66.賢者の苦悩
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あまりにもあっけない。
アインツから放たれる覇気は並々ならぬものだと思っていたし、そう簡単に勝てるような相手も出てはこないだろうと予想していたが、それにしてもあっけなさすぎた。
「あんな化け物に勝てというなんて、会長は人が悪い」
『私の右腕である君が、今や魔術協会でトップクラスの魔道師だろう。そんな君が剣戦祭に参加してくれれば、我々はどの程度のレベルの事件まで対応できるのかが把握できる。これは町の治安を維持する上で思ってもみない機会じゃないか?』と言われ参加の手続きをしたはいいが、まさかこれほどまで残るとは思っていなかった。
秘密裏に組織された国営機関なので成績を残す必要はなかったのだが、予選のレベルはあまりにも低すぎてそんな奴を相手に敗北するのは彼の名が廃った。
そんなこんなで本戦まで駒を進めてしまったというわけなんだが、どうにもアインツには勝てる気がしない。
「それでは準備が整ったようなので、本戦Bブロック決勝戦を始めたいと思います!!」
扉の向こう側では司会者のアナウンスが聞こえる。
全く、今から憂鬱だ。
「海上都市ポジッショネルからはるばるやってきた伝説の魔道士、プロト・ネロ!!」
会場から歓声が湧く。
全く、私はこうやって凱旋もどきをするような柄ではないのだけれど、と思いつつ目の前の扉をゆっくりと押しあける。
「対する選手は、我らがヴァラン国の戦士、コロッコ!!」
私がいつでも戦闘できるポジションに立つと、その正面からごっつい男性が入場してくる。
……その男性から覇気は感じられない。
もちろん殺気は放っているが、それも本当の殺気ではない。例えるならチンピラが自分より格下の相手から巻き上げる時にやるような、仮初めのものだ。
「おい、にいちゃん。そんなに上の空だと俺には勝てないぜぇ?」
両手で扱うような巨大な剣を、片手でくるくると振り回す。
……それが弱いものならば威圧にはなるだろうが、生憎私はこの程度の人種は大量に見てきて今更なにかを感じるまでもなくなってしまった。
「それでは、試合開始ッ!!」
「大斬!!」
男が大剣に魔力を込め、異常な出力を出す。
その剣を危なげなく回避すると、私は魔法を唱えた。
「『視界簒奪』」
私が魔力によって地面から砂を巻き上げ、大男の視界を奪う。
「はぁ!? おい、卑怯じゃねぇのか!?」
大男がたまらず声をあげるが、ルール無用のこの戦いにおいて卑怯な手というものは存在しない。
なればこそ、視界が奪われた時点で勝機は一瞬にして遠のく。
「スキル:視ル者」
私が試合に蹴りをつけるため、生涯をかけて手に入れた『ユニークスキル』を使う。
サンドストームは、このスキルを活かすために作った魔法だ。
お互いに視界が奪われた状態の筈がなのだが、私にははっきり相手が見える。
正確には輪郭が赤く光っているといったほうが正しいか。
このスキルは、発動中は視界の効かない場所や壁越しに人を見ることができるようになる、というものだ。
私はその光を頼りに、男を後ろから突き刺す。
「はぁッ!?」
男は口から血を吐くと、そのまま地面に倒れ伏してしまった。
「し、勝者はプロト・ネロ!! 一瞬、まさに一瞬の出来事でした!」
所詮はこんなもの。
雑魚と渡り合うのに多くの魔法は使う必要はない。
会長からメンバーを見繕ってきてくれとも頼まれているが、そんなに都合よく我々の協会に入会してくれそうな人物はいないだろう。
観客席を見渡しながらそんなことを思う。
そして視界が半分に到達したあたりで、私はあり得ないものを見た。
「あの少年……」
おかしい。明らかにおかしい。
属性の色が分からず、なのに魔力量は異常ときた。
私は他人のオーラの色から適正の出ている属性がある程度は把握できるのだが、あの少年に至っては全くもって分からない。
これは、思わぬところで逸材を発見してしまったかもしれないなと内心でほくそ笑む。
……だが、それだけでは足りない。
我々の協会に招くためには、もっと見極めなくてはならないな。
私は入ってきた扉に無言で歩き出し、早速会長に連絡を入れるために急いだ。




