巫病付与の舞
黒い雲で出来た帆船が、空の上を滑るように走り、段々とこちらとの距離を詰めてくる。こちらによってくるとそれは、帆船の形状をしているというだけで大きさはその比ではなかった。不死族が光を遮るために用意をしていた戦艦といったところか。先程鳴った角笛の代わりに、空気の圧迫感で軽い耳鳴りを覚える。
「あの船、結構でかいな、水音達、回復はしたか?」
「もうばっちりです」
持たせた回復薬を自動で使う設定、ゲーム内では一分間で百個単位を消費しながらレベリングをしていたのを思い出した。低レベルの時は『御神酒』という低回復薬を連打していたが、こんなに飲んだらアル中になるだろうとか、こんなに飲めないな等と想像したことはあった。
ローブを被った者達が、また口にマスクを付け直し、臨戦態勢を取る。
「水音、彼らにも強化術を」
「かっしこまりましたー」
光華巫女術『巫病付与の舞』を舞い踊った。
「お前それは……!」
『巫病付与の舞』は、言ってしまえば術師系統職の狂術師化、神の啓示を受けたような多幸感に包まれ、心の赴くままに術を放つという設定の巫病状態の付与、爆発的に術の威力を高めるが、紙装甲になる。
「強化は強化だけれどもだ! 紙装甲にしてどうするよ!」
「大丈夫ですって! 私と宙音ちゃんのパッシブアビリティで半径二十メートルの術師は諸々すでに強化されてますよ! 御館様は忍者で、実感されてないかもしれませんけどね!」
「そうだよ、そういう小さいこと気にするのイクない、非常にイクないよー、おやかたさまああ」
ほら見て、と言った水音の指した方を見ると、テンションが上がりまくってローブを脱ぎ捨て始めた、男達の姿があった。
「いけるぞおお、俺達には神がついてる! 無敵だ、死ぬ気がしねえ」
「今までびびってたのが、馬鹿らしくなってきましたね、隊長!」
「そうだな、なんであんなのものにびびってたのかよくわからないな」
「今度はこっちから突っ込んでやる」
「一斉に構えろおおおおおおおおおおお」
向かってくる船の形状をした黒い雲に向かって、男達は手に持ったペットボトルくらいの大きさの魔晶石を空高く掲げ『セラフィック・レイ』と口々に叫ぶと魔晶石から黒雲の船に向かって、光線が次々に発射された。
「撃って撃って、撃ちまくれえええ」
「『アールシャールの眼光』も最大出力でいくぞおおおおお! 装置組いいいい」一際眩しい光が一瞬、眼光から放たれ、今まで微弱だった豆電球のような光だったものが、眼光の中心部分は直視することが出来ないくらいの光を放っている。そして極太の光線が放たれ、打ち込まれた黒雲の船が、一瞬ぐらついたのが見えた。
「いくぞお前らああああ、きばれやああああ」と隊長と呼ばれた男がみんなを鼓舞して黒雲の船の方に突っ込んでいく。残った男達も、追い越さんばかりの勢いで走り出した。
「おい、みんな走っていったら俺達もついていかなきゃいけなくなったじゃないか! お前たちのパッシブアビリティ範囲から出て行くぞあれ!」
「そこまで考えていませんでした」
「あれは自己責任」
「あほか」と言いながら、三人は男達と足並みを揃えるように黒雲の船に向かった。




