帰ノ章
邪渇宮での作業を終えた千景は、エルタと天音が隠れている小麦倉庫にすぐさま戻った。
戻ってみると、二人は倉庫の天井近くの梁に腰を掛け、足をぶらつかせながら何やら話込んでいた。
千景が戻ってきた姿を見た天音がすぐさま、千景の側に来て「お疲れ様です、御館様」と膝をついて出迎えた。
「時間が惜しい、エルタ、ゴルビスの屋敷はどこだ! 教えてくれ!」千景はエルタが天井近くにいるので、少し大きな声を出して聞いた。
「ここからですと、あちらの東の方の地区にあります!」エルタも大声で返事をしながら指で、指し示した。その様子を見て千景は、天音に梁の上からエルタを下ろしてくるように指示を出して下ろさせた。
「そうか、ありがとう、さっきエルタが言っていたゴルビスに少女を貢いでるという組織と黒い噂ってもっと詳しく知ってることがあったら教えてほしいのだが」
「『トライセラトリス』と呼ばれている組織なのですけど、宰相に反発していた残りの4大貴族の一つ、ヴィタリア家のルクという者が、色々調べていたことを聞いたのですが年端もいかぬ少女の奴隷を、他の商人から奪い取ったりして、それをゴルビスの屋敷に運んでいると、そして運びこまれた少女達の姿をその後見ることはなかったということです」
「そうか、なるほど……」話を聞いてるだけで、大概の予想がつく、千景の心をどんよりと重くさせた。
「そのルクというのはまだ無事なのか? 政敵は殺されるとか言っていたが」
「それはもちろん生きております、なにせこの国の国境線を守っている四本の塔の守護者の一人なのですから。四大貴族はそれぞれ、四本の塔の守護者を輩出している家系なので、四大貴族と呼ばれているのです」
「なるほどな……ということはゴルビスもその塔の守護者だったってことか? あいつも確かアンブローム家とかっていう四大貴族の一人だろ」
「いえ、一番目の妻だった者がそうでしたが、その後を継いだのはその妻との間に生まれた娘のナタリエが守護者としてついております」
「ルクにナタリエか今はここにはいないのか? 婚姻の儀で他の国からも王様とか来てるというのに」
「それが、エンデラとの国境線近くの貴族が少し前に反乱を起こしましてルクはその鎮圧に向いました、そしてナタリエは帝国との国境線を守護しているので、ここには来られないのです、他の二人も同様に」
「そうか、わかった」
「御館様、どうされますか?」
「ゴルビスの屋敷に忍び込んで、確認してくる『トライセラトリス』についてもう少し情報がほしいし、そこにいけばなにかしらあるだろ、天音は引き続きエルタを保護しつつ、この倉庫の周りの監視を続けてくれ」
「かしこまりました、御館様」
千景は二人の顔を見てから、倉庫の小窓から抜け出た。
時間が惜しい、ゴルビスやエンデラから来ている者たちにビマが戻ってこないことへの不信感を持たれる前に事を進めなければならない、【忍術】『傀儡操針』が有効に作用することを知った今、千景の頭の中にこの国の騒動を収めるためのルートがいくつか出来上がりつつあった。
ゴルビスに少女を貢いでいる組織という『トライセラトリス』とゴルビス自身の性癖を確かめておきたい、『トライセラトリス』を叩ければ、現状わかる範囲でゴルビスが使える戦力は、邪渇宮を包囲していた兵士長を筆頭とした一個小隊規模の兵士の一団だけ、例えその他にいるとしても、ビマレベルの者を頼りにするとしたら俺達の脅威になりえる戦力などいないはず。
千景は、屋根の上に飛び上がり、オレンジ色と赤色の屋根の群れを、飛び石を飛ぶように、軽快に飛んで走った。
ゴルビスの屋敷があるエルタが指した東の方角を目指して。




