65.強さ
1
開始の合図とともに、鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が会場全体に響いた。
試合が始まる直前までお互いの距離は十メートル以上空いていた筈だ。
その距離をお互いが一投足の間で詰めたという事実が俺に鋭く突きつけられる。
……、思い知らされた。
初戦でこれほどの強さを一端だけであれ見せつけられ、敵わないと無理やり分からされる。
ハーキンくんに勝てたのは、彼がまだ多くの戦術を知らなかったからで。
マリーに勝てたのはたまたま相手の虚をつけただけで。
マリーのそばにいたジェイルとかいう召使いにだって、ケーナちゃんがいなければ俺が生きていたかどうかさえ分からない。
しかし、逆を言えば一度だけだったとしても敵う相手だった。
だが、目の前で戦っている二人の戦闘は見ているだけで殺気を感じるような、自分よりも何段も、何十段も格上の存在だとわかってしまう。
一度でも戦うことになれば、向こうが手加減してくれても勝てるかどうかさえ怪しい存在。
考えている間にも、戦いは展開されていく。
お互いの攻防が激しく入れ替わり、剣が擦れる勢いで火花が散る。
「『聖女の剣術、聖斬封』!」
アインツが一瞬距離を取った瞬間、チャンスだとばかりにアーゴラに向け大技を放つ。
動きは居合斬りとほとんど一緒だが、その結果は地球とは全く別物だった。
その先端からは剣先の軌道から放たれるようにソニックブームのようなものが飛ぶ。
そのスピードはとても目で追えるようなものではなく、俺が食らっていたなら抵抗もできずに重傷を負いそうなものだった。
が、アーゴラはまるでそれを予想していたかのように最低限の動作で上方向にかわすと、その距離を一瞬で詰め腰の短剣を振りかぶった。
居合斬りを放ったばかりのアインツにその攻撃は防御不可能に見えたが、その左腕を犠牲にして間合いを取ることで立て直した。
アインツの左手を見てみると、おびただしい量の血液が出血し……てはいなかった。
「身体強化……」
ケーナちゃんがポツリと呟く。
「去年の試合ではとっさの防御で負傷し、危うく敗れそうになったのが一度だけあったんです。でも、まさか一年足らずでここまで仕上げてくるなんて……」
ケーナちゃんは感動したようにほう、と息を吐くと、再び試合に夢中になった。
魔法を一年で習得するにしても、とっさに出るようにするためには長い訓練が必要だろう。
俺は守護結界とその他二つほどしか魔法が使えないからいいが、熟練の戦士となると使える魔法や技の種類も自然と増え、その分選択肢も増えていく筈だ。
それをとっさに出るようなレベルまで修行するのは俺なら一体どれだけの時間がかかるのだろうか。
そう考えるとなるほど確かに、一年でここまでの完成度ははっきり言って異常だろう。
純粋な腕力等もさることながら、どのタイミングでどういう立ち回りをすれば良いのかということを考えながら戦うその姿を見て俺は学んだ。
今まで小手先だけでやってこれたものの、それだけでは勝てない敵も出てくるということを。
……いや、そんなことは前から気づいていたのかも知れない。
だが、いつもギリギリで勝ててこれたのと、『自分は頭脳だけがあれば勝てるのだ』という慢心から体力づくりのことは完全に頭の外側に押しやっていたのだ。
今後はそんな機会がやってこないとも限らないので、だれか劍術のプロフェッショナルに教わらなければならないな。
「『武具、光学迷彩』ッ!」
空いた距離を詰めようとするアーゴラの目の前で、アインツは魔法を使う。
すると、その姿が一瞬にして消えた。
アーゴラは急制動をかけると、周囲を見渡しながら攻撃態勢を続ける。
「どこだッ、ねぇちゃん!!」
アーゴラが声をあげるが、返事はない。
数瞬後、甲高い音が鳴ると同時にアーゴラの鎧が地面に落ちた。その目の前にはクビに剣を突きつけるアインツ。
アーゴラは諦めたように首を振ると、両手を上げて降参を宣言した。
「Aブロック決勝戦勝者、アインツ・ヴィオラ!!」
アナウンサーが宣言すると、会場が一瞬にして歓声に包まれる。
舞台の中心では、物憂げに勝者を見つめる敗者と、困ったような表情の勝者が立っていた。




