黒い雲
魔導飛空艇乗り場に向かう馬車内は、多少のぎこちなさと、少しばかりの息苦しさがあったが、時間も時間だったこともあり、ガタガタと揺れる馬車の中でもストンと、千景達は眠りについた。大分疲れていたのか目を覚ました時には、窓に蓋をするように付いているカーテンを指で押し開けてみると、太陽が結構な高さにあった。横を見ると、宙音と水音は寄りかかるようにしてまだ寝ている。アタルは、腕を組んで目を瞑っているが、寝てるのか起きているのかわからなかった。
――『転移の間』は完成したから、宙音と水音には帰還アイテムの『飛び蛙人形』を渡してある。なにかこちらに不都合な状況に陥るのならすぐに戻ればいい、この遠征でなにか元の世界に戻れるヒントでもあればいいんだが……
「どうしました? 難しい顔をしていますね」アタルはいつの間に目を開けていた。
「いや、不死族のことでちょっとな……アヴァルシスに攻めてきたのが、ワーウルフのゾンビみたいなやつと、ヴィネリアの使徒のパイルエスカルネと名乗ったやつだったんだが、なにか知らないか?」
「ワーウルフの……ということは、ワーウルフの国が、黒い大地に汚染されたのかもしれません、使徒というのはわかりませんが、最近、不死族のやつらの動きが活発になっていたのも関係があるのかもしれません、そうですか……ワーウルフの国が……」
「黒い大地というのはなんなんだ?」
「昔から、不死族が支配する土地は、その負の魔力によって黒く染め上げられるんです、自分達が動きやすい影の色に」
「なるほど、そこだけ地獄のようなものか」
「地獄ですか……そうですね、人間は足を踏み入れることが出来ないので、そうとも言えますね」
アタルとそんな話をしていた時に、発着所に着きましたという声が聞こえたので、宙音と水音を起こし、外へ出た。そしてすぐさま魔導飛空艇に乗り込み、エンデラへと向かった。かなりのスピードで、発着所が遠くなっていく、そして山を越えようと浮かび上がったところで「やられた」と言うアタルの声が聞こえた。アタルの視線の方向を見ると、その理由はすぐにわかった、遠くに見える空には黒い雲が、墨汁を流し込まれているかのように空を覆っていた。
「あれでは、太陽の光が遮られ『アールシャールの眼光』の光を昼間も使わないといけなくなる、魔晶石の輸送が間に合わないかもしれない!」
「そこまではかなり距離はあるのか?」
「はい、あの奥に見える大きな街道をさらに先にいったところにあるのですが、もう少しすれば、陽光の丘は見えてくると思います」
「そこを守らなければいけないというのならそこまで行くしかなさそうだな」
「し、しかし、行ったところでどうにかなるものでも……」
「多少の時間稼ぎなら、水音が出来る、危なくなったら逃げる、そこまで運んでくれ、そのために来たんだ」
「わかりました、とりあえず城へお連れしようと考えていましたが……」
黒い雲と地面の間には、多くの翼を持った生物が飛んでいるのが見えた。




