68.見繕い
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何事もなく宿舎に戻ってきた俺たちは、夕食に行くようにと半ば強引にケーナちゃんとグランツェを宿舎に戻した。
「……わかった。知ってしまった。今の俺は新しい魔法を欲している」
心の裡から湧き上がる力を求める声。
今の俺には、今まで習得してきた三つの魔法の他にも新しく魔法を習得する必要がある。
今後はもちろん戦わないのが一番だが、マリーやそれ以上の敵が現れないとも限らない。
それに、敵意かどうかは知らないがプロト・ネロとかいう男にだって物珍しげに観察されていたんだ。
彼が敵に回る可能性を考えた時、いち早く魔法を覚えておいたほうがいいのは当たり前だ。
幸い俺はすでに魔法を三つは覚えており、それを応用した結果二つ目三つ目は効率よく習得することができたのだ。
それに、前と比べて魔法を使った実戦経験も十分に積んだはず。
俺は四つ目の魔法を習得するべく、今まで同様に魔道書を開いた。
……現在習得している三つの魔法。
これらは全て完全に攻撃によっているかと言われれば、イエスとは答えきれない。
守護結界は攻撃への転用も可能だが、それも限度がありこいつで攻撃をしようとするなら防御は捨てることを選ばなくてはならない。
二つ目は秩序逆転魔法。これも使いこなせれば莫大なエネルギー効率を得られるだろうが、簡単な転用先が思い浮かばない。核兵器を可逆変化で爆発させようものならどれだけの規模になるかわかったもんじゃないが、そもそも俺はそれだけの兵器を開発できるようなエンジニアだったわけじゃない。そこら辺のスクラップからオーバーテクノロジーの兵器なんて生み出せるわけもないんだ。
最後に凍結魔法。今のところはこれが一番攻撃に応用できるだろうが、直前に触れた液体を凍らせることができる、という制約付きだ。
出血元の傷口にでも触れたなら相手の全身の血液を凍らせることもできるだろうが、そんな隙を与えてくれるとは到底考えられない。
こうやって並べて考え、新しい魔法はどれがいいかと思案する。
……こちらの世界に来てからまだ一年、それどころか半年もたっていないはずなのに、この世界の概念にも随分と慣れたものだなと思う。
魔道書に書かれている魔法も、読んでみれば使いこなせはしないもののどんな風に魔法が発動してどんな風に作用を及ぼすのかはなんとなく想像できてしまう。
慣れって怖いな。
ペラペラとページをめくりつつ魔法を探すと、ちょうど真ん中のあたりで手が止まる。
「低周破動……」
音響魔法の一種か。……そういえば聞いたことがあるな。
閃光弾、俗に言われるスタングレネードとかいうやつは、光と音を発生させることによりその周辺にいるものたちを一時的に麻痺させ、容易に対象を制圧することができる兵器だとか。
もしもこいつを実用化できたのなら、俺は隙を作ることができるかもしれない。
そもそも他の魔法を習得しようとしていたのは現状の魔法だけだと隙をつけなかった場合に勝利どころかまともな戦闘になるかどうかすら怪しいってことで、隙を作れるならこれに越したことはない。
俺はその魔法を今から練習することにした。




