探ノ章
千景が真っすぐエルタの指し示した方向に進んで行くと大きな壁にぶち当たった。
そこから先はどうやら壁で仕切られた富裕層だけが住む区画。
その区画に抜けるための門の両端には兵士がついていてそこに入ろうとする者達に向かって鋭い目で、睨みをきかせていた。その横には兵士達の詰め所もあり、何人かが中でくつろいでいるのが見えた。
門を越えたところは別世界と言ってもいいくらいだった。今まで千景がこの世界で目にした家とは明らかに違い、大きな庭がある貴族の住まう屋敷、小さな城といってもいいものまで見えた。
千景は、急いでくるあまりにエルタにゴルビスの屋敷の目印となるものや、詳細な場所の位置を教えてもらうのを忘れたことを、少しだけ後悔した。
ただそんなこともいっていられなかったので千景は『天稟千里眼』を発動して屋敷をしらみつぶしに覗いていった。
時間がないのに……
どの屋敷の住人もメイドや執事達と一緒になって慌ただしく動いている。
――どれだ、どの屋敷がゴルビスの屋敷だ、こういうときにゲーム内のボイスチャットがあれば便利なのに……と千景は思った。
その瞬間、ならばグループボイスチャットのパーティーを組めばいけるんじゃないのかと、すぐさま、プレイヤー操作キーを出し、天音の名前を入力する、するとすぐに承認という言葉が浮かび上がり、グループボイスチャットの名前の欄に天音の名前が浮かび上がった。
「聞こえるか? 天音」
「聞こえます、御館様」
――これはいいぞ、プレイヤー操作キーの認識も拡張されてるってことか、どういう原理なのかわからないが、プレイヤー操作キーが神アイテムになってる。
「天音、エルタにゴルビスの屋敷の目印になるものと詳細な位置の場所を教えてもらってくれ」
「エルタ様が言うには、建物の大きさが一番大きく、高さも屋根を尖らせて一番高くしてあるので、かなりわかりやすく他の屋敷から頭一つ抜けてるそうです」
「わかったありがとう、天音、そのまま警戒を怠らないでくれ」
「かしこまりました、御館様」
千景は会話が終わるとすぐに、千里眼の視界をドローンのように上に打ち上げ、上から辺り一帯を見渡した。
エルタが言っていた一番大きくて、一番高いという、シンプルな特徴に当て嵌る屋敷はすぐに見つかった。
一番奥の方に三つの尖塔が高くそびえる、城のような屋敷があった。それは地上から見ると教会のように見えていたものだった。
千景は、その屋敷の様相からゴルビスの過度な上昇志向と顕示欲を読み取った。
ゴルビスの屋敷の周りには幾人かの兵士が巡回していて、門の前には二人の衛兵が立っていた。
千景はゴルビスの屋敷にいそいで近づき、屋敷の近くまで来ると空高く舞い上がり、屋根のへりに身を寄せて、屋敷内に千里眼の視界だけを潜らせた。
入り口の大きな扉をくぐるとすぐに、三百人くらいは簡単に入れそうなくらいの、白い大理石の大きな広間が広がっていた。
そこには、金細工の調度品や、豪奢なシャンデリアが天井に備え付けら、至る所に天使や、旗を掲げた騎士等がモチーフのフレスコ画が描かれていた。そしてその部屋の一番いい位置に大きなゴルビスの肖像画がかけられていた。
その広間の周りにある部屋を千景は、一つ一つ急いで覗き込んだ。一階はどうやら大勢の客を迎えるためにあるようで、化粧室や、古い木造の喫茶店のような感じがする部屋、ゲストルームらしきものと、応接室等があった。
奥に進むと、メイドが扉から出てきたので、そこを抜けると、今ままで見た装飾された部屋とは違い、簡素ではあったが清潔そうな給仕室であった。
そこから下に降りる階段を降りると、庭から光が取り込めるように設計された調理場があり、そこには芋の山を前にしてそれを無表情で皮を剥き続けているだけの調理人が二人、ちょっとした倉庫のようなワインセラーには、小さな机に向かい書き物をしている初老の男が座っていたが、特にこれといって変わった様子はなかった。
一階と地下をしらみつぶしに見て回った限り、怪しい部屋や人物といったものはいなかったし、隠された部屋や通路も見つからなかった。
一階の入り口近くの広間に戻り、二階にあがる、広間近くにある部屋は、どれも一階と大差なく、客人用に用意された部屋ばかりであった。ニ階の廊下を更に進み、一つ一つまたざっと目を通していく、部屋の多さに若干千景はうんざりしてきた。
廊下が突き当りに差し掛かり、そこを曲がると、守護兵士付きの扉があった。
やっと何か情報が得られそうな部屋がありそうな予感がして、千景は屋根にある自分の体が誰の目からも見えないように低くふせて、千里眼の視界に集中させた。
そして兵士達の間を抜け扉の奥へと視線を移すとそこは屋敷の裏手にある湖が、一望できる部屋だった。
この間取りと大きさからして、ゴルビスの自室であるだろうと推測して、部屋をくまなく捜索する、どの部屋もきちんと整理されていて、見る分にはなにも苦労はなかったが、あくまで千里眼の視界を走らせているだけなので、物を触って色々確認出来ないことがもどかしかった。
しかし、この部屋も特に変わった様子もなく、誰かが隠れているということもなかった。
――大勢を呼んで、もてなすような屋敷に、自分の立場が危うくなるようなものを置くか? 為政者としての評判を自ら落として、得する物はなにもない、デメリットだらけだ、千景は屋敷の捜索には見切りをつけて、湖に面したベランダから、外に視線を移し、もう一度、上から見下ろして見た。
すると屋敷からそう遠くないところに、柵で囲まれた、重厚な壁が目を引く倉庫のような建物があった。
そしてそこには職種:屍操師、種族:人間、レベル:25とこの世界に来て一番、高レベルのやつがいた。




