包囲
ザックフォードとアルミラは周囲の魔典教団の追撃に備えつつ、後ろに横たわっている騎士団員達の方に後ずさり一番近くの騎士団員の様子を確認した。どうやら意識だけが喪失しているだけで、命までは失われてはいなかった。
「近寄ってこないですね」アルミラが言った。
「俺とお前以外意識は失っているんだ向こうの先制攻撃は成功している、あちらさんの気配からするときっちり円形に囲んでいるのもわかる。向こうが優位な立場にいるように思えるのは俺だけなのかね、間髪いれずにこちらに追撃を加えにきてもおかしくない状況なんだが」
「私もそう思います。が、もしかしたら団長があの先制攻撃で意識を失っていなかったことがわかったからじゃないですかね」
ははっと場に相応しくない鼻から出た渇いた笑いをザックフォードはこぼした。そして「実際に遭遇するのは初めてだが…… まあ戦えなさそうではないな」
「そ、そうですね」アルミラが息を飲みそう答えた。
こんなことで舌が回らなくなるようなアルミラではなくいつもの状態ではないことに、ザックフォードは気づいたが「無理もないか」と心の中で思った。以前魔典教団の襲撃に遭った聖騎士団員は全員所在不明になり、襲撃に遭った直前に確保した聖遺体も無くなっていたのだから。そして消えた団員の中にアルミラの兄もいた。
ザックフォードの頭の中にアルミラの兄の姿がちらついた。聖魂騎士団の中でも上位に位置する六翼騎士の一翼を担っていたアルミラの兄もろとも消え去った事件はザックフォードは人づてに聞いてすぐにはその事実を受け入れることは出来なかった。アルミラだってそうだったであろう。
ただそんな事を考えていてもいられなかった。今現在魔典教団と対峙しているのは自分達であり、持っている情報も強大な力を持っているというだけの薄っすらとした役に立たないものしかなかったのだから。
ザックフォードはアルミラが横で息を飲む音が聞こえた。背筋が少し曲がっている。いつもきっちりとしているアルミラのそんな姿は見たことがなかった。自分の兄の仇かもしれないが、それ以上に尊敬している兄を殺したかもしれない一団に囲まれているのだから無理もない。
「さてどうしたものか」顎髭をなぞりながらザックフォードが呟いた。
「いつにもまして悠長ですね団長……」
「これでも団長なんだ、こんなもんで狼狽えていてもしょうがないだろう、しかし……」
「まだ動きがありませんね」
「だな、やつらの目的は俺達じゃないのかもな」
「聖遺体だけということですか」
「そうだ、ここに聖遺体がなければ俺達とやりあう理由もあいつらにはないような気がするが」
「それは希望的観測なのではないでしょうか、実際私の兄も……」
「そうだな、そうだ」
不意に辺りの空気が変わったのがわかった。キーンという耳鳴りが鳴り、喉を締め付けられているような呼吸のしずらさが二人を襲った。そして何かが向かってくる気配を感じた瞬間、アルミラが小声で「団長」とザックフォードに声を掛けた。
ザックフォードは手に持っていた巨大な十字架を背中にかけ、腰の剣に手を伸ばした。




