魔典教団
歩く速度を一定に保ちながら二日をかけてリド樹海を歩いていたザックフォード達の目の先にようやく木が途切れるのが見えた。目的地に着いたと思うと同時に、辺りにただならぬ雰囲気が漂ってくるのを感じた。研ぎ澄まされた殺意。
肌から伝わってくるその雰囲気がザックフォードの手を自らの武器に向かわせた。ここに辿り着くまでの道中誰かに追跡されているということはなかったはず。ザックフォードの頭の中にこの夜に会った千景や獣人達の顔がよぎったが、今ここで感じている気配はそのどれとも違う。そもそもそいつらだったらこんなところで待ち伏せをするよりも、もっと森の奥で待ち伏せていたほうが都合がいいはず、わざわざ森が途切れるこんなところで待ち伏せをするということは、森に入るのを嫌ったかそんなところだろうとザックフォードは推測した。
「囲まれていますね」アルミラもその雰囲気に気付いて剣を鞘から抜き、身構えていた。そして「先程ヴィネリアと戦っていた者達でしょうか、団長があんな詐欺みたいな言い方で聖女を持ってくるから」と眉間に皺をよせ説教じみた口調で続けた。
「まだそうと決まったわけじゃないだろ」ザックフォードはアルミラの言い方にうんざりしながら答えた。
囲まれてはいるが、距離を詰めてくる気配はない。こちらはアルミラが剣を抜いたと同時に後ろにいた聖魂騎士団員達も守備陣形をとり、防御魔法を展開している。ただ少し気掛かりなのは団員達の顔に疲労の色が浮かんでいるところだ。
この状況も長くは続けられないなとザックフォードは思った。向こうはこちらが隙を作るのを待っているのだろう。長引けば長引くだけ疲労を蓄積しているこちらが不利だ。
緊張感で埋め尽くされた時間だけが過ぎていく。
夜明けは近いはずだが、まだ辺りは黒く染まり、蒸し暑く、果物の匂いのような甘い匂いが立ち込めている。
匂い……? しまったこれは……
ザックフォードの後ろからドサッとドサッと次に次に人が倒れていく音がした。アルミラはすぐさま、状態異常回復の魔法を口にした。
これは魔法でもなく物理的な攻撃でもないので防御魔法が役に立たない厄介な代物。最近都でも悪用されていると聞く、野良の魔導調香師が開発した眠り花の花粉の効果だけを引き上げた代物。屋外だと飛散して効果が薄いが、疲れた体にはよく効いたか。
とりあえずザックフォードはアルミラを掴んで考えた。一気に森を抜けるか後ろに下がるか。掴まれたアルミラが「上です団長」と言った。こういう頭の回転が速いところがアルミラが副団長としている理由であった。
ザックフォードはすぐさま木を蹴り上げ、上空に飛んだ。そしてアルミラに「目を瞑れ」と言って先の戦いでヴィネリアに打ち込んだ光の玉を現出させた。眩い光の玉が森の向こう側にいた人物達と森に潜んでいる者達を照らし出した。
目に写ったのは白い法衣を身に纏った集団。
アルミラが「魔典教団の者達のようですね」と努めて冷静に言った。




