異世界ノ夜が過ぎゆく
「あの二人から聞いた話を信じるならば、エンデラの手の者が、エルタとミレアに危害を加えることはなさそうだな、後は……このアヴァルシス国内にどれくらい反乱分子がいるかだな」
「そうですね、主様」
「……一つ思ったんだがゴルビスがいなくなったというのなら、この屋敷貰ってしまおうか、活動拠点ほしかったし、でも流石にそれは、都合がよすぎるか……いやでも、どこかしらアジトはほしいし……」
「言うことを聞かなければ、ゴルビスにそうしたように、操ってしまえばよろしいのでは? 主様なら簡単なことでしょう」
「元の世界に戻る方法もわかってないのに、そんなことしたらエルタの中に居る、ルルカが激怒しそうだが……戻る手がかりを知っているのは、現状ルルカだけなんだし、ある程度従うしかないさ」
「そうですか、まあ私はこうやって生身の手を主様と繋げるようになった世界も悪くはないと思っておりますが」そう言いながら、白狐が千景の手に指を絡ませてきた。
「そ、そうだな……」千景の顔を、妖艶な顔で見つめる白狐だったが、すぐに眉を顰めた。
「虎徹はいつから覗きの趣味が出来たのですか?」
「忍者っていうのはそういうもんだろ、しかも俺のせいかそれ、出てきづらい雰囲気を醸し出しだしてた、お前と御館のせいだろ」
「私の非を責めるのはいいですが、主様にまで非があると?」
「そういう言葉尻を捕らえるのやめろよ……わかったよ、わかった、そういう人を殺しそうな目で俺を見るな白狐、俺が悪かったよ……なんで御館の指示をこなして、報告しに来たのに、謝るはめになってるんだ俺は」
「それでどうだった虎徹? 『トライセラトリス』のアジトは潰せたか?」
「かんたんでしたよー、建物壊せばよかったんでしょ? そこで無理やり働かされているっぽい女と男と『トライセラトリス』のやつらとを仕分けながら、殴り飛ばすのは、面倒臭かったですがね」
「働いている?」
「アジトっていっても、遊郭みたいなもんでしたよ、遊郭、ただ遊郭っていう品のいいもんじゃなく、きったねえ部屋に押し込まれた夜鷹の集まりみたいな感じでしたけどね、なんだ白狐から聞いてなかったんですかい?」
「聞いてなかったな」そう言って、千景は白狐の方を見た。
「場所だけ吐いて、事切れましたので、申し訳ございません、主様、こちらの世界の者が、あまりにも、脆いものですから、力の加減がわかりませんでした、でも今回はその失敗を踏まえて、上手くやれましたようでしょう? 私もこの世界に対応してきております、主様」
「そ、そうだな、でその残った人達はどうなった?」
「そう、それなんですけどね、なんだか、その騒ぎを聞きつけた、教会の聖魂騎士と名乗る男が、教会で保護するっていったんですよ、本来なら我々の仕事だったとか、そいつに任せちゃいましたがよかったですかねえ、アジト潰せばいいって言われてたし、無茶をするなって言ってませんでしたっけ、御館は」
「そうか……それでよかったよ、任せて正解だ、俺達には現状手を差し伸べることは出来ないからな、聖魂騎士か……強さはどうだった?」
「俺が見た中では結構いかつい感じでしたよ、まっ俺の相手にはなりませんけどねありゃ」
「名前は聞いてないのか?」
「すいやせん、そこまで聞いてませんでした」
「これだから筋肉自慢の無能が、殴るだけしか能がないのですか、主様に迷惑がかかりますよ」
「なんだとお、お前、調子乗ってると……」
「調子乗ってると? なんですか? なんなんですか?」
「い、いやなんでもないです……」
「あんまり虎徹をいじめるな白狐」
「御館、そんな言い方すると俺がもっとみじめになる」
「そうだな……虎徹は一回城に戻ってからここに来たのか?」
「そうですがなにか?」
「城の様子を聞きたかったんだが」
「様子ですかい、ミレア姫囲んで三人が踊ってましたぜ」
「そうか……無事ならそれでいいんだ……俺達も城に戻るか、もうここでやることもないしな」
「そうですなあ、いやあ、あんなんじゃあ殴り足りないっすなあ」
エルタにエンデラへの魔晶石を供給する話を通しておこう、教会の聖魂騎士というのも気になるな、その辺りの探りをいれていくか。
城に着くと、天音の大量の料理が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、御館様」
みんな思い思いに、天音が作った料理を口に運んでいた。千景と虎徹と白狐もその輪の中に加わる。
「エルタ、エンデラのやつが来て、魔晶石の供給を早めてくれって言われたんだが」その言葉を投げかけれたエルタは口に手を当て、必死に噛む速度を上げた。「ごめん、ゆっくり食べていいよ」飲み込んだ後一息つくように飲み物を口に含み「だ、大丈夫です」と言い「ま、魔晶石のことですか」と続けた。
「そうだ、ゴルビスに輸出を止められていたらしく、大分迷惑してるらしい」
「そうですね……でもその輸送ルートは、今反乱を起こしているノーゼス公の領地なんですよ、アルザック男爵次第というところでしょうか、ゴルビスも居なくなった今、ノーゼス公に後押しをする人もいなくなったので、収まるのではないのでしょうか」
「そうか、後鉱山への採掘も再開して貰わないと、と言っていたから、両方に人を派遣したほうがいいな、エンデラは不死族がどうのと言っていたが」
「エンデラは昔から黒い大地から来る、影に生きる者達を、陽光の丘に巨大な魔晶石を加工した物を置き、夜を明るく照らして、侵入を防いでいるんですよ、魔晶石がエンデラに届いていないということは、その境界線を照らせなくなるのかもしれません、ど、どうしましょうか」
「どうしましょうと言われても、俺はこの国の内情もエンデラの内情も詳しくは、知らないからないからなんとも言えない」
「そうですね、そこは私が出来うる限りしっかりしないといけませんね、後でノルヴァイン侯爵に話を通してきます。彼なら、うまく貴族たちを纏めてくれるはずです」
「エンデラへの輸出ルート確保のために俺達もノーゼス公の所に行ったほうがいいかもな、話を聞いてると切羽詰まっていたし」
「なにか話がややこしいことになっていますね」
「種を蒔いたのはゴルビスだし、実権を握っていた宰相が、いなくなったのなら、ややこしくなるのは当然だ」
「そ、そうですね……」
「そうだ後『トライセラトリス』のアジトを潰したときに、聖魂騎士というのにあったらしいんだが知っているか?」
「ええ、婚姻の儀と戴冠の儀のために枢機卿が来てますのでそれの護衛に来ていらっしゃいますね」
「そうか、ありがとう、特に今は問題にならなそうだなそれじゃあ」
「千景様が色々と働いてくれるおかげで助かります、感謝の言葉もありません……これからも私のことを支えて下さい、お願いします」エルタはそう言いながら、潤んだ瞳で、千景の目を見つめてきた。
「も、元の世界に戻るまでだからな」
「この際、この世界に留まって、エルタと結婚すればようかろう、わらわは大賛成じゃぞ」
エルタの半身からルルカが出てきて突拍子もないことを言ってきた。
「だ、だめです、そんなことは、だめですよねえ、御館様?」天音が横からそれを遮った。
「主様は、私の主様ですよ」
「ルルカお前が、変なことを言いだすからこんなことになるんだぞ!」
「責任転嫁かえー、じゃあわらわは水を差すのはすかんので、戻ることにする」
「おい、待て」
異世界の初めての夜は賑やかに、過ぎ去っていった。




