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シノビーツ・ナイトコア  作者: 駿河ドルチェ
アヴァルシス王国騒乱
15/76

貼ノ章

――暗殺者のビマよりもレベルが高い屍操師(かばねそうし)……運ばれた少女達のことを考えると、嫌な予感しかしない。


 厚い壁で覆われた倉庫風の建物の中には、入ってすぐの所にその男の部屋があった。


 男は、清潔(せいけつ)そうなゆったりとした白いローブを身に(まと)い、長い銀髪を後ろで束ね、顔は、にこやかな表情を浮かべ刃物を研いでいる。


 その横顔には三本の角を持つ化け物の入れ墨が(ほどこ)されていた。


 壁には、男に研がれ使用されるための順番待ちをしている(のこぎり)や、大型の(はさみ)、様々な形状をした刃物が整列していた。どれも手入れが行き届き、その刀身はランプの灯りを丁寧に弾き返していた。


――こいつが『トライセラトリス』とか言うメンバーの一人か


 奥の扉の向こう側を覗きに行くのを、千景は少し躊躇(ちゅうちょ)したが、ゴルビスがこいつらと組んでやっていることを確認しなければいけない、扉を越えると下に伸びる階段があった。


 突き当りに重厚な鉄格子が嵌められていたが千景の千里眼はそんなことはお構いなしに鉄格子をすり抜け、下へ下へと続く、円を描くように作られた地下への階段を下り、最下層まで一気に、滑るように視界を走らせた。


 最下層まで来た時に上を見上げると、かなり深い所まできたということを実感させられた。


 そしてその最下層にあったものは、上にあったものと同じような鉄格子が嵌められ、今度はその上さらに鉄の扉が行く手を塞ぐという二重扉だった。


『トライセラトリス』の男に見張らせている場所であり、ここに来るまでの幾重(いくえ)にも重ねられた扉が、人の目につくことを恐れている物が中にありますということを説明しているようであった。


千景は意を決してその中に視線を移動させた。


予想通り、凄惨(せいさん)なものが視界に入ってくる。壁一面に少女達が、狩りで狩られた獣のはく製のように、貼り付けられていた。


 壁に貼り付けられた少女達は、指がない者、腕に一列に大きな穴が開けられている者、体の至る所の部位が削ぎ落された者等がいたが、どの少女も、顔だけは綺麗(きれい)(たも)たれ、化粧が施されていた。そして目を瞑って壁に貼り付けられている少女達は、ピクリとも動いてはいなかった。


『天稟千里眼』で見えるステータスが少女達が死んでいるということを示す赤い丸が付けられていた。松明の灯りが寂しげに少女達を照らしている。

 

 部屋は、上にいた男の仕事なのだろうか、それなりに掃除はされていたがそれでも壁や床にはもう拭いても拭き取れないのであろう、黒く変色した染みが至る所に残っていた。


「救えない奴らだ」千景は一言吐き出した。


 死体を見た時の気持ち悪さや恐怖は、不思議と湧いてこず、怒りの感情だけが、千景の体を熱く貫いていた。


 視界を更に奥へと進め、手術台のような台を越え、拘束具が付いている三脚の木製の椅子を横目に、下へと続く階段を下った。


 すぐ下には、八つの牢屋の部屋があり、そのうちの三部屋に、うずくまっている少女がいた。


 どの少女も、白い綺麗なワンピースを着せられ、やつれている少女を思い浮かべいた千景にとっては予想外だったが、牢屋に繋がれている三人の少女の血色はよかった。ただどの少女も目は(うつ)ろであった。


――ここに居ては生きていても生きた心地はしないだろう……


 そこから階段はまだ下に続いていて一番下には下水のような所があり水が流れていて、そこが行き止まりのようであった。


 一通り観察を終えた千景は、すぐさま千里眼の術を解き、ゴルビスの最悪な趣味が行われていた倉庫に向かった。


 その間、千景はグループボイスチャットを開き「天音、今からさっきエルタが言っていた『トライセラトリ』のメンバーらしき男に会ってくる、もし俺になにかあったらすぐに来てくれ」と言った。


 天音はいつも通り「かしこまりました、御館様」と言い「ご武運を」と付け加えた。


 千景は自己強化の忍術や、スキル、アイテムを惜しげもなく使いだした。


韋駄天足(いだてんそく)


金硬剛化(こんこうごうか)


呪言結界(じゅごんけっかい)


反魂結界(はんこんけっかい)


招福(しょうふく)の符』


儀霊(ぎれい)の符』……


 千景は、出来うる限りの準備をして倉庫の前に立った。


 もう一度、中の様子を千里眼で見ると、男は下の部屋に向かっている最中だった。都合がいい、千景は、開錠(かいじょう)の技術を発動させ、倉庫の入り口の表側をなぞった。


 用心深く倉庫は内側から鍵を掛けられていて、錠前が、見えるだけで五個はあった。その錠前の上を千景の手のひらが通過すると、次々と錠前が開けられていった。


 千景は開錠作業を終えると、手早く扉を開き、倉庫内に入るとそのまま一直線に突き進み、奥の扉と鉄格子を開錠し、階段を一気に駆け下りた。


 男は部屋の中で丁寧にゆっくりと台を拭いていた。千景は透明化を解き、意を決して扉を開けた。

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