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79.商会の娘、渦巻く陰謀

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「これは仕返し、ですっ」

「……!?」


 混浴風呂のほうから楽し気な声が聞こえてくる。


「……お楽しみ中、ぽい」


 吸血姫ヴァンプインが私にどうでもいい報告をしてくる。


「はっきり言ってどうでもいい」


 思わず口に出してしまったようだが、この際気にしていられない。今私の中で最も大事なことはそんなことよりも大きかったからだ。

 目の前では原っぱに男が横たわり、恐怖に顔を引きつらせている。


「どう、して……」


 男が私に向かって問いかける。


「なぜってそりゃあ、私が淫魔だからに決まってるでしょ?」


 ぺろりと舌なめずりをし、男の体に近づく。


「も、もうやめてくれ……! 限界なんだ! 君を安易に誘ったことで怒っているなら謝るから……!」

「あら、心外ね。私は別にあなたを殺したいわけじゃないのよ? ただ、ちょっとだけ生きるための力が必要なの」


 ゴスロリ服のボタンを外し体をくねらせれば、足元にドレスが広がって落ちる。

 真っ赤で煽情的な下着は、清楚な彼女の印象には似合っていないように見える。


「そのために、少しだけ、力を貸して頂戴ね?」


 一歩近づくと、男は一歩分後ずさる。


「何よ、ちょこっと魔力を頂いただけで限界な訳? つまらないわね。……まぁいいわ、私も一人で楽しむから。『緊縛キャプチャ』」


 魔法によって体を拘束する。


「ティレア、あなたって結構、やばい」

「ダイナ、私はあなたより上位の魔族なんだからいちいち口出ししないで」

「……ん、らじゃ」


 本来淫魔、つまりサキュバスは吸血族よりも階級は下であるが、それは一般の淫魔族と吸血族の話である。

 私は淫魔の中でも王位を持っており、一般の吸血族を使い魔にすることだって容易かった。

 ダイナが召喚に応じたことは少し意外だったが、今では良きパートナーであると思う。

 そんな彼女の言葉でも、聞けないものは聞けない。

 尻尾で首筋をなぞれば、彼の魔力は情欲の出口を求めるように彼の全身を駆け巡った。


「ほら、口ではさんざん力尽きたとか言ったくせに、体は正直じゃないの」

「んんん!!」


 男が何かを言おうとしたが、拘束した影響で言葉をしゃべることはできない。


「それじゃ、あなたの魔力いただいちゃうわね」


 魔力を尻尾から吸い上げると、男はそのまま全裸で横たわったまま意識を失ってしまった。


「ティレア、どうするの。これ」

「大丈夫、死にはしないわよ」


 倒れ伏した男に、聞こえていないだろうが声をかける。

 それにしても、私を誘ってきたにしてはなかなかいい魔力モノを持っていた。それこそ、一生私の奴隷にしたくなってしまうくらいには。

 しかし、私には一番欲しい男がいる。

 それを手に入れるためには、関係ない男に構っている暇はないのだ。


「それで、どうやったらあの男の血を吸えると思う? もちろん、契約が交わせるなら他の体液でも構わないんだけど」


 私はダイナに質問をする。

 私の考えている案以上にいい策は出てこないだろうが、少しでもとっかかりが欲しいと思って聞く。

 それと、ダイナの考えも聞いておきたかったというのもある。


「んー、あの横にいる女。あいつがいるとじゅっちゅうはっくムリ……」

「やっぱり、あなたもそう思う?」


 確かに、力を吸う上では彼女の存在は厄介だ。

 今まで吸精した男たちはみな独り身、もしくは妻や相手がいてもやましさから一人でやってくることが多かった。

 だが、彼に接触するのは今まで通りのやり方だと少し骨が折れそうである。


「まぁいいわ。今日のところは引き上げね。目的も達成できたし」


 昨日届いた実家からの手紙では、「至急帰還されたし」と書かれていた。


「この街の男は結構活きがよくって私は好きだったんだけど。まぁ、本国がお呼びならしょうがないわよね」


 剣戦祭に参加したおかげというのもあって、ティレアの娘という名前をちらつかせるだけで春を買う男は山のようにいた。

 ぼろい商売だったのだが、帰還の理由が理由なのでやむをえない。


「剣戦祭に出てたプロト・ネロ、だっけ? 彼も気になってたし、ちょっと食べて見たかったんだけど」


 闇夜に溶けるように、漆黒の翼を広げる。

 翼に羽毛はなく、よくいる悪魔のようにつるっとした翼だ。


「それじゃあ行くわよ、ダイナ」

「ん、らじゃ」


 宿舎の陰から二つの影が月に向かって飛び立つ。

 果たしてこの陰に気づいたものがいるのか。確かなのはその場にはただの痕跡さえ残らず、淫魔がいたということを調べるのはできない、という事実だけだ。


「サイエン。あなたは絶対、私のモノよ」

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