72.反省会
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新しい魔法を覚えられないなら練習しても意味がないということで、一旦ホテルに戻ることにした。
部屋に戻ると、既に夕飯を済ませた後であろうケーナちゃんが出迎えてくれてた。
「結局、サイエンさんはあの後一人で何をしてたんですか?」
少し訝しげな視線を向けられ、言葉に詰まる。
今までは、ここで説明することを避けた結果あんな風に仲違いしてしまった。
今回は、そんな前回のような失態は犯さないためにも説明しようと心に決めた。
「実は……」
そう言って俺は持っていたハヤトの本を出す。
「これは……」
「あぁ、ケーナちゃんも知ってはいると思うが、これはケーナちゃんが買ってくれた魔道書だ」
「……これが、どうかしたんですか?」
ケーナちゃんは不思議そうにこちらを見る。
「実は、これの作者とさっき会ってきた」
俺はその後に、無理やり向こうがこっちに来ただけだけどな。と付け足す。
「……この本の著者、ですか……」
ケーナちゃんは表紙を眺めたりページをペラペラとめくりながら呟く。
「どんな人だったんですか?」
「……とにかく強そうな男だった。名前はハヤト・クレセントって言うんだがな────」
俺がそう言うと、ケーナちゃんは表情を変えてこちらに迫ってきた。
「ハヤト・クレセントと、そう名乗ったのですか!?」
俺はその気迫に気後れしながら、おうと頷いた。
「ハヤト・クレセントというのは、何十年も前に剣戦祭にて優勝した有名な武人です。格闘だけでなく、誰もが目にしたことのないような魔法で周囲を圧倒したと聞いています」
その噂にある誰も見たことない魔法というのはつまり、物理を利用した魔法ということだろう。
そして、それほどの使い手ならなるほど確かにあれほどの覇気を放つのも頷ける。
「それでなんだが、数の教団、っていう組織は聞いたことあるか?」
俺は彼が創設したという組織についても合わせて問いかける。
「数の教団ですか。……あまりいいい噂は聞かない人たちですね……」
いい噂は聞かない、か。
「例えばどんな噂だ?」
「そうですね……。数の教団に一度入団したら最後、教団全体の意思に反する行為をしたものたちは死ぬよりひどい苦痛を受けると聞いています」
死ぬよりひどい苦痛……。一体どんな行為が行われるのか気になるところではあるが、それを知るためだけに入団するのはどうやら危険そうだ。
「数の教団がどうかしたんですか?」
「いや、噂を聞いたからどうなのかな、と思ってね。やっぱりろくでもなかったさ」
俺は適当にシラを切りつつ、後のことを考える。
あの教団に入団はできない。それは確かなんだが、反抗をすればたちまち俺は殺されてしまう可能性がある。
……これは、本格的に積みそうだ。とにかく、次に彼が接触してくるまでに何か答えを出しておかなければまずいな。




