ルナヴァンピエスタ
走っていく男達は黒雲の船と、黒い大地の地面からボコボコと奇妙に盛り上がって人型や獣型に形を変える何かに魔法を撃ちまくっているが、一向に魔力が尽きる気配がなかった。
――これも、水音達のパッシブアビリティの効果か、二人がそれぞれ持つ職種についている魔力の自動回復と回復速度上昇、その二つの効果が、彼らが撃っている魔法の魔力消費量を上回っているってことか。それを見ると水音と宙音を連れて来て正解だったと思うが、いかんせん、相手との距離が近づき過ぎている……
千景が男達に向かって「止まれえええ」と叫んでも聞く耳を持たない。追い越して制止しようとしても、男達の目は、限界まで見開かれ自分の敵から目をそらそうとせず、口角から泡を飛び散らせながら、魔法の詠唱を続けている。
「おやかたさまあ、雲の船がぱっかり口開けてますよお、なんすかねあれ」宙音の言う通り、巨大な黒雲の船の形状はもう船というよりも巨大な化物の顔のようになり、口に相当する部分が、大きく開いていた。
「といか御館様『止まれ』と言われて巫病状態の人間が、止まるわけないじゃないですか、それなら異常回復の術使わないとだめですよ、もうあと一分もしないうちに、効果切れますけどね」水音に冷静に言われると、それもそうだと千景は思った。
ただ「わかってるなら、さっさと異常回復の術使えばよかっただろ!」
「そうですね、では次からそうします! 御館様!」
返事はいいんだけど、なにか釈然としない、天音や白狐と比べると、どうも応用力がなさそうだ。
黒い大地の地面が、今まで見たこともない程に活発に泡立ち、黒雲の船から変形した巨大な化物の顔の方に盛り上がっていく。
「なにあれキモ、きっもおおお、あれはやばい、生理的にやばい、なんか色々やばい」
「うぞうぞして鳥肌立ってきますね」
――それもそうだが、相当でかい、あれじゃあビルよりもでかいんじゃないか
「な、ひっひいい」巫病状態が抜けた男が尻もちをついた。
「な、なんだあれは、どうして、俺達こんなところまで来ようと思ったんだ」
「も、も、も、戻らねば、や、やられる、あれはだめだ、無理だ」
「撤退! 早く陽光の丘の裏側に戻れ、早く!」そう言われる前に正気を取り戻し、すぐに動けた者は、後ろに逃げていた。
「だらしないっすねえ、これからって時に」
「あれが正解だよ、目につく黒い物が全部、あの化物に集まったということは、あれが最終兵器ってことだろ」
「大丈夫です御館様、レベルは私達よりも低いです、ただ……」
「千里眼で見たのか水音、早いな、ただなんだ?」
「量が多いです、とっても、すごく」
黒い物が集まった巨大な化物の口から、多数のヴァンプドラゴンが排出された。そしてその異形の姿の口から発する言葉とは思えない、凛とした女性の声で「総員隊列を組め! 目標は、下にいるそこの三人だ! 後ろの雑魚共にかまう必要はまったくない!『ルナヴァンピエスタ』の力を見せてやれ! ヴィタニア様の加護は我々にある!」と軍人のような指示を出した。
「後ろが雑魚ってわかる知能と分析力はあるみたいだな」
「気持ち悪いけど、ああいう巨大な物見ると心が躍りますね」
「いい物もってそう」
「宙音、開眼していいからな、全力で叩き潰せ」
ま、まじですか、と言いながらテンションが上がっていくのがわかった。




