80.そして緊張は最高潮に
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────剣戦祭三日目────
本戦の準々決勝と準決勝、決勝が行われるからか、会場は初日や昨日に比べるとかなり増えていた。
「これ、今日会場に来た人たちは座って試合を観戦できるんでしょうか?」
「おそらく無理だろうな」
俺たちは初日から最終日までの観戦チケットを買っていたため、今日も座って観戦することができる。
が、すべての観客が本戦初日から見たい人ばかりかと言えばそういうわけでもなく、むしろこうやって最終日だけ見に来る人の方が多くなるのは当たりまえだ。
日本にいた頃だって、普段はラグビーになんて全く興味ないような奴が世界大会になった瞬間、突然「今日のフィリピン戦、日本は勝つよね?」とか言い始める奴の方が多いんだ。こっちの世界でもまぁそうなんだろう。
「すいませーん、ちょっと通るのじゃぁ……。って、わぁ!」
少し遠くの席で席に座ろうとした小学生くらいの少女が、立ち見をしている男の人に弾き飛ばされて飲み物を床にぶちまけている。
「申し訳ないのじゃ……」
そのしゅんとした表情は、本当に悲しそうで見ているこっちまで悲しくなってくる。
獣人なのか、頭から生えた狐耳はその心象を表すようにだらりと垂れ下がっていた。
……ん? さっき人混みをかき分けていた時は普通の女の子じゃなかったか?
「……ぁ」
狐娘はこちらと目が合うと驚いた表情をし、とっさに狐耳を消した。
御丁寧に消した後こちらをみて口元に人差し指まで当てている。
「? サイエンさん、どうかしましたか?」
「ん? あぁ、いやなんでもないよ。ちょっと人が多いなぁ、って思ってただけ」
俺がずっと黙っていたからか、ケーナちゃんは俺を不思議そうに見つめる。
「まぁ、それならいいんですけど。そろそろ始まりますよ?」
「お、マジか」
本戦も最終日となればさぞかし見応えのある試合が繰り広げられるだろう。
試合が始まる前に気になったので、ちらりとさっきの狐娘を見てみたが、姿はすでに消えていた。
「さぁぁぁ、始まりましたさいすうび! ……最終日! 今回の大会は例年以上の盛り上がりを見せており、本日の観客の動員数はすでに昨年の最終日を上回っております! その数なんと! 六万人以上!!!」
観客がをぉぉぉ!! 雄叫びを上げる。
たったそれだけの出来事のはずなのに、地面は地震が起きたように揺れ衝撃すら感じた。
……オリンピックの会場で競技なんかを見てたらこんな状況なのだろうか。
というかみんな普通に噛んだことをスルーするのな。
「そして皆さま気になっているでしょう! 本日準々決勝、一試合目の対戦カードはこちらとなっております!」
アナウンサーの号令が響き、スタジアムの真ん中上空に大きなスクリーンが浮かび上がる。
昨日まではこんな演出なかったよな。
これも本線の準々決勝と準決勝、そして決勝を盛り上げるためのアイテムなんだろう。
「注目のAブロック代表は、前回大会で予選を異例の無敗で勝ち抜け、そのまま見事優勝を果たしたアインツ・ヴィオラッ!」
スクリーンに大きく女騎士の顔がアップで表示される。
「今大会も予選を無敗でぬけ、今この場に再び立とうとしております!」
歓声に迎えられ、ゲートから女騎士が姿を表す。
「そしてぇッッ!! 対するBブロック代表は海上都市ポジッショネルからやってきた伝説の魔道士、プロト・ネロッ!! これまでに打ち立てた伝説は数知れず、この世界で彼を知らないものはいないでしょう!! そんな世に名を轟かす大魔道士が満を辞して今大会に初出場ですッ!」
紹介が終わるとアインツと同様、もしくはそれ以上に会場が湧く。
会場の熱気は剣戦祭最終日にして最高潮に達し、今にもそれは爆発しそうになっていた。
そんな観客たちに見守られ、プロト・ネロは姿を表す。
初日に比べるとその衣装は一段と白くなり、神聖な雰囲気を会場全体へと振りまいていた。
「さて、アインツは今大会も優勝を果たしてしまうのでしょうか!? それとも伝説の魔道士がアインツの連勝記録を塗り替えてしまうのでしょうか!?」
緊張の糸が極限まで張り詰める。
そしてついに、最終日の戦いの火蓋は、ここに切って落とされた。
「────それでは、準々決勝第一試合、試合開始ッッッ!!!」




