妹ノ章
千景に手を握られながら白狐が「それで主様は、私の手を握られるためだけにここに呼んだわけではないのでしょう」と言ってきた。
「そうだ、まだこの部屋の下には生きている少女達がいる、彼女達を全力で保護してくれ、後はこの倉庫に足を踏み入れようとするものはお前たちの双狐術をもって全力で叩き潰せ、一切の情けは無用だ、逃がさず始末しろあとこれを設置しておいてくれ」
【道具】『写眼の記憶玉』を白狐に渡した。
「これを入り口に設置しておけば、侵入者が入ってきた時、その姿を記憶しておくことが出来る」
「かしこまりました、主様、では早速置いてきなさい赤狐」
「わかりました、白姉様」と赤狐が手をひらひらさせながら、部屋を出て行った。
「それで主様、この少女達の遺体はどうしますか?」
「とりあえずは、そこに置いておいてくれ、色々終わらせた後、考える……奴隷の少女達とは聞いてはいるが、もしかしたら誘拐されてきた子もいるかもしれない……」
「かしこまりました、主様」
少しすると部屋の扉が開き「白姉様、千景様、置いてきましたよ」と赤狐が戻ってきた。
「では赤狐も戻ってきたことですし下に降りる階段に、封をしましょうか、赤狐」
「下の階に降りられないようにするんですね白姉様、わかりました」
【双狐術】『封儀黒縄鉄血』天井や床、壁に、ガンガンガンと黒い鉄の縄が下の階への行く手を塞ぎだした。そしてジュージューと音を立てながら、縄から何かが溢れ出し、床に黒く煮えたぎる血の水溜りのようなものが広がっていく。
その様子見ながら千景はプレイヤー操作キーを出し、グループボイスチャットに白狐と赤狐の名前を追加した。
「どうだ、聞こえるか?」
「聞こえます、口で喋らないというのは不思議な感覚ではありますが」白狐が答えた。
「私にも聞こえておりますよ」
「よしよし、悪くない、後はたのんだぞ」
「了解しました」
会話が終わると千景は透明になり、倉庫を後にした。
――次は城だ、暗殺者のビマが、エルタの死体の確認する報告をしてこないことに、ゴルビスは、不審に思うかもしれない。
城に向かう途中千景は、忍術『写見変化』を使い、登録しておいた暗殺者のビマの外装データを使い、ビマの姿に変化した。そして、グループボイスチャットを開き天音を呼び出した。
「どうだ天音、そっちはなにも変わりないか?」
「特には、ただ、あの……」
「ん、どうした? なにかあったのか?」
「いえ……ちょっとお腹が空いてきまして……え、エルタ様もその様に申しております!」
「そ、そうか、なにか買いに行くとしても金がないなあ、こちらの世界の金をまだ手に入れてないからちょっとまってくれ、今急いでるから」
「天音には料理技術があります! そして周りには小麦があります!」
「わ、わかった、そこら辺の倉庫で食べられそうなもの作って食べていいから、あまり変な行動してばれないようにしてくれよ」
「その点は大丈夫です、天音に抜かりありません、半径五〇〇メートル以内には誰も入ってきてはいませんのでご心配及びません、御館様、それでは失礼します」
そんな大食いのキャラクター設定を天音に対してしたかなと千景は小首をかしげた。
それから少しばかり進むと、城から街の中央に一直線に伸びる大通りに、差し掛かり、城方向に向かって走り出した、向かう途中には、ゴルビスが準備していたという演説するための舞台があり、それを越えたところに、城があった。
城の周辺には、衛兵がボーリングのピンのように規則正しく整列していて、多くの兵士達が巡回していた。その隙間を縫うように一陣の風となった千景が、走り抜ける。
城は、ゴルビスの屋敷も大きかったが、それ以上に雄大で大きかった。千景は、二階建ての家くらいの高さがある、丸みを帯びた鉄の城門柵を、颯爽と飛び越え、城の屋上まで一気に駆け上がった。
屋上の影に隠れ、千里眼で中の様子を調べると、すぐに、エルタの妹のミレアらしき少女は発見することができた。なにせ周りを大量の兵士と侍女でガチガチに固められているので、そこに大事な人がいますと知らせているようなものであった。その分、ミレアの身には、いい意味でも悪い意味でも、なにか身の危険が起こるということはありえなさそうではあった。
――とりあえず、今は、ミレアの事は放置しておこう
ゴルビスの屋敷を捜索した時と同様に、千景は城の中で怪しい部分はないのかと、視界を滑らせて部屋を一つ一つチェックしていく。自分の下には丁度、宮廷教会があり、その隣の部屋が、かなり大きな玉座の間であった。
そしてそのまま視界を動かしていると、奥の方まで来た時に、なにかの魔法結界が張ってある場所があった。ゲーム内とは少し違った見え方をしたが、明かにそこには膜のようなものが張ってあり、侵入を拒んでいるように見えた。
流石に千景は、その結界が張られているところを、千里眼で覗くのは危険過ぎて中を覗くことが出来なかった。
――この結界らしきものを張っているのは、人間のものか亜人のものか、こういうものを張れる存在がいるということがわかっただけでも収穫があった、ここの場所は覚えておこう、この結界からもし出てくる人物がいるのならば、そこから探りを入れることも可能ではあったが、今はそんなことを悠長に見張っている時間も暇もない。
一階に視線を落とすと、一際大きな部屋に、机を構えた部屋があった。二階にあった玉座の間と、どちらが大きいのか一目ではわからないくらいの広さ、それはちょっとした体育館ぐらいの広さがあり、壁から床まで全面が真っ白い部屋、その中に、ぽつんと一つ執務用であろう、大き目の木の机があり、その前を、爪を噛みながら、行ったり来たりを繰り返しているゴルビスの姿があった。
千景はそれを見て邪渇宮でのビマとの会話を思い出す。確か「窓の外からこの『白夜の断罪者』のメンバーたる証のナイフを出し、上向きに見せれば開けて中に入れてくれる」だったか、この国に来ている、エンデラ国王の守護についている『白夜の断罪者』という集団、ビマは副隊長で、それ以上の強さを持つのは隊長だけ、その他の隊員は八人だったか、そんな集団に囲まれた、エンデラの王様らしき人物は城の中には、見当たらなかった、亜人らしきものも。それともあの結界が張られている地帯にいるということなのか、その可能性は十分考えられる。
――魔法の結界を張ることが出来る存在がいるということは、透明化も、変化も見破られる可能性があることも視野に入れていかなければいけないわけか、エルタも天音の変化を見破っていたわけだしな、多少のやりづらさはあるが、今は時間が全て
千景はビマから受け取った『白夜の断罪者』の証のナイフを取り出し、ゴルビスに直接会うために透明化を解きゴルビスの部屋から見える庭にビマの姿で降り立った。




