起ノ章
千景は、白狐との会話を終えた後、料理を食べている四人に向き直って、今後の説明を始めた。
「よしちょっと四人とも、料理を食べる手を止めて俺の話を聞いてくれ」四人の視線が千景に集まる。
それと同時にエルタの半身の目の色が、碧眼から黄色に変わり、髪の色も水色に変わった。それはルルカがエルタの中から出てきたサインだった。
「四人ではなく、これで五人じゃな、なんぞ面白い話を聞かせてくれそうじゃないか、千景よ」ルルカはそう言いながら、止まっていたフォークをそのまま口に運んだ。声には出さなかったが相当美味しかったのであろう顔に「なにこれ、おいしい」と書かれた表情をしている。
「そ、それはどうなってるのですか姉様」とミレアが、半身ルルカになっているエルタのことを不思議がった。
「ごめんなさいミレア、くわしいことは後で説明するわ、私の半分は今ルルカ様と言う私達の御先祖様らしいの」とミレアは淡白な返事を返した。
場が落ち着いたところで千景が「もうすぐ、ゴルビスが今まで自分がやったことの悪事を民衆にぶちまける。その後、エルタに王位継承を宣言して貰う。民衆を味方につけてくれエルタ」と神妙な面持ちで話し始めた。
「わ、私が王位継承ですか? いきなりそんなことを言われても……うまくやっていく自信が私には……父上のこともありますし……」
「それをやらなければお前達の身の安全を確保しずらくなる、このまま逃げるという手もあるが、俺はまだこの世界に来たばかりでこの国のことも世界のこともほとんど知らない、わからないことだらけだ、ただ機会を逃せば取り返すのが難しい物があることはわかっている。国の王位というものが誰かの手に渡ったのなら、それが必要になった時に、返して下さいと言って簡単に返却されるようなものではないことはエルタもわかっているだろ?」
「そ、そうですけど、あまりにいきなりで……心の準備が」
「気持ちはわかる、俺とも会ったばかりだから全面的に信用してくれとは言わない、でも今後も出来る限りサポートはする俺も元の世界には戻りたいからな」
エルタは少し時間をおいて、難しい顔をしながら「わかりました、私も覚悟を決めます、ミレアを守るのも私の責務ですし、この国も守りたい」と決心を固めた。
「よくぞ言ったエルタよ、わらわも異存ないぞ、まあ我もついていることだしな」ルルカが全てを見透しているような黄色い瞳を千景の方に向け少しだけ気味悪く感じる笑顔で言った。
ルルカは、自分自身とそれを宿しているエルタが千景にとって元の世界に戻れる鍵ということを自覚している証拠だった。実際、まだこの世界に来て一日も経っていないのに、自分が元居た世界に帰れる手掛かりを千景から手放すということは考えられない選択肢。
エルタに王位を継がせて、行動出来る選択肢を確保しておく、権力を持っていないのといるのとでは、行動の幅が全然違う、それは現実の世界でもゲーム内でも変わらない、それが異世界だったとしてもだ、それが千景の出した結論だった。
「大丈夫じゃ、エルタには、わらわもついておる」
「ルルカ様……」
「まあ、このことが終わったらこの世界のことについて聞きたい事が山ほどあるから、ルルカ様にも付き合って貰うからな」
「よかろう、かわいい、我の血を引く者達を、救ってくれるのなら話してやろうぞ」
「虎徹、お前はこの兵士の服をベースにして、兵士に変化しろ」
「わかりました、御館」
「天音は、ミレアにも変装を施せ」
「かしこまりました、御館様」
「それが終わり次第、ここを放棄して、演説台があるところに向かうぞ、それとルルカ様は引っ込んでてくれ、流石に半身が別人っていうのはどこに行っても目立ってしまう」それを聞いたルルカは、わかったわかったと言ってエルタの中に引っ込んだ。
ここからは迅速に、行動しなければならない、全員の準備が整ったところで、街の中央にある舞台に向かった。
大通りに近づくにつれ、ざわついた声や小気味よい音楽がそこかしこから聞こえてきた。遠くの方では花火が打ちあがっている。
先頭を兵士に変装させた虎徹に歩かせ、変装しているエルタとミレアがそれに続いて歩く、天音と千景はその後ろを透明の姿になりながら続いた。
人に見つからないように、舞台までの道のりをショートカットしたので、時間よりも早く着きそうであった。
「エルタ、準備は出来ているか?」
「はい、ルルカ様も頭の中で声を掛けてくれるようになりましたし、私は今一人じゃありませんので大丈夫です」
「それは心強そうだな、まあでもルルカが頭の中で話しかけるか……」
――俺だったらストレスで死にそうだ
舞台の周りには邪渇宮で見た大剣を持った兵士長の姿も見え、数百人の兵士達がその周りを囲っていた。
舞台を中心としてコロシアムのように丸く囲われて作られた観客席には、明かに人間ではない者の姿もちらほらと見えた。




