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76.本戦一回戦を終えて

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 圧倒された。

 試合を眺めているだけでも彼女と一対一の戦いになった場合負けるだろうと本能が告げている。


「凄い……」


 筋力は確かにあった。あの大剣を受け止めたあたりとかは、まさに力がなくてはできない芸当だろう。

 だが、それほど筋骨隆々としていたわけでもなかった。あれは彼女の持つ物のほんの一端でしかないはずだろう。

 恐らく彼女の筋肉量だと脳筋スタイルでは絶対にあのおっさんには勝てないはずだが、現に彼女はおっさんを圧倒して勝っている。

 それはひとえに彼女の手数の多さ、若しくは技量の高さゆえに、って奴だろう。

 試合の様子を見てた限りじゃ一撃必殺に見える技を放った後、おっさんが立ち上がったというのに焦った風もなく次の魔法を放っていた。それさえ読んでいたというように。

 一体彼女はどれほど先を読み戦闘していたのか、その才能に感服するとともに畏怖を覚える。

 試合前は技が盗めないかと考えていたのが、今じゃどうだ? あれを真似するのは不可能だと直感がささやいている気がする。


「……しょ、勝者ティレア・マーティン!!!」


 呆けたような間抜けな声が会場から聞こえる。

 それはそうだ。防げないほどの攻撃を食らってまともに立ち上がり、しかしそれを上回る魔物が召喚され一瞬のうちに蹂躙したのだ。

 常人ならその出来事の多さに脳の処理が追い付かず、ただ見つめるだけになるだろう。


「……うおぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


 司会者の声によって忘れていたかのように観客が歓声を上げる。


「あのティレアさんって女性、いったい何者かわかるか……?」


 俺はケーナちゃんに問いかける。


「確かに、豪商ということで腕に自信があるご令嬢だというのは聞いていましたが、正直あそこまでだとは思いませんでした」


 ……、あのティレアとかいう女性、いったい何者なんだ?


「それにしても、あのおっさんあんなに強かったのかよ」


 まさか、あんなに下のネタ連発してきたおっさんが強いとか夢にも思わんだろ。意味不明すぎて笑ったわ。


「……それで、本戦に勝ち進んだ剣士ってのは、これで全員なのか?」


 俺はティレアのことを一瞬だけでも頭から話すために話題をそらす。


「そうですね……。例年通りならばここでアナウンスがあるはずです」


 ケーナちゃんが言い終わる瞬間、司会者の声が会場に響き渡った。


「これにて、本戦第一回戦はすべて終了いたしましたッ!! 明日より、準々決勝、準決勝と決勝のように丸一日をかけて行う予定でありますので、是非そちらの観戦にもいらして下さい!! では、本日は以上となりますッッ!!」


 そのアナウンスに、会場の人々が帰宅を始める。


「だってよ。これで終わりらしいな」

「……正直、これで今日は終わりでよかった気がします……。これ以上イレギュラーが起きていたら、私の頭がどうにかなっていたかもしれません……」


 ケーナちゃんが呟く。


「……確かに」


 俺も今日一日で人の域を超えたような技をいくつも見せられ、脳が処理落ちしかけていた。ここで終わってくれていてよかっただろう。

 技術を奪うためにも、頭の整理がついていたほうがいいしな。


「私も、初めて見た剣戦祭がこれだと今後の年についても勘違いしちゃいそうです」

「おぉう、いたのか。影薄くて気づかんかったわ」


 突然話に入ってきたグランツェに驚き、つい心にもないことを口にしてしまう。


「ひどいです……!!」


 ぷりぷりと怒りながら、ぺたぺたと地団駄を踏むグランツェ。

 ……なにこのかわいい生き物。可愛すぎて俺のものにしたくなっちゃうんだが?


「もう、サイエンさん! 終わったんですからさっさと寮に戻りますよ!!」


 ケーナちゃんが力強く俺を引く。

 あぁ、さよならグランツェ……。

 ……結局この後俺はケーナちゃんに連れられ無事に寮に帰還してしまった。

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