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74.商会の娘

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 冴えない見た目の老人が、目の前で大振りの剣を構えて立っている。

 今までこうして私を侮って剣を構えたものは少なくないが、どんな人間も返り討ちにしてきた。

 それが可能だったのはひとえに私に才能があったからだろう。


「お嬢ちゃん、武器を構えなくてもいいのかい?」


 男は余裕な顔をして手首をクイクイッっとした。正直言ってその仕草は古臭い。


「構わないわ」


 私は刺した日傘を閉じることなく、そのままの姿勢で言う。

 男は少しだけ心配したような表情を見せたが、しかしすぐにそれは仕舞われた。


「そうか。ここまで来たってことはそれだけの実力者なんだろうな。……いいぜ、やろうじゃないの!!」


 それだけ言うと、男は周囲にオーラを放った。


「無詠唱魔法……」


 これまでも無詠唱魔法の使い手は幾人も見てきたが、まさかこれほど普通に見える初老の男が扱えるとは思っていなかった。案外、この男はいい相手になるのかもしれない。


「それではHブロック決勝戦、始めッ!!」


 司会者が試合開始の合図を出す。

 それと同時、男は目にもとまらぬ速さで加速し、私の鳩尾に一撃を入れてきた。


「ッ……」


 とっさの防御魔法で無傷とはいえ、衝撃を完全に消せたわけではない。

 数メートル滑り、私の体は止まった。


「随分なご挨拶じゃない。これでも私、顔には自信があるんだけど?」


 遠回しに「女性の鳩尾を狙うのはどうか」という人格否定を行いながら、姿勢を整える。


「すまねぇな。……、だが、これぐらいなんでもないだろ?」


 男はにやりと笑うと、追撃とばかりに上段切りを放つ。

 大剣でそれをやるのは本来ならば隙だらけの不良攻撃だ。しかし、この男が放つとそれは音速に届きかねない超威力の技と化した。

 ……防御は間に合わない。隙をついた一撃は諦め二歩分下がると、衝撃波がさらに一歩私を後退させた。

 ……この男、正直言って異常だ。この年で衰えない身体能力と、現役の前線戦士に劣らない剣技。過去にこの大会で優勝していたと聞かされても驚きはしないレベルの強さに感じる。

 久方ぶりに血が滾るのが分かる。

 私はペロリ、と舌なめずりをして笑う。 この男はいったいどれだけ私を楽しませてくれるのだろうか。


「……、嬢ちゃん、いったい今までどんな人間と戦ってきた?」


 男は私に質問する。


「あら、随分と物騒なことを聞くのね? どうしてかしら?」

「自分で言うのもあれだが、俺は昔から殺気を隠すのが下手だと言われてきた。それで何人もの人に怖がられてな。ここまで勝ち進んだとは言え、俺ほどの殺気を受けて嬢ちゃんみたいな歳の女の子が笑うのは少し不思議に感じたから、だな」


 男は警戒心を緩めずに質問してきた。

 これが本物の戦場なら悠長に会話している暇はないだろう。これが、これこそがこの剣戦祭の醍醐味だと内心で笑う。


「それは乙女の秘密、ですね」


 ウインクを飛ばし、日傘を構える。

 中棒に取り付けられた引き金を引けば、日傘は一瞬で小銃と化した。

 銃弾が男に向かって飛翔する。

 すんでのところで躱したようだが、弾はホーミングしてUターンをするように再び男を狙った。


「うおっ!?」


 完全に油断していたのか、弾を食らって吹き飛ぶ男。

 だが以外にも、その一撃を食らったはずが男はほぼ無傷で立ち上がった。

 この男、……確かディエゴと言ったか。思ったよりも存外タフなようだ。


「よく今のを受けて無傷だったわね?」

「ははっ、無傷なわけがないだろう。なんて言ったって魔力のこもった弾だ。受けた限りだと防御貫通術式と追尾術式、それに毒まで塗ってあったかな?」


 ……素晴らしい。はっきり言って感服した。

 今の銃弾を絶った一撃受けただけで三種類のデバフを分析するとは。

 今まで、三十二種類中デバフの種類を分析されたのは最高で七種類までだ。しかも、分析に五年もかけていたのが、この男は一瞬、たった一瞬で解析を終えてしまった。

 できることならこのディエゴとやらとずっと戦っていたい。

 しかし、制限時間もある。

 決勝にと残してある切り札は置いておいて、それ以外で最強だと思うものをぶつけることにした。


「スキル[金縛の魔眼]」


 態勢を整え剣を構えたばかりのディエゴに向けてユニークスキルを発動する。

 これはスキルを発動したときに目を合わせていた相手を行動不能にするというものだ。

 ディエゴは剣を構えたままの姿勢で目を見開いたが、言葉は発することができていない様子だった。


「いくらあなたでも、これは防げなかったようね。残念だわ」


 ゆっくり近づき、そっと頬をなぞる。

 金縛りの中、ディエゴの肌が粟立った。


「『心臓潰し(ハートクラッシュ)』」


 私の魔法が発動し、黒い霧がディエゴを包む。

 これで、勝負は決しただろう。

 あわよくばこの霧の中から生還することを願うが、魔眼で動けない状態ではそれもかなわないだろう。

 この男も私を満たす器ではなかったと興味を失い、私は会場の外へと向かった。

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