81.女騎士との対峙
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一回戦の開始が宣言される。
私は杖を構えたまま目の前の女性を見据えるが、いきなり攻撃をしてくるそぶりはない。
「剣を構えろ、男」
「……おっと、これは申し訳ない。私の基本装備はこの杖であってね。魔法を使いながら剣を使って戦えるほど私は器用ではないんだ」
「そうか。ではこちらからゆくぞ……ッ」
瞬間、目の前からアインツの姿がかき消える。
こうやって開始の合図があり、戦闘の準備がしっかりできる分、実際の戦場で感じるような緊張感とはまたベクトルの違う緊張感を感じる。
準備がしっかりできる分全方位に注意を向け不意打ちを警戒するのではなく、どんなでかい攻撃が来るのか、どんな隠し球が出てくるのか、といった方向に注意を向けなくてはならない。
一秒もしないうちにおおよそ百メートルの距離を詰めたアインツは、そのまま上段から特大の一撃を振り下ろす。
「ッ!?」
最低限の動作で回避しようとしたつもりが、アインツの剣はそれを許さないとばかりに私の服の裾をかすめた。
……当たらないつもりだったが、どうやら相手の方が一枚上手だったらしい。すぐさま私は脳内でアインツの評価を上方修正する。
予選を勝ち抜けた時には試合に敗退することに未練は感じていなかったが、あの少年を見た時から私は優勝以外考えられなくなった。この大会で優勝すれば実現可能などんなものでも手に入るらしい。
なればこそ、この大会で目指すべき場所は優勝以外ないだろう。
勝ち目が薄いと感じていた目の前の女性に対して、必ず勝たなければという対抗心が湧き上がる。
「『飛翔短刀』」
すれ違いざまに空気で編み上げたナイフをアインツにぶつけるが、それをアインツは魔法を使うでもなく、ただ右手を払うだけで跳ね除けた。
再びお互いが元の位置に戻り向かい合うが、その立ち位置は逆。
「これが格の違いってやつですか……」
「はッ、私の初撃にして必殺の一撃を、いとも容易く交わしておきながら何を白々しい」
「……これでも本心からの呟きなのですがね」
今度は私が先制を入れようと詠唱を始める。
「『視界簒奪』」
呪文を唱え、私とアインツの間には砂嵐が吹き荒れる。
予選の決勝でもこの魔法は使ったが、この短期間で対策できるような代物ではない。
視界を奪われお互いに不利な状況、そんな状況を無策で作り出すほど私は馬鹿ではない。
「スキル:視ル者」
視界簒奪と視ル者、この二つが合わさって私の有利な状況は完成する。
どんな対策を取ろうとも、そう簡単にこの地理的不利は覆せない筈だ。
「笑止」
しかし、そんな不利をものともせずにアインツは呟く。
視ル者に映るアインツはただ直立しているだけであり、何か策を弄している様子はない。
が、戦場で培った勘が「この場にいてはダメだ」とささやく。
「……ッ!?」
慌てて弾き飛ばされるように転がり避ける。
すると、先ほどまで立っていた場所で轟音が鳴り響いた。
視界簒奪の効果が切れ、砂嵐が晴れる。そこに現れたのは、大きく穿たれた穴と中心に突き刺さるアインツの片手剣。
垂直に突き刺さるその剣は真上から私が立っていた位置に突き刺さり、この威力を出したのだと思い知る。
瞬間悟った。私はどうあがいたところでこの騎士には勝てないのだと。
敗北感を味わい、そして無力感を味わう。
だが私は、私自身がここから本領を発揮するとも知っている。
「いやはや、すごい威力だ。しかし、剣がなくては何もできますまい?」
虚勢を張りながら次の戦略を考える。
あぁ、頭が冴える。
窮地に陥るたびに感じるこの感覚は一度味わってしまうと病みつきになるな。
「空気槌ッ!」
風属性初等魔法。
覚えた当初は対して威力が出なかったこの魔法も、練度を上げ威力を上げた俺ならばコスパの良い中火力攻撃魔法だ。
剣を失いガラ空きの鳩尾に魔法を叩きつける。
子供が産めない体になろうが知ったことではない。ルール無用の戦いに参加した彼女がいけないのだ。
魔法が彼女の肢体に激突し大気を震わせるほどの鳴動が会場を揺らす。
魔法の大半が剣を依代にして発動する彼女は、いわば攻撃と防御の両方を失ったようなもの。砂埃が晴れるとなす術なく地面に崩れ落ちる。
「聞こえなかったか? 笑止、と」
はずだった。
が、予想に反し彼女は先ほどと同じ場所に、先ほどと同じ姿勢で直立していた。
外したのか? いや、この至近距離でそれはまずあり得ない。ならば……。
「外したのか? と考えたのだろう?」
俺の考えを読んだかの如くアインツは口を開く。
「答えはノーだ。そもそも、剣を失った程度で戦えなくなるようでは騎士団長になる資格などあるはずあるまい」
驚愕。
俺の感情を一言で表すならばそれが正しいだろう。
倒したはずが、倒れていない。この女性はどうやら俺の考えていたより遥か彼方の高みにいたようだ。
ゆるりとした動作で地面に突き刺さった剣を引き抜くが、その動作に隙は感じられない。
結果、俺はその横っ腹に魔法をぶつけるなんてことは出来なかった。
剣を構え、アインツは言う。
「さて、これで終わりにしよう。これ以上続けたところで君も私も、何も得るものはないだろう?」
背中を気持ちの悪い汗が伝う。
試合の性質上死ぬことはないが、しかし相応の痛みは覚悟しなくてはならなそうだ。
こんな窮地であると言うのに、俺の口の端は気持ち悪く釣り上がった。
あけましておめでとうございます。
今年も華月すみれとその作品をよろしくお願いします。




