けの一環というだけで、好感度ゲージが低いから命令を聞かなくなるというような操作や性能に影響を及ぼすようなものではなかった。


 好感度ゲージがない0の状態だと主人の扱いが『下衆』になっていて時々蔑むような眼で、罵られるらしくそういうのが好きな人には嵌りそうな設定であった。さらに対応を丁寧にすると丁寧言葉でちゃんと罵ってくれるらしかった。


 逆に好感度をマックスにすると『想い人』になり優しく微笑みかけてくれたり、思わせぶりな態度を取ったりするということだった。ただNPCには直接触れることが出来ず、18禁ゲームではない以上そんなすごい展開とかは考えられなかった。


「好感度マックス不満なの千景君は? そっかあ『下衆』の方がお好みか、踏まれたそうな顔してるもんね」罠罠が違う方向にけしかけてきた。


「『下衆』はないですよ、絶対ない」


 踏まれることはゲーム上ないにしても、この顔のNPCに罵られたら心に深い傷を負って即ログアウトしそうだった。しかも踏まれたそうな顔ってどんな顔だよ。


「じゃまあ……そこまで言うなら……『想い人』でいいですよ」


「素直じゃないんだからなあ、本当は『想い人』にしたかったんでしょ? はい、はい、わかってる、わかってる」と言いながら犬犬が好感度をマックスまで上げて、そのまま躊躇なく作成終了ボタンを押した。


「もういい時間なんだしねよねよ、犬、明日寝坊するなよ」


「あー! 作成終了ボタンしたら三か月は変更できないんですよ!」


「いいじゃん、終わり終わり」


 天音はこのような経緯で作成された。


 千景には天音を含め全部合わせると男女計八人の配下NPCがいた。本来の召喚スロットは四枠までが限界だが千景だけは、カジノで行われる『天下神撃祭』の優勝者にだけ送られる【特別称号】『神滅』を所持したことにより、特権枠として四枠召喚スロットが追加されたのだった。更に千景は課金イベントで眷属NPCとして妖狐二体を所持していて、全部で召喚できるNPCは十体いた。


 その中でも一番強化に力を注がれたのが、この天音であった。千景がその特権をフルに活用して、課金アイテムも惜しみなく注ぎ込み、魔改造された天音は、配下NPCとして無類の強さを発揮し、そこら辺のプレイヤーやボスよりも強かった。


 ただ忍者職は、本体がメインで戦う職種であったため、隔離プレイルームで行われるカジノ戦での使用は禁止されていた。

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