71.偽りの神
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……果たして俺は神を信じているのだろうか。
たしかに戦闘中等のタイミングで神を恨んだり、神頼みをしたりはしていたかもしれない。
「まぁ、部分的にってところか?」
アキネータみたいな返事を返しつつ、俺はハヤトを見つめる。
「そうか。……じつはね、我々は教団とは言いつつも神は崇拝しないんだ」
「というと?」
俺が質問すると、ハヤトはそれに頷いて続きを話す。
「地球上で神と謳われたゼウスやヤハウェ、シヴァ等は全て人の思考を操作するために創られた偽りの神なんだよ。教皇やそれに準ずる人物が民を思い通りに扇動するための、ね。では我々は何を崇拝するのか? 答えは明白だ。我々は数を崇拝する。なぜだかわかるかい?」
ハヤトは俺の目を見て聞く。
数を崇拝する理由か……。正直想像しにくいな。数字はなにかをしてくれるわけじゃない。……まぁ、神がなにかをしてくれるかと言ったらそれも怪しいものがあるけどな。
「いや、わからない。なぜ数を崇拝するんだ?」
「……生物学や物理学、それに化学や医学は、何億と試行して数パターンだけ他と違う結果が出ても大半の結果が予想通りならそれらの学問は公式や定義を『確からしい』と評価する。それと比べ、数式はどうだ? 数多くの学者がどれだけ試行したところで正しい公式ならば答えは絶対にずれない。なぜなら、答えが合わない数式ならそれは公式と呼べないからだよ」
……ほう?
たしかに、数学の場合公式が認められるためには証明をし、全ての学者がそれを認めなくてはならない。
いわば、反例が上がってしまった時点で数式として認めてはもらえないのだ。
が、それが数を崇拝する理由と何か関係があるかと聞かれれば繋がりは見えにくい。
俺が無言を貫いていると、ハヤトはさらに続けた。
「数式こそが唯一正しきレールの上に積み重ねれられた、絶対の概念だ。そして、その概念を生み出すことができるのは覇者の器を持つものだけ。そして、君にはそれがあるんだ。君は概念を生み出すことができる。……我々はね、数式こそが唯一正き絶対の神だと考えているんだよ」
「それが教団の理念ってやつか?」
俺の質問に頷きで返すハヤト。
「いいかい、この世界を指揮しているのは偽りの神なんだ。……だが、君とならこの統治者を倒すことができる。常識を改変できるんだよ。どうだい? 教団に入る気はないか?」
つまり、覇者の器を持つものはこの世に新たな概念を生み出すことができる存在ということか?
……そんなことができれば、まるでどこかの魔法少女アニメで出てきた「円環の理」みたいなものを作り出すことだってできるのだろう。
本当にできるのならば、だけどな。
……とにかく、器を持つものがどういう存在なのか、それについてはだいたい理解した。……俺がどうしてそんなものに選ばれたのかなんていうのは全く想像できないが。
「……考える時間が欲しい」
「ああ、いいとも」
ハヤトは不気味な笑みを浮かべて許可をしてはくれたが、その雰囲気は考えた末に参加しない、という選択を取ることは許されない雰囲気を放っている。
「最後に一つ、俺が魔法を新しく覚えられない理由を教えてはもらえないだろうか?」
「……それはできない。さっきも言ったが、それを教えるのは君が教団に入ってからだよ」
やっぱり、聞き出すことはできないか。
そう思って別れを切り出そうとすると、ハヤトはだが、と前置きをした。
「ヒントをあげよう。今の君にはRAMが足りない」
「RAM……?」
俺は聞き返してみたが、それに対してのレスポンスはもらえなかった。
「それではまた近いうちに会おう」
ハヤトは俺がもっと詳しいことを質問しようとする前に視界から消えた。
「……転移魔法、か?」
俺はそんなことを思いながらさっきの言葉の意味を考える。
RAMが足りない、というのはおそらく比喩だろう。そして、その比喩が意味しているものとしてもっとも考えられるのは俺の脳みその処理能力について、とかだろうか。
そうだと仮定するならば、ハヤトは俺の処理能力が追いついていないせいで新しい魔法が覚えられないと、そう言っていた訳か?
……たしかに、魔法を覚えれば覚えるほどに求められる処理能力はどんどん増えていくだろう。
「つまり、今の俺では魔法は三つまでしか使えないと、そういうわけか……」
想定していなかった壁にあたり、俺は頭を抱える。
どんな作品だろうが、主人公が魔法を覚えようとしたらスッと覚えられるだろ!! と誰に届くでもない叫び声を心の中であげた。
ってことは今後は新しい魔法を覚えて戦うというよりは、今ある魔法の組み合わせだけでどれだけ戦えるかっていうことにシフトした方がいいかもしれない。
これはまた、難しいことを押し付けてくれるな。そろそろ新しい戦法を編み出すのはきついぜ?




