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82.剣の強さ、魔法の強さ

1


 剣を構えたまま、アインツはかなりの距離を障害とも考えていない足取りで詰める。


護風防壁(リフレクション)!」


 その切っ先が俺の目と鼻の先に迫ったあたりで、間一髪詠唱に成功する。

 鼻先十センチでアインツの剣がはじかれる。

 衝撃で一瞬だけ持ち上がった右腕の下に、出せる全力を足に込め滑り込む。


「チッ」


 背後に回り込んだ瞬間、アインツが舌打ちし剣を翻しながら体を反転させる。

 腕の軌道に合わせてやってくる剣先をかがんで緊急回避しながら、顎に向け掌底を放つ。

 アインツはそれを予期していたかのようにのけぞって躱すと、左手でアッパーを放ってきた。

 それを右手で受け止めるが、その衝撃で右手から杖を取り落としてしまった。

 アインツの眼光に鋭さが増し、口の端が吊り上がる。


「勝機を逃したな」


 そうつぶやいた瞬間、アインツは今まで持っていた剣を捨て反転しながら懐の短刀を俺の首に突き立てる。


「チェックメイト、だ」


 短刀が首から抜け、俺の首からはおびただしい量の血が出血し──なかった。

 アインツの背後・・から、俺は話しかける。


「あなたの言葉を借りるなら、杖を失った程度(・・・・・・・)で戦えなくなるようでは伝説の魔導士を名乗る資格などあるはずあるまい、といったところでしょうか」


 アインツが対峙する俺の分身はその場で煙となって消える。

 振り返ろうとするその首に、飛翔短刀(スロウスティング)を突き付ける。


「おっと、その姿勢で動けばあなたの首は体と分離することになりますよ?」


 アインツの首に刃が食い込み、血がツーっとうなじを伝う。


「いつ入れ替わった」

「うーん、剣を捨てたタイミングですかね」


 隙を作らないように質問に答える。


「さて、それではそろそろ降参していただきましょうか」


 終いとばかりに首に当てる刃を押し込むと、苦しそうに表情をゆがませうなる。


「わかった」


 アインツはそう言うと、体を三百六十度捻り足払いした。


「ッ!?」


 咄嗟に飛びのく。

 アインツの首に刃が深く突き刺さり、返り血が大量に吹き出たが、しかしそんなことなど知らない風にこちらを向くアインツ。


「いやはや、これが死なない試合でよかった。実際の洗浄であれば生きていたか死んでいたかは五分五分といったところだぞ?」


 お互いの距離は五メートルもない。

 その距離で構えられれば、言葉にしなくとも何が始まるかは誰だってわかるだろう。


「第二ラウンドと行こうじゃないか」

「……面白いですね。ではまずこちらからッ!」


 一投足で距離を詰め、拳を一発左ストレートで打つ。

 これはもちろん陽動であり、本命は右手の当身である。


「甘いッ!」


 しかしアインツはそれを読み、左手を受け流す形で右手の軌道を左手が妨害するようにずらす。

 結果それた左手を交わすように右手を動かしたため、アインツのチェストプレートに当たったはいいが大したダメージとはならなかった。

 がら空きとなった左側頭部へ、アインツの拳が迫る。

 どちらの手で防いでも間に合わないと悟った俺は、やむ終えず体を反らせて回避する。

 バック宙の要領で頭を蹴り上げようとしたが、瞬間体を密着させられてしまったため転がるようにして後退する。


「格闘もできるようだな、魔術師」

「いえいえ、あなたほどではありませんよ」


 体勢を整えつつ口を開く。

 ……あと少しで勝てそうだと思ったが、さすがは前回王者。そう簡単には勝たせてはくれないようだ。

 立ち上がった俺にアインツが構えたまま飛んでくる。

 右手が引かれ、衝撃に備えようと構えた瞬間、左足が俺の頭に命中した。

 轟音が会場全体に響き、壁に激突した俺は痛みを抑えながら立ち上がる。


「見えるものがすべてとは限らんぞ」


 ……返す言葉もない。

 左肩を抱きながらゆっくりと歩く。


「これには感服だ。さすがの俺も唸らさせられたよ」


 左手が上がらないので右手を挙げながら近づく。


「勝者、アイン────」

「『透過(インビジブル)』」


 司会者が勝利宣言を言い終わる直前、俺の姿は会場から消えた。


「だが、敗北の宣言をしたわけじゃない」


 アインツが周囲を見渡す。

 魔法使いが全員杖がないと魔法が発動できないわけではない。

 俺自身魔法の発動に便利だから利用しているだけで、いざとなればこんな風に杖なしでも魔法を使うことができる。


「そうか。では、どうすれば降参するのかな?」

「俺を動けなくなるまで滅多打ちにしたら、かな」



 アインツは俺が背後からやってくるだろうと予想しているだろう。その裏をかき、俺は正面からたたく。

 しかし俺の攻撃に、見えていないはずのアインツはしっかりと対応した。

 近接戦なら透過した意味がない。

 俺は一度距離をとるとアインツの視界外に移動した。


「この程度で私は倒せんよ」


 アインツがつぶやく。


「そうですか、では」


 アインツに迫る俺の拳。

 その拳は先ほどと同じように防がれ、カウンターの一撃が返ってきた。

 その拳が俺に激突すると、アインツはその場に倒れる(・・・)


「どうやら、この魔法は読めなかったようですね」


 透明化を解き、カウンターを撃ち込まれた俺の分身と手刀を構える俺の姿を観客の前に露にする。

 数瞬の沈黙の後、司会者は叫ぶ。


「準々決勝勝者は、プロト・ネロぉぉぉ!!!!」

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