戦闘の目撃者
「なにあれ……」そこで二人が目にした物は、山の様な大きさの全身が黒色をした化物がいた。
「なんなのあれ、あんなでっかいモンスター見たことない……」
その巨大な黒い化物はこちら側に背を向け、上空には目をやると多数のドラゴンの姿があった。あんなのがこちら側に来ても止めることが出来るかどうかシヴィソワは頭の中をフル回転させた。
――どう対処する、どう対処する、どう対処する
シヴィソワがいくら考えたところで答えは出てこない、あんなのを相手にするには二人の戦力じゃどうあがいても無理だ、急いでみんなのところに戻って人数を集めるか。
「ちょ、ちょっとシヴィソワあれっ! あれ見て!」
クリムルの声に反応して顔をあげると、巨大な岩が空の上から猛スピードで落ちてきて、黒い化物に向かっていくのを見た。
「なにあれ、魔法なの……? こんな魔法見たことない、な、何が起こっているの」
次の瞬間炸裂した岩の大きな爆風と舞い上がる土埃が、海の高波のように二人に向かって襲い掛かってきた。爆風に混じって肉が焼け焦げた匂いが混じっている。二人は木に隠れやり過ごした後、もう一度黒い化物の方をみると今度は轟音と共に雷の光が猛烈な勢いで点滅していた。
「今度はなに!?」クリムルが連続する驚きのあまりに裏返った声で叫んだ。
「雷みたいだけど、あれ操作されてるわよね」シヴィソワも驚いてはいるが、努めて冷静に返答した。
「あの黒い化物、削られてるみたいでどんどん小さくなってる」
「ザックフォードが言っていた、やらなければいけないことってこいつを倒すことだったってこと」シヴィソワは難しい顔をして言った。
「なのかな、だとしたらすごくいい人ってことじゃない」
『こんな……ことがあってたまるか! 許さんぞおおおおお』黒い化物の耳をつんざくような叫びが辺りの木々を震わせ、それと同時に二人の皮膚の上を嫌な感覚がなぞった。いくら姿が小さくなったとはいえ、あんな化物の心の底からくる憎悪を真正面からは浴びたくなかった。
黒い化物の叫びと連動する様に上空に舞っているドラゴン達から槍のような物が投げ込まれている。シヴィソワはその目標とされている者に、視線を合わせた。
――違う……あれは違う! あれはザックフォードなんかじゃない! その周りにいた人達でもない、服装が違う、しかもクリムルと対して身長が変わらない小さな女の子……あの女の子が今までやった魔法を撃ちこんでたってことなの
上空から投げ込まれた槍が、黒い化物と対峙している小さな女の子の前で見えない壁があるかのように弾かれる。
「今槍を弾いたところ見た? あの子何にも動いてなかったわよね?」シヴィソワがクリムルに聞いた。クリムルは首を横に振って「周りを見てた」と申し訳なさそうに言った。シヴィソワは視線を戻して「なんなのあの三つ目の女の子……」と呟いた。
その後も二人は、少女が使う不思議な魔法で黒い化物が一方的にやられている様をずっと見ていた。そして二人は気づいた。黒い化物にばかり気を取られていたが、不死族に蹂躙されていた黒い大地そのものが綺麗に掃除されていることに。
「あの子がこれ全部やったのかな」クリムルが目を輝かせながら言った。
「いや、あそこにもう二人いる、似たような背丈の女の子ともう一人は黒い衣みたいのを頭から被ってるからよくわからないわ、ただ只者じゃない」シヴィソワは、解除していたファラティックアイズを再始動させて、三人を見ていた。ザックフォードよりも濃く赤い色に包まれている。ただ強さというものを感じることが出来なかった。強さを推し量る感覚が阻害されている。シヴィソワには三人が強いということが漠然としかわからなかった。
「む、ちょっとシヴィソワ、あそこ、ほらあそこ」クリムルが指さした方を見ると、確かにそこはおかしかった。薄ぼんやりと赤く染まり何かがいる気配があった。
「透明化してるねあれ」落ち着いたときのクリムルの感は鋭い。
「そうね、たぶんあれがザックフォードでしょうね、あの男も覗きのようなことをしているのね、覗くことがやるべきことだったのかしら」
「どうする? まだ見る?」
「あの三人とザックフォードのことが気になるわ、もう少しだけ見ていこ」
引き続き様子を観察していると、微かに地面が揺れていることに気付いた。揺れはどんどん大きくなる。こんなときに地震かと思った瞬間に、目の前の地面が大きな音共に割れ、地の底から巨大な虫の化物が飛び上がって出てきた。




