想響結界
シヴィソワは、その男に向かって「こんなところで何をしている人間!」と叫んだ。シヴィソワはそれを言った後に後悔した。こちらに敵意がある人間だったら答えるわけがない質問を投げかけたからだ。そして、こちらが状況を把握していないことを悟られる。
「まあ落ち着いて、我々は君たちを不幸にするためにここにいるのではない、それは断言しておく」
「じゃあなぜここに……!」
「あれの対応に困っているんだろ?」男は眼鏡をクイっと上げながら、想響結界の方を指してそう言った。
「お前達に不死族を追い払えると言うのか!」シヴィソワが噛みつくようにそう言った。
「すでにもう対応できる者を派遣している。これから起こることを邪魔してほしくないだけなんだよ、ここは君たちの大事な森だということはよく知っている。ただ俺にもやらなければいけないことがあるんだ」
「対応できる者って、さっき向こうに行った人間たちのことか」
「そうだ、話が早いじゃあないか、彼らが不死族の対応に向かっている。俺達も、もうここから移動するよ、さっき言ったようにやらなければいけないことがあるからな」
「それはなんだ!」
「そこまで教えてやる義理はないな、君たちも結界の方に向かったらどうだ? 俺達にかまっているよりもそちらの方が大事だろ、そして俺達はもうここから立ち去る、さようならだ、お嬢さんたち」
「ま、待て!」
「なんだ、出て行くというのに引き留めるのか、早く出て行ってほしいだろ」
「な、名前はなんだ」
男は少し間を置いた後「それくらいなら教えてもいいか、ザックフォードだ、お嬢ちゃんは?」
「シ、シヴィソワだ!」
「そうか、またなシヴィソワ」そう言って、ザックフォードは周りにいる数人を引き連れて、想響結界から逆方向に歩いて行った。
盾の後ろに隠れていたクリムルが「追うのシヴィソワ?」と聞いてきた。シヴィソワは首を横に振り、盾とバルディッシュを背負い直し「行くよ」と言って想響結界の方に走り出した。
想響結界のラインに近づくにつれて、ザックフォードが言っていたことが嘘ではないことがわかってきた。シヴィソワの目に写っていた、燃えるように濃い赤色に染まっていた景色が、鎮静化していくのが見えた。そして、残った赤色が森から離れるように流れていく。
想響結界の第三層のところで、ザックフォードと同じような服装を着ている集団が、結界を張りなおしているのが見えた。クリムルがそれを見て「大丈夫そうだね」とシヴィソワに言った。結界を貼り直している集団を囲むように村のワーズリカント達が立っていて、その作業を見つめていた。シヴィソワとクリムルは走るスピードを落とし、村の男がたむろしている所に行き、まとめ役のギャルドに「どうなのあれ」と話しかけた。
「どうもこうも、いきなり来て魔法を撃ちこんだと思ったらすぐに結界を張りなおし始めたよ」
「被害者は出てる? 死屍病にかかった人はいる?」
「俺達の村の中の連中にはいないな、他の村のやつらのことはわからないが、たぶん大丈夫だろ、俺達が一番早く駆け付けたからな」
「そう、よかった……」
「信用していいのかやつらは」ギャルドは声の音を一段落としてシヴィソワに聞いてきた。
「たぶん……? 私もよく知らない」と答えた。
「まあここまでして、俺達に危害を与えるとは思えないけどな」
「そうだといいけど……ちょっと私達戻る、気を付けてね」
「わかった」
「クリムル行くよ」と言って、シヴィソワとクリムルは、来た道を引き返した。ザックフォードの目的を確かめに行くために。




